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第百六十話 アルベルトの正体

 どうやらこのナイトメアハンドレッドは、普通に倒しても蘇生してしまうようだ。厄介が過ぎるな。


 そうなるとやはりあのナイトメアと同じ弱点をつくしかないかもしれない。

 とりあえずは近づく必要があるか。


 だが、そんな俺の考えを嘲笑うかのように、百眼のナイトメアは周囲に大量の魔物を生み出していった。

 

 すべて途中で戦った魔物だが、どうやらこいつらすべてが使役される闇魔という事らしい。

 

 背後からはブラックストーカーやシャドウガストが、前からはブラックウルフに左右からダークウォーカー、その上、頭上からブラックサルッサが飛びかかってくる。


 少数相手ならともかく、これだけの量が纏めてとなると霧咲丸だけでは対応しきれない。


 しょうがない、もう四の五の言っている場合ではないな。

 俺は次々と印を結んでいき、その瞬間、魔物の総攻撃が降り注ぐが――


「合わせ忍術――陽炎稲妻水の月!」


 刹那、俺の肉体は霧となって霧散し、満月のように広がった水面に稲妻が落ち、周囲の魔物共を感電死させた。


 焦げ臭い匂いが辺りに充満する。残りは、遠距離から魔法攻撃を仕掛けてきた相手だけだが、それも電光石火の術で距離を詰め一気に片をつけていく。


 そして、ナイトメアハンドレッドの近くまで移動、雷閃の術で強い光を浴びせてやった。


 百眼のナイトメアが顔を両手で覆うが、全ての目を覆うには腕が足りないな。


「シノビンくん、危ないですよ」


 だが、そんな俺に注意を呼びかける声。アルベルトだ。

 だけど一体何を、と思った瞬間、背筋に悪寒が走る。


 弾けるように天を見上げた。真っ黒い霧が広がっているが、そんな中でも俺には判る。

 上空に大量の漆黒の槍が生み出された。それが、豪雨のように一気に降り注ぐ。


 これは、魔法か? 

 とにかく、流石にまともに喰らうのはマズい。


 ズガガガガガガガガガガッ! と機関銃でも撃たれたかのような音が鳴り響き、ナイトメアハンドレッドの周囲の地面が大量に穿たれたのが判る。


 だが、俺はその有効範囲から抜け出していた。正面にはアルベルトが見えている。

 つまり槍はアルベルトのいる位置の手前までが有効範囲だったというわけだ。

 そして丁度その反対側にいる俺にも当たらずにすんだ。見る限り今の魔法は円を描くように範囲が広がっていたようだからな。


 俺が抜け出したのは時空遁のおかげだ。瞬間移動で避けたわけだ。


 とにかくこれで助かるは助かったが、って、あれ? 何か急に目眩が――あ、そうかナイトメアハンドレッドの後ろの目玉に、見られて――悪夢が……。





「久しぶりだなシノブ」

「え? 兄、者? どうしてここに?」

「私は、お前を殺しに来た」

「は? 殺しに、何を?」

「死ね――瞳遁……」


 ぐっ、違う! これは違う! そうだ、兄者がこんなところにいるわけない。大体兄者は――そう、あり得ない、まやかしだ! これは! 目覚めろよ、早く!





「ハッ!?」


 目覚めた俺の眼前に迫っていたのは、黒い光線だった。首だけを動かし、既の所でそれを避ける。

 危なかった――今のは固有スキルの悪夢の瞳か。ナイトメア戦の時はすぐに抜け出せたが、目の数が増えた影響なのか、ステータス的なものか、とにかくナイトメアよりは強力になっていた。


 見た夢も妙に生々しかったしな――だが、それでも覚醒した。


 光線からも逃れ、そしてそのおかげで攻略法にも気がつけた。

 そう、こいつの目は一つじゃない。しかも全身に目がある。つまりどちらか片方だけで光を発生させても意味がなかったんだ。


 ナイトメアハンドレッドは更に暗黒光線に闇魔法を組み合わせて攻め込んでくる。

 

 だが、魔法はナイトメアが使っていたものと一緒で、漆黒の槍が一本飛んできたり、黒い衝撃波が発生したり、地面から尻尾状の闇が現れて振り回してきたりといったところだ。


 件の槍の雨を警戒したが、あれは連続使用が出来ないのか今のところ使ってくる様子がない。

 

 ならば、今のうちに決めるのがベストだ。俺は印を結び、魔物の攻撃を避けながら前進し、忍術を発動。


 影分身が四体現れ、ナイトメアハンドレッドを中心に前後左右を陣取った。


「雷遁・雷閃の術!」


 そして四人で同時に印を結び、寸分の狂いなく一斉に術を発動させる。

 その瞬間、ナイトメアハンドレッドを強烈な閃光が支配した。全方位からの光だ、逃げ場もなければ死角もない。


 相手の手が開いているのも確認済みだ。全ての瞳を閃光が射抜く。

 百眼が一斉に見開かれた。充血した目が驚愕を如実に伝えている。

 

