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現代で忍者やってた俺が、召喚された異世界では最低クラスの無職だった  作者: 空地 大乃
第二章 それぞれの旅路編

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第百三十六話 帝都にて

「……遂に、ここまでこれた――」


 喉の枯れた声だった。その者は緑色の外套で全身を包み、目深にフードを被せた人物であった。


 小高い丘の上からその風景を望む。フードに隠れて、顔は判然としないがチラチラと金色の毛先だけはフードから伸びて、風に揺れていた。


 声には疲れの色が見えたが、汗はかいている様子がない。ただ、水筒に手を取りグビグビと中身を喉に流し込み、プハっ、と一言だけ漏らした。


 水を飲んだことで声の調子は取り戻せたようだ。その声は女性っぽくもあるが、高めの男性の声と言えなくもない。 

 外套で全身がすっぽり包み込まれているため、体型も読めないが、ただ腰には一本、細身の剣が携えられ、背中には矢筒と弓が掛けられている。

 

「それにしても……この森は、なんて有様だ。これだから蛮族の人間は――」


 吐き捨てるように呟く。その眼下の先には壁に囲まれた都と、森の残骸が見えていた。

 

 尤も、森はある程度の修復の痕跡が有ったのだが、その人物の目には魔法の力で無理やり修復された不自然なものであることがよくわかる。


 何せ精霊の数が圧倒的に少ない。確かに失われた自然を人間たちが独自に編み出した魔道によって再生したりは可能だ。


 だがその力であっても失われた精霊の命までは取り戻すことは出来ない。そして精霊のいなくなった森は例え再生できたとしてもあくまで仮初の命でしかない。

 

 本当であれば精霊で補うべき命を魔力でごまかしているに過ぎないのだ。これでは本来の自然の役割を半分もこなすことが出来ない。


 このような森の残骸を見るたびにその者はとても悲しい気持ちになる。

 人間はあまりに魔法に頼りすぎているとも考える。故にその一族も人間を蛮族と呼ぶ。


 だが、同時に驚異的でもある。何せ人間の欲には際限がない。その上、寿命こそ他種族に比べ短いがその分よく繁殖する。


 気がつけば多くの種族がこの人間に飲み込まれていっていた。仲間もどれほどのものが理不尽に奴隷におとされたか判ったものではない。特にそれはこの帝国において顕著である。


 だから――当然こんな場所にきたくはなかった。人里になど敢えておりてくる必要はなかった。


 だが――一つの予言があった。そして一つの大事もあった。このまま手を拱いていては集落は確実に壊滅させられる。


 だから――いかなければいけない。条件は厳しい、先ず正体は絶対に知られてはいけない。

 もし知られでもしたらあの帝都のような場所であれば間違いなく捕らえられてしまうだろう。


 勿論、そうなったとしてもやすやすと捕まるほど柔ではないが、それで無駄に騒ぎが大きくなっては、勇者を(・・・)連れて帰るどころではない。


 それだけは避けなければならない。ただ、もしあの予言通りなら――


 スーハー、と大きく深呼吸をした。そしてその人物は覚悟を決めた様子で、その丘を下り始めた。自らの責務を確実に果たすと心に決め――






◇◆◇


「だから~ここはやっぱりズバッと! そのあんたの仲間の女をかっさらって帝都をでるのが一番だと思うんだよあたいは」

「……はぁ――」


 傭兵ギルドでバーバラと顔を突き合わせながら、ケントはこれみよがしにため息をついてみせる。

 それに不機嫌そうに眉をひそめているのは、以前彼と仮面シノビーコンビを即興で組んでみせた傭兵ギルドの女ボス、バーバラだ。


「大体、シノブにあんたらの事頼むって言われてるから、あたいだってこうやって真剣にアイディア絞り出してるってのに、なんでそんな顔されなきゃいけないのさ?」

「……アイディアなのかこれ?」


 冷静に突っ込むケントの姿がそこにはあった。 ちなみにケントに関して言えば一応あの仮面を付けてここにやってきている。


 あのシノブの件があった後、帝都でも様々な事があった。

 その中でも特に大きかったのは、一応は彼らにも宮殿や城を離れる自由が与えられたことだ。

 

