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第百八十八話 サハギンの町

これまでのあらすじ

現代を生きていた忍者シノブはひょんなことからクラスメートと異世界に召喚される。異世界の帝国で知り合った第三皇女は強い呪いが掛けられており調査によって呪いを解く鍵が港町ハーフェンにあるとわかり第三皇女を連れて帝国から離れる。一方シノブの親友であるケントは帝国の怪しい空気を感じ取り仲間と帝国を脱出し、シノブを追いかけることにした。シノブに追いつくには川を利用するのが早いと考え、ケント一行は船を手に入れる為にウーファシッフの町へ向かう。だがその途中サハギンに襲われる商人達を目にし彼らを救出したのだった。

「いや、本当に助かりました。なんとお礼を言ったらよいか」


 サハギンを全て片付けたことで、傭兵は勿論、この場の纏め役らしい商人の男性にも感謝された。彼らはいわゆるキャラバンであり、町から町へ移動する商人の団体である。


「ところで皆様はどちらへ?」

「……ウーファシッフを目指している」

「なんと、そうでしたか。実は我々もそうなのですよ。ならば町までもうすぐではありますが、ご一緒させて頂いても? 勿論、今回の件も含めてお礼は弾ませてもらいますよ」

「……お礼か……なら金はいらないから、いい船大工を紹介してもらってもいいか?」

「え? 船大工ですか? 勿論こういう商売ですから知り合いはいますが、もしかして船をお探しで?」

「……あぁ、どうしても一隻欲しいんだ」

「そうでしたか。わかりました! あの町一番の船大工を御紹介しますよ!」


 こうしてケント達は、ひょんなことから知り合ったキャラバンと町へ向かった。その間も何体かのサハギンに襲われたが全て撃退し――目的地のウーファシッフにたどり着いた。


 ウーファシップは川に囲まれた町だ。元々は二本の川に挟まれた土地を開拓し町としたが、そこから更に川を分岐させ、四方を川に囲まれるような形にした。そこからさらに町の中へ川の水が流入し、町中に水路網が築き上げられている。


 水路は町が映えるよう計算されて敷かれているようであり、そのためか美しい街並みが広がっていた。


 商人の話ではいつもは水路に浮かび漕がれて進むゴンドラが多いとのことだったが、今見る限り一隻も見当たらず少々困惑しているようでもあった。


 ケント一行も気になりはしたが、とりあえず助けた商人の案内でこの町一番の船大工の仕事場へ向かった。


「アクアさんいるかい?」

「なんだ、ダイルさん。随分と久しいじゃないか」


 連れて行かれたのは大きな水路に面した船渠だった。建造した船がすぐに出れるよう川が近い位置に設置されている。


 中々の広さで、十隻程度の船は上架して置いておけそうだ。 

 それにしても、と一様にアクアを見やり。


「驚いた。女性の船大工なんだね」

「あん? 女が船大工してちゃ悪いのかい?」

 

 リョウの発言にアクアが眉を怒らせた。どうやら彼女の神経を逆なでる一言だったようだ。船大工として女扱いされるのが嫌なんだろう。


「……氣を悪くしたなら許してくれ。本人も悪気はないんだ」

「はは、でも驚くのもわかるよ。こんな美人さんが船大工をしているなんて、水の女神様だって思いもよらないさ」

「ふん、からかいに来ただけならとっとと帰ってくれ」

「おっと、ごめんごめん。勿論ちゃんと用はある。実は彼らが船を一隻必要らしくてね」

「船だって?」

「……そうだ。俺たち五人が乗って、川を渡航出来る船が一隻欲しい」

「なぁアクア、頼みを聞いてはくれないか? 実は彼らは私の命の恩人なんだ。できれば、私の顔で手頃な価格で頼むよ」


 何気なく船の建造だけではなく、値下げ要求までしてしまうあたり、流石商人だな、とケントは感心するが。


「……悪いけどそれは無理な相談だね」


 一瞬考える様子は見せたが返事は早かった。勿論この答えはケントの望むところではない。


「……そう言わず、なんとかお願い出来ないか? もし値下げが厳しいなら適正価格を提示してほしい。俺たちも全く予算がないというわけではないんだ」


 ケントが言うように、元々帝国から支給されていた金銭はほとんど手付かずで残っており、更に途中で倒した魔物の素材などを売ってもそれ相応の金が入るだろう。それでも足りなければ町で請け負える依頼や狩りをしてでも金を揃えるつもりはあった。


「悪いが無理だ」

「おいおい、ちょっと待ちなよ。なんだいその言い草は。こっちは別に冷やかしで来てるわけじゃない。本気で船を購入しようと思って来ているんだ。それなのにその態度はないんじゃないのかい!」


 横で聞いていたバーバラがムッとした表情で口を出した。アクアが顔をバーバラに向けると互いの視線がぶつかりあった。バチバチと火花がぶつかり合っているような様相である。


