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第十二話 初日の訓練終了

「ふん、無職の癖にしぶとい奴だ。まぁいい、今日の訓練はこれで終わりだ。明日もたっぷりしごいてやるから、覚悟しろよ」


 太陽が西に沈んでいき、辺りが薄暗くなって来た頃、ようやく訓練が終わった。


 だが、どうやら明日も同じことを繰り返すつもりらしい。勘弁してくれ、やられる姿を演じるのも疲れるんだから。


「……大丈夫かシノブ?」


 するとケントがやってきて、わりとのんきな口調で聞いてきた。

 まあ、全然大丈夫なんだけどな。


「大丈夫じゃないよ! こんなに怪我をして、もうボロボロじゃない――こんなの、酷いよ……」


 うん、チユも涙目で訴えている中悪いんだけど、普通にノーダメージだからね。だから、お願い、そんな悲しい顔しないでくれ。心が、心が痛い!


「とにかく! 今日私も回復魔法覚えたんだ! だから、いますぐ掛けてあげるね!」


 ……え?


「あ、いや、チユ、そう言ってくれるのはありがたいんだが、俺、大丈夫だから。そんなことに魔法使って、疲れさせるほうが申し訳ないし……」

「そんなこと気にしなくていいよ! それに私みたいなクラス持ちは、相手を回復してもレベルが上ったりするみたいだし、魔法の効果も上がるんだって。だから、回復したほうが私のためにもいいんだよ!」

 

 痛い! 心が痛い! そしてツラい! それ聞いたらますますツラい! これ本物の傷じゃないし! 忍術で作った偽物だし!


「それじゃあ、回復するね」

「え? いや、ちょっとま……」


 て、止められる雰囲気じゃないな。本人は親切でやってくれてるわけだし。俺の事を心配してくれてるわけでもあるのだし。

 

 ふぅ、仕方ない、こうなったら、体遁・自傷の術!


「うん、これで大分怪我は回復したと思うけどどうかな?」

「ああ、おかげで楽になったよ。ありがとうチユ」


 ふぅ、なんとか間に合ったな。自傷の術は、その名の通り、自分の体を忍気で本当に傷つける術だ。


 そんなもの何に使うんだ? とも思われそうだが、相手を騙す際、相手に忍者がいた場合、幻術や変化の類だと見破られないとも限らない。


 だけど、自傷の術なら実際に傷ついているわけだからな。下手なごまかしより効果的だ。


 そんなわけで今俺は自分で自分を傷つけた後、チユに回復魔法で治してもらってる。


 なんかそれだけ見るとどんな変態だよって話だよな……。


「シノブ君大丈夫かい!」


 あ、また愚直で暑苦しいのが来た。


「ああ、俺は何とか大丈夫さ。体の丈夫さはわりと自信があるし、こうやってチユにも回復してもらったしな」

「へ~、チユってあんた達いつの間にかそんなに仲良くなったんだね~」

「え!?」


 レナの言葉にチユが慌てた。おいおい、そこをいちいちつくなよ。こっちもわりと自然に呼べたなとか思ってたのに。


 なんかマオとかもニヤニヤしてるしな。


「うんうん、クラスの皆が仲良くなるのはいいことだよね。こういう状況だし、協力し合うのは大事だよ」

「……え? それユウト本気で言っているのか?」

「うん? 何か問題あったかな?」


 マイが呆れ顔でため息を吐いたけど、俺もよく判らないな。まあ甘ちゃんだとは思うけど、協力出来るならした方がいい。


「……お前もたいがいだな」

「は? え? どういう意味だよケント?」

「……自分で考えることだ」

「うぅうぅう……」


 何か今度は俺がケントに呆れられてるような気がするけどなんでだ? そしてチユはなんか唸ってるし。


 とにかく、俺が大丈夫そうだと判った後は他の皆の様子もみたいって事で親衛隊の女子を連れて向こうへ行った。

 

