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第百八十話 忍者と侍

 三人の激しい斬撃、次々と繰り出されるその太刀筋は鋭くそして速い。

 武気を全身に漲らせた効果だろう。忍術でいえば体遁に近いが、強化率はそれよりこっちの方が高いか。


 もらったーー! と一人の攻撃が遂に俺の首に振り下ろされた、が、その瞬間霧状になった俺の身体が霧散し――


「ふぅ、中々の剣術だな。驚いたよ」

「な!?」

「くそ、空蝉の術か!」

「落ち着け、今のは見極めた。次はない」


 見極めたね……まぁ正確には霧遁の霧空蝉の術なんだけどな。丸太の代わりに霧だし。


 とりあえず距離をとって仕切り直しとなる。すると、様子を見ていたマイラが先ず後ろから声を上げ。


「あ、あたしも加勢するっす!」

『我はシェリナ様を守るのじゃ』

「あぁ、ありがとう。それなら基本俺が相手するから、ネメアはシェリーをマーラとイズナはパーパさん達を守っていてくれ」


 援護を申し出てくれたが、忍者や侍相手に予備知識なしだと厳しいだろうからな。

 ここは基本様子を見ておいて貰ったほうがいい。


「わ、わかったっす」

「アンッ!」

「何かいつも申し訳ないです」

「お、お姉ちゃんもお兄ちゃんも気をつけてね!」


 パーパが面目なさげにしてたが、俺たちの仕事は護衛だから、二人を守るのはむしろ当然。とにかくシェリナも含めて馬車に避難してもらう。

 これでネメアとマイラで協力して馬車を守れるだろう。


 尤も、そこまで近づけさせる気はないけどな。相手は三人だが、俺の後ろには絶対にいかせない。


「壁で囲ったのは失敗だったな。これでお前たちも逃げ場を失ったぞ」

「アホか。お前たちがみすみす飛び込んできたってだけの話だろ? 逃げ場がないのはあんたらの方だ」

「随分な自信だな」

「だが、多少忍術が使える程度で調子に乗りすぎだ」


 ある程度の距離をとって三方に散った侍たちが、ジリジリと距離を詰めてくる。

 息を吸い、吐く、攻めるタイミングを見計らっているといったところか。


「しからば――参る!」

「雷遁・貫電の術!」

『ぐおおおぉおおぉぉおおおぉおお!』


 三人(・・)の絶叫が揃う。プスプスと三つの煙が縦に重なるように昇っていく。


「ば、馬鹿な、なぜ、判った――」

「忍者がそんな初歩的な手に引っかかるかよ」


 侍達は随分と驚いているようだが、俺からすればそこまで難しいことではなかった。


 ただ後ろで見ていたマイラは、ふぇ? と疑問の声を上げている。

 一旦三方に散った筈の三人が、俺の目の前で重なり合うように倒れていったからだろう。

 

 これはつまり、一旦散ったと見せた三人が、実は先頭を走ってきた侍の後ろに引っ付くようにして並んでいたということだ。


 こうすることで、俺が初太刀を受けるなり、避けるなりの反応に合わせて連携して攻撃を決めに来るつもりだったんだろう。

 

 最初から三人が別々の場所にいると思いこんでいれば、俺の動きもそれに対応したものになる。つまり全体を満遍なくみようとするから、逆に気がついていなかった残り二人への対応は遅れる、とそう踏んでいたわけだ。


 結論から言えば、散ったと思っていた別の二人は気配だけを独り歩きさせたものだ。

 侍が得意としている武気術の一つなのだろう。


 そして同時に本体は気配を消し、相手から認識されないようにする。それが手なのだろうけど、流石にそれを忍者たる俺に行ったのは愚策だったな。


 気配を消すなんて忍者なら息を吐くように行えるものだし、下手な侍じゃ忍者の域まで気配を消すなんて不可能だ。


 そして当然その分、俺たち忍者は相手の気配にも敏感だ。こいつらの飛ばした気配が本体ではないことも、一人に見せかけて気配を消した二人が並んでやってきているのもバレバレだった。

 

