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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第二章 それぞれの旅路編

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第百六十二話 アルベルトの過去とこれから

「それはまた、随分と思い切った事をしたものだな」

「えぇ、自分でもそう思いますよ。しかも、両思いでした。帝国内でこれは奇跡みたいなものです」

「相手はアルベルトが吸血鬼だと知っていたのか?」

「最初は、普通に人間だと思ってくれておりましたが、このままではいけないと思い私から明かしました。その時私は彼女の下を離れようと心に決めていたのです。しかし、彼女はそれでもいいと言ってくれました。それがより私達の愛を燃え上がらせる要因となりましたが、しかし彼女の両親は残念ながら私達を祝福してはくれなかった」


 帝国にとってあくまで吸血鬼は敵。そんな相手に娘を渡すわけにはいかないって事か。


「彼女の両親が帝国貴族である事、更に伯爵という立場もあり、私と彼女の関係が認められることはありませんでした。それどころか彼女の両親は私の命を狙い、更に己の娘すらも吸血鬼の手で身も心も汚された魔女と罵り、処刑を望みました。私は後悔しましたが、彼女は一緒に逃げようと言ってくれた。そして――」


 駆け落ちしたってわけか。尤も、今の話を聞くに両親は自分の娘すらその手に掛けようとしたのだから、選択肢なんて他にはなかったのだろうな。


「人の目につかない山奥で私たちは暮らしました。その内に彼女は私の子供さえも身籠ってくれました。人間と吸血鬼の間で子供が出来るのは非常に稀で、彼女もそれを覚悟の上でしたから、その時は涙を流して喜んだものです。彼女には本当に苦労を掛けました。人前には出れないので、関わり合いが持てるのは私と同じように帝国でひっそりと暮らしていた吸血鬼だけでした。ですが、彼女は不思議な魅力を持っていた。私のように帝国で潜むように暮らす吸血鬼の多くは人に恨みを持って過ごしています。人間と暮らすことを決め子供まで授かった私達が異端と思えるほどに。当然仲間たちも最初は彼女を訝しみました。嫌悪感をむき出しにしていたものもいます。ですがそんな同志も彼女は独特な雰囲気と優しさで包み込み、いつしか同胞たちも彼女の前では自然な笑顔を見せるようになっていた。生まれてきた娘も可愛がり、私と同じように成長を楽しみにしてくれた。ですが、その幸せも長くは続きませんでした――」

「……」


 俺はアルベルトの話に静かに耳を傾け続けた。


「私達の居所が、ついに彼女の両親に知られたのです。きっかけは同胞の死でした。吸血鬼狩りにあってしまったのです。しかも家族を人質に取られ――家族を救うために私達の情報を吐露してしまったのです。ですが、そんな彼を嘲笑うように連中は家族を殺し、絶望し後悔した彼はその場から何とか逃げ出し、私の下へ、そして涙ながらに済まないと、ですが、誰が責められるでしょうか? 彼は私の中で息絶えましたが、私達には時間がなかった。急いでその場を離れようとしましたが――伯爵家の騎士たちは、彼の後を追っていたのです。私は必死に抵抗しましたが、妻も娘も連れ去られてしまった。その時ほど、私は自分の無力さを恨んだことはありません」

「……それで、奥さんと娘さんは?」

「――妻は、処刑されました。私はすぐにでも追いかけましたが、伯爵の城についた時には手遅れでした。しかも妻の遺体は、乱暴され、いたぶられ、辱められ、頭と胴体を切り離され、槍に突き刺されたまま見せつけるように野晒しにされていました。その時、私の中で何かが切れました。彼女を同士のように慕っていた他の仲間も駆けつけ、私達の戦争は始まりました。いえ、あれは戦争といっていいかもわかりませんね。今思えば私達のやったこともただの虐殺行為です。結局相手の城は半日足らずで落とし、その後も一族郎党に至るまで皆殺しにしたのですから」


 そのあたりは、流石は吸血鬼といったところか。多少の数の優位など、用意にひっくり返す実力を持っている上に仲間も揃えたんだ。


 いくら伯爵家といってもひとたまりもなかったのだろう。


「辛い記憶だとは思う。だけど、その話を聞いているとやはり今のステータスについては謎だな。それに、この地で子爵の面倒を見ているのも。むしろ人間を憎んでいてもおかしくない」

