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第百四十四話 謎の集落

 男の案内でその村とやらに行くことにした。前を行く男についていくことになったが、一応馬車も通れる道ではあるものの、乗ったままの移動は難しくもあり、全員馬車から降りて馬を引きながら徒歩での移動となった。

 

 何せ脇に外れ森の中を突っ切るルートだ。道と言える道もない。

 それでも男の案内で引いて移動するなら楽ではないがなんとかなるといったところだ。


 ただ、ルートが妙にグネグネとしている。木々の間隔が広めの場所を選んでいる為と男は言っていたが、これだとよほど記憶力がよくなければ男の案内なしで来た道を引き返すのは難しいだろう。


 そしてそうこうしている内に、崖に出来た洞窟にたどり着く。


「こんなところに洞窟が……」

「侵食系の洞窟みたいでさぁ。ここに入ってしまえば後は一本道、もうすぐですよ」


 侵食というと海水や川水、雨水や地下水などが要因で形成されていくのを思い浮かべるが、異世界に関して言えばそこへ来て更に魔力による侵食や精霊による侵食なども絡んでくる。


 それに、迷宮が出来た場合も、迷宮核破壊後に一部の洞窟部だけが残される場合もある。

 

 その為か、異世界ではこういった洞窟の類はわりと出来やすいようだ。


 洞窟に入り、暫く歩き続けると、そこを抜けた先です、と男が言った。


 洞窟の出口が大きく口を開けている。穴から出ると既に大分日が傾いていた。周囲も薄暗いが、眼下には確かに何軒かの木造家屋が見える。

 

 局地的な盆地と言ったところで面積そのものは狭い。男は村と言っているが、集落としたほうがしっくりと来る程度の規模だ。


 穴を抜けた先は若干勾配が急な坂になっている。当然だがここをまた戻るとしたらこの坂を上がるしかない。


「出入り口はここだけなのか?」

「へい、だからこそ、知ってる人も少なく地図にも載らないような村なんですよ」


 なるほどな。実際が男の言っているとおりなのかはともかく、見えてる範囲なら確かに出入り口はここ一つ。


 何かあっても引き返すのは色々と難しい地形だな。


「やぁこれはどうも、実は客人を連れてきてね」

「へぇ客人をですか? これはこれは歓迎いたしますよ」


 坂の途中に木製の門があり、そこに門番が二人立っていた。弓のセットされた矢筒を肩に掛け、取り回しの良さそうなショートスピアを手にしている。


 服装はシャツやズボンの上から胸当てと膝当て。頭には赤いバンダナが巻かれていた。


 自称、商人の男が話すと門番はあっさりと道を開けてくれた。一見すると閉鎖的に見える村だと言うのに嫌に愛想がいい。


 それが妙に白々しくも思えるわけだが、他の皆は特に気にはしてないようだ。

 ただ唯一、イズナだけがピリピリとした空気を纏っている。


 俺は悟られない程度に後ろを(・・・)確認しつつ、案内されるがまま村に入っていった。


 家屋の数は八棟、その中で一番大きな家屋に通され、村長を任されているという人物とご対面となった。


 こういった村の村長にしては若い。

 見たところ四十半ばといったところか。

 

 村長は終始笑みを絶やさなず出迎えてくれた。


 腹は出てるが腕は筋肉で盛り上がっている。髪の毛は剃り上げたような見事な禿頭だな。


「こういった村ですからね。客人は大歓迎です。時間も時間ですし早速食事を用意させましょう。土砂の話も承知しました。明朝にでも村から腕っ節の強いのを何人か派遣致しますよ」

「本当ですか? いや、それはありがたいです」

「村長、実は最初はこちらの若い連中があの土砂を何とかしようとしていたみたいでね」

「あの土砂を? あなた方のような若い男女が? アハハッ、これはこれはご冗談がお上手だ。そんなのは道具でも無ければ無茶ですよ。若いからついついチャレンジしてしまいたくなるのでしょうが、こういう時は素直に他者の助けを借りるのも大事ですよ」


 村長が膝を打ちながら愉快そうに話す。 

 あの土砂ね……一見親切心で言ってくれてるようにも見えるが、笑みの端々に小馬鹿にしたような感情が見え隠れしている。

 

 まぁとは言え、一応は好意の表れということらしいしな。


「ま、まぁ助けてもらえるならそれはありがたいっすね!」

『そうですね、男手が多いほうがやっぱり』

「何でもいいのじゃ! 我はとにかくお腹が減ったのじゃ! シェリナ様も、グフッ!」


 肘鉄を食らわせたらネメアが涙目で俺を睨んできた。仕方ないだろ、特にこんなところで間違ってもその名前を出すんじゃねぇっての。


「し、シェリー様もお腹を減らしているに決まっているのじゃ!」

『え? あ、いや私はそんな――』


 だけど、そこで腹の音がくぅ~っと鳴いた。シェリナは腹の音もなんだか可愛らしいな。

 