 後は、貫通力のある忍術を行使すればそれで決まりだ。何せわざわざ三人一列に並んでやってきたのだから。


 雷遁・貫電の術はこの相手には打って付けだったな。

 何せこれはまさに相手を貫通する電撃だ。


 そんなわけで、とりあえずこの三人も倒したことをマイラ達に告げる。


「ず、随分とあっさりっすね」

「俺の土俵にわざわざ立ってくれたからな。あれなら三人バラバラに攻撃された方が、もう少し厄介だったかもしれないけど」

「ど、土豹、すか? 何か土の魔法で使ってきそうな豹っすね」


 あぁ、そういえば異世界に土俵があるわけないか。


『ところでもう一人いた筈じゃが、どうするのじゃ?』

「あぁ、それなんだけどな――」






◇◆◇


「中の様子はどうなっている?」

 

 先刻、行使した水遁の術が石の壁に阻まれてから、随分と時間が経った。

 尤も、こういった戦闘の最中では一分一秒が長く感じられるものであり、実際のところは随分と言っても十分かそこらといったところであろうが。


 あの壁の中では、俺達に任せろと飛び込んでいった侍の三人があの忍者と戦っているはずだが。


 そんな事を考えていると、ガラガラガラッ、という音を奏で、目の前の石壁が崩れ落ちていく。


「終わったのか?」


 目を細め、先の様子に注目する。石壁は土遁によって生み出されたものだ。

 それが壊れた場合、可能性としては術者が解いたか、もしくは死んだか、意識を失ったかのどれかが考えられる。


「……相打ちか――」

 

 忍が呟く。視線の先では取り残された馬車。その両隣には魔獣と女剣士が倒れている。

 どうやら気を失っているようだ。

 

 男から見て馬車より五、六メートルほど前方には、怪我を負い倒れた忍者の姿。服の内側に鎖帷子程度は着込んでいるだろうが、保護されていない箇所には痛々しい傷の痕。


 だが、倒れているのはそれだけではない。あの三人の侍も倒され、気を失っているようだった。


 三人はあの忍者を取り囲むように倒れていた。刀を振った形跡も感じられる。


 おそらくはあの三人が得意としていた三位一体の攻撃を仕掛けたのだろうが、相手の忍者もただではやられず、なんらかの忍術で最終的に相打ちまで持っていったというところだろう。


「まさか死んでないだろうか?」


 独りごちつつ近づく。ここで殺してしまっては元も子もない。

 中々の実力者なのは確かであるし、連れ帰って戦力として役立てる必要がある。


 倒れている忍者の側まできた。そしてその姿を確認する。


「気を失っているだけだよな?」

「残念、外れだ」

「は? グフッ!」


 忍者の目が開かれ、かと思えば男の腹部に衝撃――うめき声を上げ、身体がくの字に折れ曲がり、間髪入れず後頭部に衝撃が走り、男の意識は刈り取られた。






◇◆◇


 やれやれ上手くいった。それにしてもここまであっさりと引っかかるとはね。


 倒れた忍びを見おろす。完全に意識は断ってるな。

 

 慎重な奴だったなら、忍術で確認ぐらいしてきたかもしれなかったけど、まぁ自傷の術でそれっぽく見せていたし、攻撃されたように見えるよう気を失った侍の位置も変えて細工した。


 あとは近づいてきたところで体術で粉砕。こういうのは単純な手ほど引っかかりやすいって事だろう。


 さて、協力してくれたマイラとネメアにも感謝だな。

 もういいぞ、と声をかけようとしたけど、二人とも既に気絶する振りはやめていた。


 ただ、なんか俺に対する視線が微妙な気が……。


「ふたりとも何かあったか?」

「いや、何かというかっす……」

 

 マイラが倒れた忍者と俺を交互に見る。


「……決め手が、死んだふりっすか――」


 いや、死んだ振りだけど?


「クゥ~ン……」


 え! 何? なんでいずなまでそんな、ガッカリだよ、みたいな目を向けてくるの!


『流石忍者、汚いのじゃ』


 いやいや! こんなの忍者の世界じゃ常識だからね! なんでそんな蔑まされてるの俺!


『わ、私は、例え卑劣でも正義の為に手段を選ばない、仮面シノビー様は素敵だと思います!』


 馬車からぬっと手と石版だけ出てきた!

 いやいや卑劣だとなんかほら、またちょっと色々と変わってくるから!


「はぁ全く。大体こんなところで俺も体力無駄に出来ないから、サクッと倒せるなら倒しておかないと。何せ相手は、後一人いるんだからな」


 え? とマイラが目を丸くする。

 その時だった、俺の立っていた箇所の土中から、大量の手裏剣が飛び出し俺に狙いを定めてきた。


「早速、お出ましかよ!」

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