「確かに、ですがこの話には続きがあります。何せ、私達は帝国の伯爵領を一つ陥落させたのです。帝国からしてみれば喧嘩を売られたのと変わらないでしょう。そしてそれから間もなくして、帝国が我々を狩るためだけの団が結成され、追手がやってきたのです。勿論私達は最後まで抗うつもりでした。帝国と戦争になってもいいとさえ思ってもいたのです。しかし、甘かった。それほどまでに帝国から派遣された狩猟者は強かった。私の仲間が一人、また一人と殺されていき――最後に私だけが残されました。その時の私にはもはや逃げるという選択肢しか残されていなかった。玉砕覚悟も考えましたが、仲間がそれを止めました。私は生きろと自らが盾となり、そんな彼らの気持ちは裏切れなかった。ですが、私を追いかけてきたその男はとにかくしつこく、そして遂に追い詰められてしまいました」

「その当時のアルベルトはそうとう強かったのだろう? それでも追いつめられたのか?」

「はい。正直いって手も足も出ませんでした。相手の武器との相性も最悪でしたが、肉体的には私を遥かに凌駕していた」


 どうやら帝国にはまだまだ化物が多くいるようだな。


「武器の相性というのは?」

「はい、相手の、奴はハーベンと名乗ってましたが、その男が所持していた武器はヴァンパイア・キラー(吸血鬼殺し)、その名の通り吸血鬼に対して特化した武器です。しかも、数多くの同胞を屠り続け血をすすり続けたことで性質が変化し、冥器へと生まれ変わっていました。あの男はそれを冥短剣・ブラッディーロマンス(血の情熱)と名付けてましたが、その短剣で私の身体は切り刻まれ、その影響でステータスとスキルの多くが封じられてしまいました。私はこのままでは勝てないと判断し逃げ続けましたが、敗走の途中で谷の崖際まで追い込まれ、そして――真っ逆さまに落ちる結果となりました」


 崖、か。本人にとっては大真面目な話なんだろうけど、どうにもこの手のパターンの崖から落ちるってのは助かるためのフラグにしか思えないな。


「しかし、私は崖下の川に落ち、そのまま流れに任せるまま川を下り、運良く旦那様に発見されたのです」


 あ、やっぱり。尤もだからこそ今こうして生きて話をしているのだろうけど。


「私は旦那様に救われ、一命をとりとめました。しかし恩知らずな私は人間に対する憎しみばかりが先立ち、お礼も言わず恨み言ばかりいい続けました。ですが、旦那様は私の正体が吸血鬼だと知ってからも変わらず接してくれました。私の身の上話を聞き涙さえ流し、私の娘を探すため色々と手をつくしてくれました」

「うん? つまり娘さんは、無事なのか?」

「はい。といっても感覚的なものです。我々吸血鬼は血の繋がりが強く、その為子供の命が失われたりした時は、全身に雷をうけたかのような衝撃に見舞われるのです。しかし、今のところその現象は起きてません。カリーナ(・・・・)という名前で、恐らく今は美しい少女にまで成長していると思いますが」


 雷、ね。恋に落ちるときも電気が走ると言うけどその超強力版みたいなものか。それにしてもこいつもなんとなく親馬鹿臭を感じるな。


「話はわかったよ。ステータスの件についても理解できたし、アルベルトがそこまで領主を慕い、親身になって尽くすわけも判った。そして、ステータスの低い原因もな。ただ、アルベルトは一体何から子爵を守ろうとしているんだ?」

「それは、一概に何と決めつけられる話ではありませんが、とりあえずはここから北にいる三男爵には気を抜けない状況です」


 北の三男爵……今のルートで行けば俺達も通るところだな。


「その三男爵というのは何か問題のある連中なのか?」

「そうですね、三男爵領は元は一つの伯爵領だったものが三人の息子たちに分領された地なのですが、少なくともこの領地にとっては……狙われてますからね。このマウントグラム領は」

「狙われてるって……同じ帝国内でそんな事があるのか?」

「珍しい話ではありません。事実このグランガイム帝国そのものが、領地同士の紛争を認めています。勿論それなりの大義名分が必要ですが、そうすることで戦を通して戦争に役立つ強者が生まれる事を期待しているのですよ」


