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第百三十話 ゴブリンキング

 長い隧道を抜けた先、そこにはまたもや広めの空洞が広がっていた。


 だが、そこで俺が見たのは、意外な人物がゴブリンに襲われている光景であり。


「全く、ハウンドかと思ったらまさかお前がこんなところにいるなんてな」


 思わずそう声を上げていた。そのおかげであいつ、マビロギの奴も俺に気がついたようだ。

 それにしても、ハウンドの野郎がここで襲われているか、場合によってはとっくに殺されていてもおかしくないと思ったが、まさか姿がみえないとはな。


 全くしぶとい奴だ。状況を見るに、恐らくは先ずマビロギがここで襲われていて、それを見たハウンドが彼女が囮になってくれているなら丁度いいとでも思って奥に向かったのだろう。


 まぁ判らないでもないけどな。ゴブリンはゴブリンでも、見たところこいつはゴブリンキング。



ステータス

名前:ゴブリンキング

レベル:62

種族:魔物

クラス:子鬼系種王

パワー:1550

スピード:360

タフネス:2800

テクニック:1020

マジック:0

オーラ :2500


固有スキル

王の威光、兵力強化

スキル

異種交配、仲間を呼ぶ、痛恨の一撃、兵士投げ、王者の雄叫び

称号

歩く生殖鬼、ゴブリンの王、女王の傀儡



 これが王の実力だ。ゴブリンとは言え、キングでLV62ともなればステータスはそれなりに高い。

 後は気になる称号もあるが――ただ、ここの状況だけみて判断したならハウンドは迂闊だな。


 さて、後はマビロギだけどな。彼女はもう俺に気がついたけど、キングや他のゴブリンは鈍感なのか、まぁそれなりに気配を薄めているとは言え、俺にまだ気がついていない。


 マビロギは、すげー睨んできてるな。

 助けて~の一つでもあれば可愛げがあるんだけど、絶対に俺には助けを求めたくないという意思を感じる。


 下手したら、くっ! 殺せ! とでも言いそうだ。

 

 強情だね全く……ふぅ、でも見てしまったし、やっぱいくら勘違いしていたとは言え、マイラやシェリナから説教喰らうほどの事はやってしまったからな。


 帝都では色々あったけど、最終的には人質として利用までしたし、ハウンドと違って俺にも多少は非があると言えなくもない。


「あ~! もうしょうがねぇなぁ! 土遁・石壁の術!」


 印を結び、地面に忍気を流し込む。すると後ずさりするマビロギとゴブリンキングやその他のゴブリンとの間に一枚壁が出来上がった。


「ギギッ!?」


 ゴブリンキングが驚き、そして気配を消すのを止めた俺を振り返る。

 壁を作ったのはお前か! と憎しみの篭ってそうな目を向けてきたな。


 全く、ゴブリンもゴブリンナイトで騎士クラスだし面倒だな。


 とは言え、ゴブリンキングのターゲットは完全に俺に移ったようであり、キングの命令で配下のゴブリンが一斉に襲い掛かってきた。


 わかりやすいね本当に。

 なので、俺は霧咲丸を抜き、近づいてきたゴブリン共を膾切りにしていく。


「グォ!?」

 

 ゴブリンキングがたじろいだ。けしかけたゴブリンはすべて斬り殺したからな。


 それで驚いているのかもしれない。

 まぁ、それでもまだ、結構な数いるんだけどな。


「い、言っておくが、僕は助けてなんて言ってないからな! ふん! だけど好都合だ! 僕がさっきやられたように今度はお前が囮になって僕の代わりにやられるんだ! ザマァみろ!」


 は? なにかと思って見てみたら、奥の方へとマビロギが走っていくのが見えた。


「お、おい! ちょっと待てって!」

「はん! 待つわけ無いだろう? 僕がやられた屈辱、そこでゴブリンにやられて思い知れ!」

「いや、馬鹿! 違うそういう意味じゃなくて――」

『グォオオオオォオオオォオオオオ!』


 うわ! うるせぇ! クソ! これはキングの王者の雄叫びか! 


 マビロギに集中していたからもろ鼓膜に来たぜ。

 全く本当に騒音以外の何物でもないな。

 そしてそうこうしている内にマビロギの奴、更に奥にいってしまったし。


 全く、折角助けに入ったのに、また自分から危険に(・・・)飛び込んでいってどうするつもりだあいつ――


 はぁ、仕方ない。とにかく、こいつらをさっさと片付けて後を追うか。


「雷遁・百雷の術!」


 百本の雷がゴブリンに降り注ぐ。この程度なら雷一本につき数十のゴブリンを倒すことが可能で、空洞内にいるゴブリンはキングを残してほぼ死んだ。


 残ったのも虫の息で、後はこの王さえ倒せばここは片付く。


「グォオォオオ!」


 そして残ったゴブリンキングは周辺に転がる死体をむんずっと持ち上げ俺に向かって投げつけてきた。


 兵士投げというスキルだな。別に死体でも問題なく発動するようだ。


 それをやたらめったらと投げつけてくるが俺はそれを全て避けた上で、久しぶりに生み出した穿孔手裏剣を連射。


 ゴブリンの腹に命中するが、中々タフなだけあって、それだけじゃ死ぬことはない。

 そこから俺が一気に近づくか、俺がゴブリンの正面に達すると、大剣にオーラを纏わせて叩きつけてきた。


 これが痛恨の一撃だろうな。威力は三~四倍ってところだろうか。衝撃で洞窟が揺れ、天井から結構な量の土塊が落ちてくる。

 