 う、うぅ、と本人は赤面して恥ずかしそうだけど。


「ははっ、確かに良い時間ですからな。もう間もなく準備が整うと思いますので暫しお待ちを」


 そして夕食の準備が整うまではこの部屋で待つことに。


「いや、しかし本当に村の人が良い方で助かりました」

「へい、ここは皆、気のいい連中ばかりでさぁ」

「本当に、おかげでちゃんと屋根のある場所で眠れるねパーパ」

「そうだなムスメよ!」


 全く随分と大げさな喜びようだな。


「ところで、俺たち以外にもよくこの村には人がくるのか?」

「え? いやいや、先程も申し上げましたが、ここは地図にも載っていない目立たない村ですからね。そうそう人は立ち寄りませんよ」


 ふ~ん、立ち寄らないね。その割には、俺達に料理を振る舞うぐらいの余裕はあるんだな。

 それに、外面こそいいが、村の連中は全員何かしらの武器を隠し持っている。

 

 門番以外は目立たないようにしているが、近くで立っている二人も背中に曲刀や手斧を携帯しているしな。


 正直ただの村人と言うには物々しすぎる。ただ、現状じゃ状況証拠にしか過ぎないしな。

 向こうから直接何かされたわけでもない以上、ここで騒ぎ立てても仕方ないだろう。


 隠してる得物も護身用と言われればそれまでだ。


「それでは皆様、お食事のご用意が出来ましたのでこちらへ」

 

 村人の一人に案内され、食事の用意された家屋に通された。

 特に椅子などはないから床に直に座る形だが、テーブルの上にはちょっとした煮込み料理などが並んでいた。


 周辺の魔物や獣を狩ってきて食材にしているとか。野菜やキノコは俺達がやったように森に生えてる物なようだ。


 味付けは悪くなく、十分に及第点と言えだだろう。ネメアも、まぁまぁ、なのじゃと若干失礼だがガツガツ食べていた。


「いや、これは旨いですなぁ」

「それは良かった。お代わりもありますからどうぞ遠慮なさらず」


 皿が空になると村長が進めてくるので、結局言われるがまま食す形に。


「……パーパ、何か私眠くなってきちゃった」


 最初に反応を示したのはムスメだった。そして、疲れが出たかな? どうも私も、と次にパーパがダウン。

 

 そこからマイラ、シェリア、ネメアと順番に意識を失っていき、俺も眠気に誘われるがまま意識を手放した――


 




◇◆◇


「あ、あの、あのあの、お、起きてますか?」

「う、う~ん……」


 何者かに肩を揺さぶられ、俺の意識が覚醒していく。

 聞いたことのない声であり、目覚めてみると、眼鏡を掛けた少年の姿がそこにあった。


「……誰だお前?」

「ひ、ひいいいぃ、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいぃぃ!」

「は?」


 思わず怪訝な声を発し、目を細めてしまう。とりあえず目覚めて上半身を起こし、そいつの顔を見て問いかけた途端にこの反応だ。


 何か悲鳴を上げて猛烈な勢いで後ずさりしてしまった。


「ほ、本当にごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい! 何か僕と一緒で騙されて運ばれたみたいだったし、中々目を覚まさないからちょっと心配で、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、僕なんかが声を掛けて本当に、本当に、ごめんなさい~~~~~~!」


 地面に頭を擦り付けて、へへ~! と言わんばかりの体勢で謝罪の連続。


 なんだこいつ? 意味がわからないが、ただ、この格好は――


「あれ? い、一体どうなってるっすか! ここはどこっすか!」

「パーパ! 私怖い!」

「だ、大丈夫だよムスメ、私が、パーパがついているからね!」

『あれ? あれれ? あれれ~?』

「え~い、なんなのじゃ! ここはどこなのじゃ! シェリー様お気を確かに! 我が必ずお守り致しますのじゃ!」

「目覚めてすぐに騒がしいなネメアは」


 呆れたように言葉を漏らす。まぁネメア以外の皆も中々落ち着きがないが。


 まぁ、それも仕方ないか。何せ今俺たちはどこかの部屋に設けられた牢獄のような場所にいる。


 正面も鉄格子で阻まれ、逃げ道を塞がれてしまっている状況だな。


「クゥ~ン」

「あぁ、イズナにはちょっと悪い事したな。でも無事でよかった」


 頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。何せこの中でイズナは気がついていた筈だからな。


「あ、あの、皆さんお仲間さんですか?」

「というか、お前こそ誰なのじゃ~~~~!」

「ひいぃっぃぃいぃ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃイィイィ!」


 またこれか。ネメアは今の見た目が幼女だぞ? 

 なのにどれだけビビってるんだよ。


「え、え~と、誰っすか?」

「誰かはまだ知らないけど先客だ」

『せ、先客さんですか……』

「変わった格好の人っすね……」


 マイラが率直な感想を述べる。そう、俺もそれは気になっていた。少年は縁のない丸眼鏡を掛けていた、全体的に顔は小さめ、見た目にはかなり幼く見えるな、可愛らしい面立ちをしていて正直この場にはそぐわない。


 体格は全体的に小柄だな。ただ、着ている服装がな……この少年、何故か着物姿だ。


「なぁあんた」

「ひぃいいぃぃい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんんさいぃいぃいい!」

「こりゃ駄目なのじゃ」


 確かに、こんなにビビられていると話どころじゃないな。


「そもそも、どうして私たちはこんなところにいるのでしょうか?」

「確か食事の後急に眠くなって……」


 そしてパーパとムスメが重要な事を口にする。


 そう、その理由は間違いなく――


「どうやらお目覚めのようですねぇ」


 そんな俺達の耳に、件の村長の声が届いたわけだが――

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