 それは、ステータスのある異世界ならではの考え方とも言えるか。戦によって生まれる犠牲よりも、その結果生み出されるレベルの高い戦士の方が重宝されているって事だ。


 実際、例え内戦であっても結果を残した武人なんかは帝都に来るよう直接声がかかったりするようだ。


「しかし、そこまでしてこの領地を狙うって事は、何かこの土地ならではの強みがあるのか?」

「一つは港町ハーフェンに繋がる主要街道の一つを掌握できるという点、後は私怨でしょうね」

「私怨って、何か恨まれるような事でもしたのか?」

「そうですね、この地はかつて魔物の数も多く、開拓が遅々として進まなかったのはご存知でしたか?」

「あぁ、知ってるよ。でも、ゼーンスフト子爵の手腕で傭兵を雇うのも惜しまず魔物の駆除に努めて、そのおかげでこの土地に良質な穀倉地帯を築き上げるほどまでの成果を上げたんだろ?」


 以前パーパから聞いた話を思い出しながら口にすると、アルベルトは、そのとおりです、と頷いた。


「ですが、本来この土地の一部は北の伯爵家によって管理されておりました。しかし、伯爵領が帝国との手続きによって三分割され、その息子たちが男爵としてそれぞれの土地に君臨した直後帝都から官僚が視察にやってきて、この地の開拓はどうなっているのか? と問いただされたのです。その際に、彼らが苦し紛れに伝えたのが、この地の開拓は全てゼーンスフト家に一任する形で話が進んでいるといったものでした。正直当時准男爵という立場でしかなかった旦那様には荷が重すぎる案件ではあったのですが……」


 それはつまり、当時の三男爵にとっては厄介事でしかないこの土地の開拓を、レーヴェンに丸投げしたってわけだな。

 

 失敗して責任を取らされるのを避けたかったんだろう。


「しかしその後、男爵達は旦那様をたぶらかし、開拓の責務を全てなすりつけようとしました。ただ、旦那様はあの性格ですから、困っているのであれば、と快諾し、帝国から提示された期限が相当に厳しいものだったにも関わらず、この領地の開拓を成功させたのです」

「優秀だったんだな。でも、そこまで知っているという事はもしかして?」

「はい、その時には私も途中からではありましたが、関わらせて頂きました」

 

 どうやら怪我をしたアルベルトを今の子爵が見つけられたのも、開拓の調査で自らも動き回っていたからのようだ。


 そこで助けられ、子爵の事も認め、そのお礼を返すために執事となり、開拓にも手を貸していたらしい。


 ステータスこそ低いが使い魔を使役できるから、ある程度の魔物であれば対応できたのだろう。


「ただ、旦那様が開拓に成功した事が、三男爵にとっては面白くなかったのでしょう。本来なら自分たちが行わなければいけない事を、勝手に放棄し、その結果領地も正式に割譲されたのですから本来そのような謂れを受ける義理ではないのですが、そのあたりの事を皮肉交じりにネチネチと言ってくるのです。その上で旦那様の領地を監視するための塔を作ったりと、油断ならない連中ですよ」


 つまり自分たちができなかった事をやってのけたレーヴェンが妬ましくて仕方ないって事か。子供みたいな連中だな。


「旦那様が病に伏している事を隠し通したいのはこういった事情からです。今もし連中にこのことがしれたら、それを理由に領主としてふさわしい状態ではない、と皇政に提言し、代わりに元々この土地の管理を行っていた自分たちこそが兼領すべきだと主張してくることでしょう」

「そんな事情があったんだな。それにしても、随分と乱暴な話だな。仮にも荒れ果てていた土地の開拓に成功したのだから、功労者として皇政からも便宜を図られてもおかしくないのではないか?」

「確かに。ですが皇政としては旦那様を准男爵という位から子爵に昇格させた時点で恩恵は十分に与えたと考えております。それに、正直いうと旦那様のやり方は帝国の主義に反するものであり、あまり快く思われておりません」