 並の人間ならこれだけでも一大事だが、俺は落ち着いて対処しつつ、ゴブリンキングの隙をついて――


「雷遁・紫電一閃!」


 霧咲丸を構え、ゴブリンの横を駆け抜けると同時に一閃――紫電がバリバリと王の身体を駆け巡り、そして、肉体もバッサリと切り裂かれたことでゴブリンキングは倒れた。


 もう起き上がってくることはないだろう。


 さて、これでこの場は片付いたし、いよいよ目的の相手を倒しに行くとするかな――


 




◇◆◇

 

(まさかキングまでいやがるとはな――)


 ハウンドは焦っていた。今回のゴブリンの大量発生によってある程度位の高い冠種がいることは予想していたが、それでもせいぜいジェネラル級程度だろうと考えていた。


 そして、実際ゴブリンが塒にしている場所に入り、そうそうにゴブリンジェネラルを見つけた。

 後はこいつを倒し、あの針術師の連れてる女二人だけを残して全員をぶっ殺し、報酬を総取りで楽に金儲けが出来る。


 その程度の話だと思っていた。だが、それなのに王とは、ハウンドはそれなりに場数は踏んでいると自負している。


 だからこそわかるのだ。冠種の王ともなれば、いくら灰色の猟兵団として名が広まってきた俺達でも勝てるわけがない、と。

 

 しかもあのゴブリンのわけのわからない強襲で仲間も犬も失っているのだ。

 ハウンドたった一人では、ジェネラルだって倒せるか怪しくなってしまう。

 

 毒を使った戦法は、周囲に囮となる駒がいてこそだ。そうでなければ毒が回るまでの時間は稼げない。


 だが――神はまだ俺を見捨ててはいない。そうハウンドは考えていた。

 何故ならゴブリンキングがいる場所に出たにも関わらず、既にアレにはターゲットに決めた相手がいたからだ。


 だからこそ、逃げることが出来た。流石に戻ることは出来ないため、前に進むしかなく、その奥はさらに地下へと続く勾配となっていたが、あのままあそこにとどまるよりは進んだほうが良いと判断した。


 何故なら、流石にキング以上の存在が更に重なるなんて事があるはずないからだ。

 いるとしてもキングが従えていた予備兵が、ある程度そろっているぐらいと、そう考えていた。


 だが――


「ば、馬鹿な、こんなことが……なんなんだこりゃ! 畜生来るな! 来るんじゃねぇ! や、やめろ! 俺は男だ! テメェらゴブリンのおもちゃになんか、ぎゃ、ギャァアアアアアァアア!」





「な、何なのよ今の声……」


 マビロギの肩がビクンッと震えた。あの男をキングの囮にして、マビロギはあの傭兵然とした男の後を追うように、地下へと続く勾配を抜け、更に奥へ奥へと突き進んでいた。


 あの男に関してはどうなっても構わないと考えていた。

 当然だった。帝都では自分を人質にし祖父であるマジェスタを脅迫し、その後何故か飛ばされた見知らぬ森では、事もあろうに衣類を剥ぎ取ろうとしてきたのだ。


 おかげで今まで一度たりとも見られたことのない裸(上だけだが)を見られた上、襲われその胸さえも揉まれたのである。


 そんな男、ゴブリンに襲われて当然、死んで当然だ。


 だが、やはり解せなかった。確かにゴブリンキングは強力だ。だから並の魔物使いであればティムを成功させることも難しい事だろう。

 

 だが、マビロギは自分の実力には自信がある。レベルも最初にあの男と戦ったときよりも上がっていた。


 それでも単純な数値だけでみればキングの方がレベルは上だったが、オーラに関していえば、十分ティム出来る程度にまで差は詰まっていた。


 だが、にも関わらずマビロギにはキングをティムすることが出来なかった。

 もしあそこでキングをティムできれば、今度どう動くにしてもかなりの戦力になる筈だったのだが――


 とにかく予定は崩れてしまった上、折角使役していたゴブリンも再び全て失ってしまった。

 今必要なのはやはり新しい魔物である。

 

 その為にマビロギは奥を目指していた。マビロギはなんとなくではあるが、魔物がいそうな場所を感じることが出来る。


 それによって、この奥にも魔物がいることを知ることが出来た。

 間違いなくゴブリンであろうが、この際なんでもかまわない。とにかく、すぐにでも兵力を補わなければ。


 そう思いつつ、最奥部へとたどり着いたのだが――


「グググググウァアアァア! ヂクジョウ、ヂグジョ、どうじて、おでが、ごんな、ア"ァ"ァ"ア"ア"ア"ァ"ァ"ア"ア"ァ"ァ"ア"!」


 そこで先ず目にしたのは、肉団子にされかけていたハウンドの姿であった。

 肉体の四分の一程がミンチされ、それを一生懸命こねているゴブリンがおり、更に必死に腰を振っているゴブリンも存在する。


 その光景に、思わず、ヒッ、と声を漏らすマビロギであり。


『ガァアァア! ガァアア! グギャァア!』


 更に異様な声が彼女の耳に届く。すぐさま声の主に顔を向け、そしてマビロギが目を白黒させ、顔を歪ませた。


「な、なんで、なんであんなのがここに、そんな、いや、いや、いやぁああぁああぁあ!」

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