「ば、バーバラさん落ち着いて、ね?」

「そ、そうですよ。喧嘩をしにきたわけではありませんし」


 そんなバーバラをなんとか宥めようとするチユとカコである。一方リョウはビクビクとした顔で様子を見ていた。


「……悪いな。だが、本当に船が必要なんだ。なんとかならないか? 金額は言ってくれれば例え足りなくてもなんとかする」

「……はぁ、全く。いいかい? これは金額の問題じゃないのさ。現状船を造るのがそもそも無理なのさ。大体あんた町の様子を見て妙に思わなかったかい?」

「……妙?」

「あ、そういえばゴンドラが一隻も無かったねぇ。あれは確かにおかしいなと思っていたんだけど」


 そういえば、とケントは商人の彼が言っていた事を思い出した。



「……ゴンドラがないことと、船が造れない事が何か関係しているのか?」

「あぁ、それは」


――キャーーーー!


 その時、船渠の外から絹を裂くような女の悲鳴が発せられた。アクアの目が見開き。


「くそ! またかい!」

 

 そして彼女は近くに置いてあった鉄槌片手に表へと飛び出した。何事か、とケントとバーバラも後を追い、少し遅れる形で他の三人も続いた。


「この野郎!」

「グギョッ!」

「……こいつは――」


 見ると、一人の女性に覆いかぶさっていたサハギンをアクアが鉄槌で殴り飛ばしていた。


 だが、問題はそれだけではなかった。なぜなら多くのサハギンが水路から飛び出し、人々に襲いかかっていたからである。


「くそ、今日はまた多い。あんた達、悪いけど戦えるかい?」

「……勿論だ」

「あたいは傭兵だよ。むしろこういう腕っぷしのいるのは大歓迎さ!」

「はは、僕はあまり得意じゃないけど頑張ります」

「今、付与魔法を!」

「怪我人がいれば、私が回復します!」

「へぇ、これは驚いた。揃いも揃って威勢がいいじゃないか。気に入ったよ。なら頼んだよ! この町の傭兵たちも動いているはずさ!」

「……判った」


 そしてケント達はサハギン退治に乗り出した。アクアも鉄槌片手によく戦っている。


「サハギンは女性を特に好んで狙います。女性の皆さんは特に気をつけて!」


 ここまで案内してくれた商人が忠告してくれる。ケントは振り返り一揖した。


「女の子はリョウ、あんたが守りな!」

「え? ぼ、僕!?」

「あたいとケントは一箇所に留まってられないからね!」

「だ、大丈夫だよ! カンザキ君もバーバラさんも安心して。身を護る魔法は使えるから!」

 

 チユがぐっと拳を握りしめて言った。ケントはコクリと頷く、次々現れるサハギンをその拳で地面に沈めていく。


 バーバラも斧で派手にサハギンを両断していった。サハギンは決して弱い魔物ではないが、ここまで様々な相手と戦ってきた二人にとっては敵ではない。


「僕だって! インパチェンスボム!」


 一方リョウについても、自然魔法によって生み出した植物でやってくるサハギンに応戦していた。巨大な花が弾け勢いよく飛び散った種が弾丸となってサハギンどもを仕留めていく。


 更に緑の壁がサハギンの進行を妨げ、蔦によって捕縛され、地面から生えた鋭い草がサハギンの脚に刺さったりとうかつに近づくことが出来ない。


 カコは目につく冒険者に付与を与え、チユは怪我人の治療の為に動いた。

 

 そして1時間程経っただろうか。サハギンの姿はついに途絶えた。


「……やれやれなんとか倒したな」

「なんとかって、あんたかなり余裕あっただろ?」

「それはバーバラさんも一緒に思えるよ。やっぱり二人とも凄い!」

「傭兵のみなさんも褒めてましたね」

「町の皆からは感謝されたよね」


 確かに町に大量に出現したサハギンを倒すのに一行の活躍ぶりは目覚ましかった。

 ケントとバーバラは勿論だが、実は他の三人もかなり評価されている。


「あぁ、本当にすごかったし助かったよ」

「……貴方も相当なものでしたよ」

「よしてくれ貴方とか、普通にアクアでいいよ」

「……ならアクア。確認なんだが、もしかして船の件はあのサハギンが原因なのか?」

「あぁその通りさ。何せあのサハギンが現れたおかげで船も大分やられてしまったしね。ゴンドラがないのもそれが原因さ。うちも大分職人がやられてね。その上怪我が治った後もサハギンの件があってとても仕事にこれる状況じゃないのさ。他も似たようなもんだと思うけど、あのサハギンのせいで仕事にならない」


 やっぱりか、とケントは頷いた。どうやらサハギンのことを解決しなければ船どころではなさそうだ。


 そう思っていたその時だった。


「あ、いた! あんた達良かった。頼む、すぐに傭兵ギルドまで来ては貰えないか? サハギンの件で是非マスターが話したいと言っているんだ」

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