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第百七十話 勘違い忍者

「ちょっと遅い気がするな……」

「うん? あぁ、でも、大きい方なら多少はねぇ」


 ほろ酔い気分のパーパが笑いながら、心配いらないよ、と言ってくる。

 でもやっぱ少し気になるな……マイラがいれば問題ないと思っていたけど。


「ちょっと俺、様子見てきます。ネメアはシェリーとパーパさんのことよろしく頼むぞ」

「心配症な奴じゃ。まぁ我がいれば何も問題がないのじゃ。追加注文して良いであろう?」


 まだ食うのかよ……。





 改めてトイレの場所を確認し、向かってみる。離れにあるとは聞いていたけど、こんな路地裏を通る必要があるなんてな。


 まぁトイレだから、比較的目立たない場所に設置されるのは仕方ないんだろうけど――路地を抜けると、道が少し広がった。


 そこで、俺はマイラとムスメの二人を発見する。

 だが、その近くに一人の人物。俺からは背中しか見えないが、上背が高く、手足がかなり長い。ひょろ長いというタイプではなく、背中が厚くて広く、骨太のガッチリとした体格の持ち主だ。


 髪色は黒。襟足が短いがもみあげは妙に長い。格好も毛皮をのまま羽織ってるみたいで盗賊がする服装のようだ。


 そして毛皮の上で目立っている二本の棒。背中で交差するように掛けられている。布で包まれているので中身は見えないが一本百五十センチメートルぐらいはあるか……。



「マーラ、ムスメさん、一体何が――」


 とにかく、二人に声を掛けてみる、と、その人物(おそらくは男と思うが)が俺を振り返った。


「――ッ!? テメエ! 今すぐその二人から離れろーーーー!」


 気がついたら、俺は地面を蹴り、一気に間合いを詰め、その男に向けて蹴りを放っていた。顔面を狙った回し蹴り。


 だが、それは腕で受け止められる。本能的に、拳を固め、殴り掛かる。数発拳をまとめるが、全て避けるか、いなされた。


「ひゅ~あんはん中々やるなぁ」

「うるせぇ! いいからとっとと!」

「ちょ、ちょっと待つっす! 何してるっすかシノビン! やめるっす!」

「そ、そうです! その方は私達を助けてくれたんですよ!」

「――へ?」


 攻撃を続ける俺の耳にふたりの悲痛な声。思わず目を丸くさせ、拳を止めた。

 助けて、くれた?


「ま、そうゆうこと。あんはん、せっかちさんやなぁ」





「な、何かすまないな早とちりだったみたいで」

「はは、え~がなえ~がな。誰でも間違いはある。それにわいはよう面構えが悪い言われとるからのう、きにしてへんわ」


 バンバンっと俺の肩を叩きながら男は言った。なんというか改めて見ると豪快な男だ。

 羅漢という表現がぴったり来そうなほどで、背は二メートルを優に超えているだろう。


 正面からみると顔も大きく、決して本人に向けて口には出さないがゴリラのような面立ちだ。


 それにしても、のびているのは三人共この男がやったのか……一応マイラとムスメから事の顛末は聞いたが、人攫い目的のならず者に目をつけられてしまっていたようだ。


 ムスメまで人質に取られていたらしいが、この男が乱入し、あっというまに三人とも拳と足技だけで叩きのめしてしまったらしい。


 長い手脚は伊達じゃないってことか。それにしても――いきなり殴りかかってしまったが、俺もこの三人が見えてればまた違ったかな? いや、実際良くは判らない。


 この男が振り向いた瞬間、背中にゾワゾワした物を感じたからだ。それで思わずこいつは危険人物だと勝手に判断してしまった。


 しかし落ち着いて話を聞いてみると、豪快ではあるが、本当に善意で助けてくれただけなようだ。

 終始ニコニコとしていて見た目と違って気さくな男である。


「おう、そうだった、わいはミキノスケ言うんや。ま、これも何かの縁言うやつやな、よろしゅうたのんますわ」


 彼は自分の名前を俺たちに告げてきた。それにふたりは勿論俺も反応する。

 何せこの国じゃまず無いだろう名前だ。


「あっはっは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してまんがな。まぁ、気持ちはわかるで。この名前、珍しいやろ? わい、東方の出やけからのう」