 口があったなら悲鳴の一つや二つ上げていた事だろう。

 黒に染まった肉体と百の瞳は、さっきのように闇に溶け込むのではなく、サラサラとした粒子に変化し、川の水にでも流されるように消えていく。


 周囲を支配していた闇の霧も、ナイトメアハンドレッドの消滅にあわせて霧散し、後に残ったのは月の薄明かりに照らされた草木の茂る森だけであった。


「これで、元には戻ったな」

「はい、お見事です」


 ナイトメアハンドレッドが消え、アルベルトはにっこりと微笑んで俺を称えてくれた。


「これで屋敷まで戻れます。商人も問題なく通れる事でしょう。きっと旦那様もお喜びになると思います」

「そうか?」


 アルベルトはニコニコとした笑顔をみせてくるが、俺はいかにも無愛想な態度で尋ね返した。


「それはもう、間違いありません」

「どうかな、俺はどうにも気がかりなことが一つあってね。それが解消されないとどうにも落ち着かないんだ」

「はて? 気がかりですか? それは一体?」

「そうだな、例えば、どうして吸血鬼(・・・)のあんたは、自分が用意した使い魔をわざわざ俺に倒させるような真似をしたのか? とかな」

「……なぜ、そうお思いに?」

 

 俺が直球で確信の言葉をぶつけると、一旦口を閉ざした後に、反問された。


 これに関しては本当は看破の術で丸わかりなのだが、それをいきなり言うよりは別の方向から理由を告げた方がいいだろう。


「それほど難しい話でもない。と、いうよりもあんたは最初から言動がおかしかった。例えば、最初にあんたが言っていた、ダークミストの事とかな」

「しかし、ダークミストという名前は村長から聞いてましたが……」

「そこは別におかしくはない。だけどあんた、俺にこう言ったよな? この霧のおかげで領主が丘から降りられなくて困っていて、商人だってやってこれないと。でもおかしいだろ? だったらあんたはどうやってあの村までやってきたんだい?」


 そこまで言うと、ふむ、とアルベルトが口元を押さえ一考し。


「それは、私は元々他の村の件で出ていたのです。霧の件もそれで知りました。そして村から戻り、この森も霧で包まれてしまった事を知ったのです」

「なるほどね。でもな、俺からしたらその村の話も怪しい。確かにあんたが言っていたように、あのダークウォーカーという魔物はブラックウルフよりは弱い。だけどな、それでもただの村人がちょっと数を揃えたぐらいでなんとかなる相手でもない。おまけに霧があるならナイトメアだっていたはずだ。断言してもいい、あれを多少腕に自信がある程度の村人が倒すのは不可能だ」

「……」

「それにまだあるぜ。あんたはあのブラックウルフを初めて見たと言っていた。でも、それだとおかしいんだよ。村人だってあれについては黒い狼としか言ってなかった。それなのにあんたはなんであの黒い狼がブラックウルフだと判ったんだ? しっかり覚えているぞ、確かにあんたは黒い狼のことをブラックウルフだと言っていたことをな」


 アルベルトは瞑目し、しばしの沈黙。だが、どこか観念したように。


「――なるほど、確かに迂闊でしたね。普通は黒い狼を見てブラックウルフとは思いません。ここで、さて、何の事でしょう? とごまかそうとしても無駄でしょうかね」

「そうだな、それにもっと言えば、俺はあんたらでいうところの鑑定に近い能力も持ってる。多少阻害されても問題ないレベルのな」


 当然、こいつも身元がバレないように、鑑定を邪魔する魔装具を身に着けていた。

 だが、その程度じゃ看破の術には効かない。


 中にはマジェスタみたいな奴もいるけど、あそこまでの使い手はそうはいないだろうしな。


「全く、貴方も意地が悪い。そこまで言われるともうどうしようもありませんし、これは、弱りましたね」

「何を弱ることがある? もしかして領主の事でマズい事でもあるのかい?」

「……」


 アルベルトの表情が僅かだが曇った。沈黙を通そうとしても、それは言っているのとかわらないぜ。


「図星なのか? だとしたらその内容如何で俺も――」

「う~ん、そうですね。判りました」


 威圧を込めて語り続けていると、おもむろに口を開き、アルベルトが再びニコリと微笑んだ。


 なんだ? どういうつもりだ?


「こうなってはやはり、屋敷に来てもらうのが早そうです。そうです、そうしましょう」

「は? え? いや、だから領主……」

「はい、それも来て頂ければ判ることですから、さ、どうぞご一緒に」


 俺があっけにとられていると、スタスタとアルベルトが前を歩き出し、俺を振り返って、さぁさぁ、と促し始めた。


 おいおい、全く一体どうなっているんだ――

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