 だが、当然これにもわけがあり、ようは帝国側から与えられた任務をこなすためというのが大きい。


 尤もその任務も現状は基本ダンジョンの攻略と帝国側が必要に迫られた素材の回収などが主だ。

 内容そのものはこのバーバラが経営している傭兵ギルドの傭兵がこなす仕事とそう大差はない。


 ただ、この傭兵ギルドにしてもあれから(・・・・)妙な事になってはおり。


「おいこら! バーバラはいるかゴラァ!」


 そこへやたらと声の大きなゴリラのような男たちが数人、ギルドへとなだれ込んできた。


「チッ、騒がしいね。大体、入るならドアから入りな! 常識がないのかい!」

「うるせぇ! 既にドアより穴のほうが大きいだろうがここは!」


 ゴリラが叫ぶ。確かに、この建物の有様はなかなか壮絶だ。確かにドアらしきものはあるが、その周りの壁は穴だらけであり、よく建物が無事だなと感心してしまうほどだ。


「たくっ、それで今回はなんだい?」

「なんだいじゃねぇ! この素材、以前テメェんとこで買い取ってもらった金額安すぎだろうが! この詐欺野郎が! 本来ならこの三倍はするはずだ。このクソアマ舐めた商売しやがっって! とっとと残りの金払いやがれ!」

「は? 一体いつの話ししてるんだい? だいたいソレ、解体がめちゃめちゃすぎる。やたらと傷が付いているし、肉にしても一番旨い箇所の繊維がボロボロじゃないか。そんなもの三分の一でも値段がついただけありがたいと思ってほしいねぇ」

「はん、そんなごまかし通用すると思ってるのか? 通りにできた帝国公認の傭兵ギルド様は、きちっと正規の金額で買い取ってくれたぞ!」

「……またそっちのギルドの話かい」


 げんなりとした表情を見せるバーバラ。ケントもやれやれといった様子を見せる。


 新しいギルドについてはケントもよく知っていた。なぜならある程度街へ行く自由も認められた後、真っ先にケントが探したのがバーバラのギルドだったからだ。


 ケントはあの森でバーバラと一旦別れる際、彼女の詳細については聞いていた。シノブと知り合いなのも判った為、ケントも自分の正体を明かし話は繋がった。


 尤も、その時に肝心のギルドの場所を聞きそびれてしまった為、多少探すこととなったが、その時ようやくギルドを見つけて入った彼の目に映ったのが、帝国の官僚と激しくいい争うバーバラの姿だったのだ。

 

 ケントが仮面を被ったのも勿論そのことがあったからだが、内容を聞いているとようは、帝都内において帝国公認の傭兵ギルドを建設することとなったようだ。


 その為、非公認の傭兵ギルドが、しかもこんなスラムなどという掃き溜めのような場所で傭兵ギルドを開いていてもらってはあまりに紛らわしく正規ギルドの評判にも関わるため、すぐにでも撤去するようにとの話であった。

 

 勿論、そんなことを急に言われてはいそうですかと納得できるバーバラでもない。

 バーバラは断固拒否の姿勢を貫いたが、官僚は少しでも立ち退き料を貰えるあいだに出ていった方が身のためだぞ、と言い残し去っていった。

 

 それからである、バーバラのギルドにこのようなわけのわからない連中が嫌がらせのように現れるようになったのは。


 こういった連中の多くはかつてバーバラと一悶着起こしたような者が多い。また一度も傭兵登録したことのないようないかにもゴロツキと言った風貌の男がやってきてイチャモンをつけたりバーバラに乱暴を働こうとしたりといった命知らずの連中もいる。