 東方、東の島国とかいう奴か。そういえばここに来る途中でもそっちの出とかいうのに会ったな。


「でも、あんはんも見たところ同じちゃいまっか? 髪も目も黒いのはだいたいそやねん」

「あ、あぁ。俺はシノビンといってな。まぁ、ハーフみたいなもんだが、そっちの血が濃いみたいなんだ」


 当然これも今思いついた設定だ。下手に同じ出身と言ってしまうと、東方とやらの話をされた時にボロが出かねないからな。


「なるほどな。でもまぁ、それなら同郷みたいなもんや。今日は一旦ここでお別れやけど、またどっかで会うこともあるかもしれへんしなぁ。ま、そんときはよろしゅう頼むわ」


 そういって立ち去ろうとする。何かお礼をと思ったが、そんなん気にせんでえぇ、と言い残して去ってしまった。


 う~ん、なんともさっぱりした男だ。疑いを持ったのが恥ずかしくなるほどに。

 だけど、かなりの使い手なのは確かだろうな……この三人はまともに戦ってればマイラでは負けることは無かったと思える相手だが、人質を取られてる状態から相手に何もさせず片付けたんだからな……。


 勿論、俺でも同じことは出来ると思うけど。勿論、忍者だし!


 とりあえず、この連中については衛兵に引き渡して、俺達は酒場に戻った。


 流石に俺まで戻ってこないとなるとパーパも心配になってたようで、トラブルに巻き込まれていた事を告げると顔が青ざめていた。


 それでもこうしてふたりは無事だったわけだし。とにかくそこからは食事も適当に切り上げて、約束通り俺が食事代を出し、宿に戻って次の日に備えた。






◇◆◇


「ちょ、渡れないってどういう事ですか?」

「だから、何かこの先の領地でトラブルがあったようでな。この橋は渡らせるなとブルービアド様から厳命されているんだ。そういうわけでな、一切誰も通すわけにはいかん」


 俺達の旅はここにきて暗礁に乗り上げる羽目になってしまった。

 まさか、橋が通行禁止になるとは。しかもこいつら――


「ですが、北門で私達は橋の通行料も支払っているのですよ? それなのに橋についてみれば通れないって……」

「そう言われてもな。通行料に関しては俺達は管轄外だ。ま、文句があるなら北門の衛兵に言うんだな」


 全くもって納得できない話だ。橋は通れない、だが通行料は徴収するとか悪徳もいいところだろう。


 橋を通るという点については、もうどうしようもなかった。馬車も一緒となるとこの橋以外選択肢がないだけに、パーパもそうとう落ち込んでいる。


 しかし、通れないのに安くもない通行料を取られ続けるのは癪なので、北門でパーパが衛兵に文句を言ったのだが。


「そんなことは我々の知るところではない。この北門を抜ければ橋がある以上、ここを抜けるなら通行料は必ず徴収する必要がある」

「いや、それは流石におかしくないか? だってあんたらだって橋が通行止めになっているのは知っていたんだろ?」

「知っている知っていないなどは問題ではない。橋をただ眺めたいという観光目的の人間もいるのだからな」

「いや、それだと通行料にならないだろ?」

「ここで言う通行料とは門を抜ける為の通行料だ。しかしご当主様は気前が良いので、門を抜ける通行料に橋の通行料も含めているのだ」

「そのとおり、あくまでご当主様の温情でそうなっているのだ」


 おいおい、本気で言ってるのかこいつら……ただ門を抜けるだけで一人五千ルベルも取ってるんだぞ? 日本円だと五万円相当だ。


「この通行料は、橋が通れるようになったらもう払わなくてもいいっすか?」

「馬鹿をいえ。話を聞いていなかったのか? この門を抜けるための通行料だ。当然また抜けたいなら同じだけ支払ってもらう」

「無茶苦茶なのじゃ」

「アンッ! アンッ! グルルルルゥ!」


 世情には疎そうなネメアでさえ憤懣を態度にあらわし、イズナも吠えまくってるな。


 衛兵の表情は険しい。しかし、これが男爵の命令どおりだとしたら、やはり噂通り相当がめつい領主なんだろう。


 とは言え、さてどうしようか――


「ガッハッハ! あかんあかんでぇ、そんな連中にいくらいったところで豆腐に鎹、糠に釘、聞く耳なんてもってくれへんがな」


 俺が考えを巡らせていると、ふと、最近聞いたばかりの声が耳に届く。

 

 振り返ると、ニッと口元を吊り上げた、ミキノスケがそこに立っていた。

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