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第百四十六話 決行の夜

「不本意だけど、ディードの事を考えると悠長な事もいっていられない――」

 

 勇者の称号を持ちしユウトは、遂にそう決断した。カコを助けられる日にち、及びディードと共に帝都を出て、彼女と旅に出れる日が決まっていたからだ。


 四大将軍が一人である、ヴァイスの手引により、その日はほぼ同日に行われる事が決定していた。


 尤も、ほぼといっても時間に多少のずれはある。なぜならカコを助ける時間は夜中。

 そして、ディードの傭兵として(・・・・・)帝都を出るのは太陽が昇り、南門が開かれてすぐとなる。


「……流石約束時間ピッタリだな」

「――この件は、僅かなズレも命取りになりかねない」


 男はどうやら貴族区で案内を担当してくれた人物と一緒のようであった。

 ただ、前回は白ローブとフードだけであったが、今回はケントと同じように顔の上半分だけが隠れる程度の銀仮面を装着している。


 なので雰囲気でケントは前回と同じと判断しているが、本人が触れようとしないため推測でしかない。


「こっちだ――」


 そして、白ローブが音も立てずに駆け出す。ケントは走ることが苦手というわけではないが、この歩法まで真似ることは出来ない。


 一応銀仮面の効果で、足音さえも目立たなくなっているようだが、それでもこのような忍者の真似事みたいな行為には緊張を伴う。


 ただ、それを表情には全く出さないため、周囲には伝わりにくいところだが。


「……正面に見張りがいるぞ」

「勿論想定内だ。ここからは天井を伝う」


 おいおい、と思わずそんな言葉を口ずさむケントであり。


「……無茶言うな、流石にそんな芸当までは無理だぞ」


 そんな事、例えボクシングの世界チャンピオンであったとしても出来るわけがない、というよりやる必要がない。


「――安心しろ、それはこっちの役目だ。向こうで僕が連中を引きつけるから、その間に抜けるんだ。仮面の効果があれば見張りさえあそこからどけてくれれば可能だからな」


 そして銀仮面の彼は天井を這うようにして進み、横の通路に逸れた後、大きな物音を立てた。

 何事かと一斉に兵たちが動き出す。ケントは見事その隙に通路の先へ進むことが出来た。


「上手くいったな」

「……そうだが、一斉に向かうって中々の残念ぶりだな」

「確かにそうだが、僕のスキルには相手の気を引きつける効果もある。耐性でもなければ抗うことは出来ない」


 そういうことか、とケントは納得した。同時にやはりこの世界のスキルは便利だなと再認識することとなる。

 

「ここだ、この通路を進んだ先の部屋に目的の人物がいる」

「……ここか――」


 ボソリと呟く。彼に案内されてついたのは、城の随分と奥まった場所から更に地下におりた先の通路だった。


 随分とジメッとしていてカビ臭い廊下だ。牢獄とまでは言わないが、限りなくそれに近い場所とも言えるだろう。


 それ以前に宮殿ではなく城の地下に捕らえられているという状況だ。これではほぼ罪人扱いと変わらないだろう。


 白ローブの彼が重そうな鉄の扉に近づいた。厳重そうな扉だ。力づくで開くような代物でもないだろう。


 尤もケントであればまた話は別だが、それでも派手な音は撒き散らすことになるので出来れば避けたいところである。


 すると、白ローブの彼は鉄の扉をトントントン、と三回ノックしだした。


「……大丈夫なのか?」


 おいおいと思ったケントだが、一応は問いかける。すると問題ないという返事があり、その直後向こう側から五回ノックの音が返ってきた。


「開くよ」


 ガチャリ、示し合わせたように鍵の外れる音が聞こえ、ギィィイ、という錆のすれたような音に合わせて扉が開く。


 どうぞ、と声が掛かったので二人は部屋の中に足を踏み入れた。


「お待ちしてました」

「……キザキ、か? 無事なようで何よりだが……」


 部屋でにこやかに出迎えてくれたのは、眼鏡のよく似合う少女、カコであった。

 ただ、ケントはそこに妙な違和感を覚える。


「――やはり鋭い。ですが、貴方でも確信できない程度であれば大丈夫ですね」

「そうだな、それで本物は?」

「……本物?」

「こっちよ――」


 どうやら本物ではないらしいカコが部屋の隅にあった着替えようと思われるカーテンを開けた。


 するとそこにはローブ姿で二人と同じ銀仮面を被った誰かの姿。


 すると、もう一人のカコに耳打ちされ、その人物が仮面を外す。

 

「……なるほど、こっちが本物か」


 その姿にケントが感心したように唸った。確かに若干の雰囲気の違いはあったが、外見上はふたりともそっくり同じである。


「……白き流星(ホワイトメテオ)はこんな真似も可能なんだな」

「むしろそれがメインですから」

 

 ケントはヴァイス将軍の言っていた事を思いだす。

 あの時、彼はこの白ローブの彼についても説明してくれた。

 それによると彼らは将軍が密かに抱えている隠密部隊。諜報に長けた、というよりも特化した部隊であるということ。


 そして彼らの任務は、主に帝国内に溢れた闇を探ること――あのヴァイス将軍は、帝国の四大将軍という立場にありながらも、帝国の現状を憂い、そしてどうにか変えたいと思っている人物でもある。

 

「あ、あの、あの、あの、あのあの、あの、あの、あの」

「……判った。とりあえずキザキは落ち着いておけ。大丈夫だ、ここから助ける」

「え、え? 私、本当に、たすか、る?」

「……あぁ、大丈夫だ」

「――あ、う、あぁ、うぁああぁ……」


 ケントを目にして、話を聞き、ようやくカコも自分が助かることを実感したのか、嘔吐くようにして泣き出してしまった。

 

 この状況で、ケントは少々どうして良いか判らず弱ってしまうが、カコの変装をした彼女がなだめてくれた。


「さ、そろそろ行って。私がここに残っていればその間は大丈夫だと思うけど、絶対ということはないから」

「……判った」


 そして、今度は三人でその場を後にし出口を目指す。幸いなことに、ホワイトメテオの適切な案内もあって、無事脱出することに成功した。


「――ここから先はあんたら次第だ。ま、頑張ってな」


 そして再び白ローブは二人の前から消えるように去ってしまった。


 宮殿に戻り、ユウト達とも再会し喜びを分かち合うカコ。だが、これで解決したわけではない。むしろ本番はこれから、帝都を脱出しない限り何も始まらないのだから。

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