 どうやらレーヴェンは帝国の多くの貴族と考え方が異なり、領主は民のためにこそあるべきだという思想の持ち主のようだ。


 だからこそ税も最低限に抑え、出来るだけ領民に負担をかけないような経営方針を行っているらしい。


 元々は人が住めないような土地に、開拓したとはいえ、移り住んでくれた人々に対する感謝の念が強いのだろう。


 しかしその考えはこのグランガイム帝国では煙たがれる。


「話は判ったが……だけどなぁ、いくらなんでもごまかしきれるものじゃないだろう。しばらくはそれで乗り切れるとしてもあまりに顔を出さないでいれば、いずれ怪しまれる」

「その通りですね――」


 そう返すと、アルベルトはすっと立ち上がり、琥珀色の液体の入った小瓶と革袋を持って戻ってきた。


「こちらは今回の報酬となります。小瓶の方が例の悪夢から覚めるための気付け薬です。革袋には五十万ルベルが入っております。どうぞお確かめ下さい」

「あ、あぁ、悪いな」


 袋の中身を確認すると、確かに一万ルベル金貨が五十枚入っていた。円で換算すると五百万円相当に値するという事になる。


 薬まで頂いて、これだけの報酬が貰えるなら十分すぎるな。村長からは四万ルベルだったし。ともかく俺はありがたくそれを受け取る。


「今回は本当に助かりました。そこでなのですが、図々しいかと思われるかもしれませんが、もう一つお願いを聞いて頂く事は出来ないでしょうか?」


 おずおずとアルベルトが願い出る。しっかりと報酬を用意したのは、その話を繋げる為だったか。

 報酬も見せず次の話をされたら余計な不信感を招くと思ったのだろう。


「う~ん、一応聞くだけは聞いてみるけど、良い返事が出来るとは限らないぞ?」

「はい、それで結構です。そこでお願いというのは――旦那様の薬の素材についてです」


 なんとなく予想はしていたけど、やはりそっちの話が出たか。


「旦那様の病はかなり特殊で、その素材も簡単には手に入らず困り果てていたのです。私も素性を隠しながら色々調べてはみたのですが……」

「ちょっとまってくれ。だとしたらそもそも俺でどうにか出来る話ではないぞ。俺は別に薬屋じゃないし治療師でもない」

「はい、それは重々承知でございます。ただ、集めた情報の中でどうやらこの素材はエルフ(・・・)が暮らすような森などではよく採れるそうなのです。そこで、エルフが過ごしていそうな場所に心当たりがないか、もしくは調査に協力していただけないかと思いまして……」


 エルフ、ね。少なくとも今のところ俺は目にしてないな。


「しかし、それがわかっているならむしろアルベルトの方が探せるんじゃないか? 全くいないわけでもないんだろ?」

「そうですね。例えばこれが隣の王国などであれば、エルフとも良好な関係を築いてるようなのでそこまで難しいことではないのですが、この帝国ではエルフはあくまで売り物として考えられています。その為、帝国内の多くのエルフは我々の一族と同じく人間の目を逃れるように隠れ住んでいるのです。元々数が多くないというのもあるのですが、その為、探すのも簡単な事ではなく……」


 なるほどな。話によるとアルベルトは今後も調査を続けるがレーヴェンの事もあってそこまで調査範囲を広げられない。


「それと……そもそもエルフと吸血鬼はあまり仲が良くないのです。吸血鬼の中には闇の精霊を従えるものもいまして、ですがエルフは闇の精霊に関しては毛嫌いしておりますし、それに吸血という特性にも嫌悪感を示されているので」


 つまり、例えアルベルトが見つけられても、関係的に協力を望むのが厳しいって事か。


 だから俺にお願いしたいと、そういうわけだ。報酬も前金で支払うし、例え俺達以外のルートで見つかったとしても返す必要はないとまで言ってくれたが。


「……悪いがアルベルト、それは受けるわけにはいかない。先にも言ってあると思うが俺の今の雇用主はあくまでパーパさんだ。それを無視して別の目的のために時間をさくわけにはいかないし、その依頼が終わった後も俺達は俺達で目的がある。そこまでの余裕はないんだ。済まないな」


 流石に今回ばかりは安請け合いはなしだ。はっきりと断る。


 そうでなければ逆にアルベルトに申し訳がない。


「そう、ですか。いえ、私こそ無理をいいました。貴方の事を見ていれば、何か大事なことを抱えているんだという事ぐらい判ります」

「素直に納得してくれて助かるよ。ただ、一応そのことは気には止めておくよ。途中エルフの情報が掴めたら当然何かしらの手で伝える。勿論それに報酬はいらない」

「ありがとうございます。それだけでも助かります」

「あぁ、それとだ、確かに俺達は無理だが――実はこういうことに積極的に協力しそうなお人好しを知っている。わけあって帝都にいた奴だが、恐らくそろそろ帝都から出てきてる筈だ。その男で良ければ頼ってみるといい」

「え? 本当ですか! 貴方様が推薦されるのであればこんな心強い事はありません!」

「そうか。それなら俺の方から文でも出しておくよ。ちなみにその男の名前はユウトというのだけど――」

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