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第百五十六話 元凶、その正体

「こっちは倒したっす!」

「ウォン!」


 マイラとイズナが同時に声を上げる。俺の方も二匹仕留めたから、これで残りは土遁で閉じ込めた一匹だけという事になる。


「でも、暗くてよくわからないっすが、どうして一匹だけ閉じ込めたっすか?」

「あぁ、あそこに閉じ込めているブラックウルフに妙な影がついているんだ」

「アウン?」

「シノブ、大丈夫っすか? 明かりのないところに影は出来ないっすよ?」


 イズナが首を傾げたのが判る。そしてマイラも俺がおかしくなったんじゃないか? みたいな言い草だ。失礼な。


「そんな事は判ってるよ。だからこそ、影がついてたのがおかしいだろ? つまりだ、その影こそが、この霧を生み出した何者かである可能性が高いんじゃないかって、そう思ったわけだ」


 なるほど、とマイラが両手を打った。暗闇でも気配でそれぐらい判る。


「でも、その影はどうするつもりっすか?」

「どうするってそりゃ……」


 ……言われてみれば閉じ込めたはいいけど、確かにその先の問題があったな。

 影だし、そのまま攻撃して倒せるだろうか?


 そんな事を考えていると、石牢の中から突如、ニョキッと影が伸びて現れた。

 これは地面を伝うのではなく、立体化したかのようなと言うべきか、とにかく、空間上に影が伸び、牢から抜け出して表に出てきたのである。


「な、何か目が浮いてるっす!」

「ワンッ!」


 マイラが驚いた。イズナが鳴いた。俺は観察する。


 見た目は上半身は人のようであり、それでいて下半身は蛇の尾が伸びているような感じ。ただ、色合い的にも雰囲気的にもそれは影としか言えない何かであり、ただ一点だけ、一つ目の目玉だけがギョロギョロと睥睨していた。


 正直かなり不気味な魔物だが、姿を見せてくれたのはラッキーだったとも言えるな。



ステータス

名前:ナイトメア

レベル:33

種族:魔物

クラス:使い魔

パワー:0

スピード:200

タフネス:0

テクニック:330

マジック:750

オーラ :380


固有スキル

全攻撃透過、悪夢の瞳、ダークミスト

スキル

ブラックウルフ使役、闇属性魔法

称号

闇を生み出す影、光を嫌うもの



 ビンゴ――と、思わず呟いてしまった。

 それにしてもあの村長、なんとなくダークミストと名付けたんだろうけどまんまだったな。


 どうやらこのダークミストというのがこの暗い霧の正体。

 当然コイツを倒せば、この現象も収まるはずだ。


「な、なんなんっすか一体、あの目玉は……」

「あれはナイトメアという魔物だ。この霧を発生させてる元凶だな」

「そ、そうだったすか! それなら思いっきりいくっす!」

「え? あ、いやちょっとま――」

「アンッ! アンッ!」


 とりあえず話を聞けと、抑えようとしたがせっかちな一人と一匹は、俺が敵の情報を伝える前に攻撃を開始してしまった。


「フレイムアロー!」

「ウォン! ウォウォン!」


 マイラが炎の矢を、イズナが毛針を敵の単眼に向けて発射する。

 目だけがやたら目立ってるからそれもわからなくもないが――しかしそれらの攻撃は全てナイトメアにあたらず素通りする。


「そ、そんな! あたらないっす!

「あぁ、言っておくけどそいつ――」

「ガルウゥゥウ!」


 マイラが驚いているが、イズナはまだ諦めていない。

 実体感のないソレに飛びつき噛み付こうとするが、当然それも無駄に終わり、すり抜けて反対側に着地した。


「アゥン?」

「イズナ! 気をつけろ!」


 疑問符混じりに振り返るイズナだが、そこへ、尻尾のような闇が襲いかかる。


 ナイトメアの闇魔法が発動したのだろう。そして、イズナの肢体を貫いた。


「うそ! イズナちゃんが!」


 思わずマイラが手で口元を抑え、悲痛な叫び声を上げる。

 だが、イズナは俺がきっちり調教したんだ。そう簡単にやられはしない。


 案の定、ドロンっと煙を上げ、イズナがいた場所には犬の毛皮だけが残った。

 そしてクルクルと回転しながら俺達の下へ戻ってくる。


「あぁ、イズナちゃん良かったっす~」


 マイラが安堵の声を上げた。

 隣でイズナが、アンッ! と前肢を上げている。

 全くいざという時のために空蝉の術を教えておいてよかったぜ。

 