 もっともこういった連中の末路は常に同じであり――


「おいあんた、見ねぇ顔だな? 変な仮面なんて被ってるが新入りかい? だったらこんなギルドは止めておいたほうがいいぜ? 今は帝国公認の正規のギルドってのがな……」

「……悪いがそっちには興味がない。それと、危ないぞ?」

「あん?」

「あたいの客人に余計な手出ししてんじゃねぇぞゴラァ!」


 その瞬間だったゴリラの一頭が天井をぶち抜いてどこぞへとふっとばされていった。

 バーバラのアッパーカットが見事に命中したのだ。


「……やれやれ、遂に天井もか」

「て、テメェ! 何しやがんだ! こっちが下手にでてりゃ!」

「うるせぇ! いい加減こっちもうんざりなのさ! 文句があんならとっとと来な! 相手してやらァ!」

「こ、このアマぁ! 二度と表に出れねぇ身体にしてやん、ゲフゥ!」

「こ、この野郎ぶっ殺してボッファアァアアァアア!」

「……ご愁傷さまだな」


 結局天井に二つ、入り口の壁に一つ穴が追加された。気の荒いバーバラは以前から手が先に出ていた為、特に珍しくもない光景だが、それにしても最近は次々とこんな連中が現れるため、バーバラも修復は諦めてるようだ。


「あ~全くイライラする! なんだってんだ一体!」

「……大変だな。それにしても帝国はどうして急に公認の傭兵ギルドなんてやりだしたんだ?」


 バーバラの前に官僚がやって来てから、新しい傭兵ギルドが出来上がるまでは実に早かった。

 正味二日の突貫工事だが、魔導師の力も借りた為か、見た目は小奇麗で立派な建物ができあがっていた。


「気を悪くしないでおくれよ? 一時英雄が潜るからって理由で帝都内のダンジョンから傭兵が締め出されたんだけどねぇ」

「……あぁ――」


 ケントは思い出したように声を漏らす。あの最初の迷宮攻略の時だろう。


「あの時に随分と文句を言ってね。しかも本来の予定よりも立入禁止期間も延ばされたからね、本当これでもかってぐらいガンガン文句を言ったのさ」


 立入禁止になったのはマグマやシノブの件があったからなのはケントにも容易に想像がついた。


 公にされていない穴の存在に関しても含めて、色々手を回す必要が生じたのだろう。


「こっからはあたいの推測だけど、そのこともあったから帝国は今後の事も踏まえて傭兵ギルドを公認にして管理したいんだろうさ。今もケントの仲間がダンジョン攻略に駆り出されているんだろう?」

「……一部は無理やり(・・・・)に近いけどな」


 ケントが答える。一部とはケントは勿論ヒジリや、ユウトとその親衛隊、他にも帝国に不安を感じている生徒はいる。


 ただ、カコの事もあり、多くの生徒は帝国に逆らうのは得策ではないと考えている。

 一応建前は、帝国としては事を大きくしたくないため、カコが犯した罪に関しては現状、超法規的措置として問題視しないという事であった。


 だが、場合によっては帝国に対する反逆とも取られる行動をとった者を、これまでと同じような待遇では扱えないということで、帝国の監視の下で行動に制限を与える、と言う話ではあったがこれは事実上の軟禁であり人質である。

 

 その証拠に、あれから何を言おうと誰一人としてカコへの面会を許されていない。


 勿論カコには何の非もないことであり、悪いのはどう考えてもマグマやサドデスなのだが、帝国によるでっち上げでこのようないわれのない罪を着せられる事となっている。


 だが、これは逆に他の生徒を萎縮させる要員にもなっていた。結局帝国に逆らいでもすれば、英雄だなんだと持て囃されていても、すぐに手のひらを返されいわれのないことで捕らえられ、もしかしたらそのまま処刑台おくりになんてことも有り得るかもしれない。


 それならば帝国のやり方に大人しく従っておいたほうが身のためだと考える者が増えてもおかしくはない。

 また、こういった帝国の力を後ろ盾としては最高と捉えるものもいる。

 元々マグマと似たような思考を持っていた連中がそれだ。

 

 とにかく今回の件があってクラスの皆も一枚岩というわけにはとてもいかなくなった。

 クラスの中には帝国に従うことで甘い蜜を啜り続けようと考えている者、帝国に不満があっても萎縮して逆らえない者、ケントやユウトのように機会を見てとにかく帝都から脱出し帝国の管理下から逃れようと考えるもの、シノブやアサシを含めた七人のように既に帝都から脱出した者――

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