 それにしても丸太ではなく毛皮を残す当たりが犬っぽいな。勿論、イズナはイズナで毛皮がなくなっているようなことはない。

 

「イズナは無事でよかった。流石だな」

「アンッ!」

「だけどイズナ、あとマイラも、あのナイトメアは固有スキルに全攻撃透過がある。物理攻撃も魔法もすり抜けてしまうんだ」

「そ、そんなのどうしたらいいっすか?」

 

 気後れした表情を見せるマイラ。確かにあらゆる攻撃が通り抜けるとなると、厄介な事この上ないが、それでも完全に無敵などありえないだろう。


 何か手はある筈なんだが――


「散れ!」


 流石に、こちらが策を練るのを大人しく待っているような相手ではなかった。 

 直接攻撃の手段はなさそうだが、その分奴には魔法がある。


 開眼の術のおかげで魔力の流れや魔法の動きが視えていた。


 何か強力な魔力が俺の正面あたりで膨張し、かと思えば一気に弾け、黒い衝撃が波紋のように広がったのである。


 ただ、効果範囲はそれなりに広いようだが、衝撃の中心から離れれば離れただけ威力は落ちている。


 だからマイラもイズナも余波は受けているが、身体が多少流された程度だ。


 そのまま俺達は地面に着地。バランスを崩すことも無かったのだが――マイラとイズナの様子がおかしいことに気がついた。


 そしてナイトメアがふたりとそれほど距離が離れていない位置に移動してきていた事も。

 ナイトメアの眼球が、ギョロリと俺に向けられた。目が会い、その瞬間脳がぐらつき、視界が歪む。


 地面から、大量の手が伸びてきた。それが俺の四肢を掴んでいき、全身をバラバラに引き裂こうと力を入れてくる――


「体遁・覚醒の術!」


 だが、すぐさま印を結び、全身に忍気を生き届けさせ、忍術を発動。覚醒の術によって直接脳を刺激し、ナイトメアの悪夢の瞳から逃れる事に成功する。


「残念だったな、幻遁への対抗手段として忍者はこういった術も持っているんだよ」

「…………」


 ナイトメアはギョロギョロとした目だけで俺を威圧してきた。口がないだけに喋ったり叫んだりは出来ないようだな。


 後はあの悪夢の瞳は厄介だからそこだけ気をつける。覚醒の術はあるが、あくまで掛かった後に半ば反射的に行使するよう擦り込ませている忍術だ。

 

 だが、解除までに一瞬でも間があく以上、次はすぐに魔法攻撃に移ってくる可能性もある。


 それと、これはあくまで自分専用だ。すでに掛かってしまったマイラとイズナを戻すには直接ナイトメアを叩くしかない。


 もうグズグズはしていられないな。ナイトメアの目にだけ気をつけながら移動。すると、今度はナイトメアの周囲に漆黒の槍が生まれ、螺旋回転しながら俺に向かって飛んできた。


 威力も速度も申し分ない。おまけにこの暗闇だ。よほど腕に覚えがある相手でも喰らってしまいそうな程だが、開眼で強化した俺の動体視力と気配を察する力でその全てを避けていく。


「雷遁・貫電の術!」


 勿論、ただやられているわけにもいかないので、俺も避けながら印を結び、そして影の魔物に向けて電撃を撃つ。


 直線状に伸びた雷は、見事ナイトメアをすり抜けた。やはり忍術でも攻撃は通り抜けるか。


 だが、俺はその一瞬、そう、電撃がナイトメアの瞳を貫通したその時、眼球が歪んだのを見逃していなかった。

 

 称号から、その可能性を考えてはいたが――これなら!


 ナイトメアが今度は黒い衝撃と漆黒の槍を混ぜ合わせて攻撃してくる。それらは全て躱していく。勿論、マイラやイズナに被害が出ないよう位置取りを考えつつ――俺は勝負を決めるため、一気にナイトメアに近づき、同時に印も結び終えていた。


「喰らえ! 雷遁・雷閃の術!」


 そして、忍術を行使。これは、本来相手の目をくらませる為の忍術。強い光を発生させ、目がくらんでいる間に逃げ出すような使い方が主な術なのだが――


 どうやら予想通りというか何というか、光を嫌うものの称号通りというか――俺の放った強い光を眼球に受け、ギョロリとした目を大きく見開いた直後、ナイトメアの影も眼球も、その場から完全に消失したのだった……。

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