 ユウトは悪いやつじゃないけど、相手してると結構疲れるからな。

 とりあえず一安心ってとこか――


「よぉ、無職らしい訓練だったな~本当、中々格好良かったと俺は思うぜ」


 そう思ってたのに、またこいつらか。マグマ、ガイ、キュウスケの三人組。


 本当この連中、何かというと俺に絡んでくるな。とりあえず適当に流すか。


「ああ、俺今日は結構頑張ったかもな。それじゃあまたな」

「待てコラ!」


 チッ、さりげなく自然に立ち去ろうと思ったのによ。ケントはちょっと口元がムズムズしてるけど。何かおかしいことでもあったか?


「テメェ舐めてんのか? んなもん嫌味に決まってんだろが! 無様すぎて笑えねぇんだよこの無職野郎!」


 あ、そっちね。てっきり俺のタフさに感銘を受けて、お前の事を誤解していたぜからの熱い友情が芽生えるかと思ったんだけどな。


 ま、こいつと友情築くつもりもないけど。


「そ、そんな言い方良くないよ! シノブくんだって頑張ってたんだし!」


 するとチユが前に乗り出すような体勢で連中に訴えた。うん、ごめんそこまで頑張ってない。いや、ごまかすために少しは頑張った事になるのか?


「あん? シノブだ? てめぇ、チユ! どういうつもりだ! なんでこいつを庇う! なんでそんな親しげに呼ぶ! まさかテメェ、こいつとやったのか!」

「な!?」

「ブッ!」

 

 突然何いいやがるんだこの野郎は! 思考がぶっ飛びすぎだろ。なんで名前で呼ぶイコール、そういう関係になったとかいう話になるんだ!


「そ、そんなんじゃないよ! おかしな勘ぐり止めてよ! シノブくんとは、その、少し親しくなっただけで……」


 いや、チユもなんでそこで声を小さくさせる、顔まで赤くなる? ちょっとそういう話が出たぐらいでどれだけ照れ屋なんだよ……。


「てめぇチユ、俺という男がいながら、そんなへなちょこな無職の底辺カス野郎に色目使うなんざな……」

「いや、そもそもお前はチユとどういう関係なんだよ?」

「お前だぁ? 喧嘩売ってんのかこら!」


 いや、お前なんてお前で十分だろ。しかし沸点低いなこいつ。


「大体チユは俺の女だ! てめぇ如きが気安く呼び捨ててんじゃねぇ!」


 ……は?


「……そうなのかヒジリ?」

「ぜ、全然違うよ! 初耳だよ! 大体どうして私名前で呼び捨てにされているのかも判ってなかったし!」


 俺の頭に疑問符が浮かんだところで、ケントがチユに確認してくれた。

 その回答を聞くに、なんかこいつからトラブルの匂いしか感じられなくなったんだが。


「いや、チユは普通に否定しているが、なんでそうなってんだ?」

「あん? ふざけんなよコラ、この俺様が惚れたんだから、チユだって俺に惚れてんに決まってんだろコラ」

「え? 何それ――」


 うわ~これやっぱヤバいやつだ。嫌な予感はしていたけどその斜め上を行くヤバさだろ。チユもドン引きですわ。


「……いや、マグマ付き合ってるって、告白したとかそういうやりとりがあったんじゃないのか?」

「あ? なんでそんなことする必要があんだよ。俺が惚れた、相手が惚れる理由なんてそれで十分だろ」

「キキキキッ、な、中々面白い考えだと俺っちは思うかな……」


 お仲間ふたりも引いてるだろこれ。このふたりも初耳だったのかよ。


「……お前、頭おかしい奴だったんだな」

「なんだとテメェこら!」


 ケントのストレートな物言い、嫌いじゃない。


「とにかく、チユはこう言ってるんだからお前にどうこう言われる筋合いじゃないだろ。ユウトも言っていたけど、今はクラスで余計な揉め事引き起こしている場合じゃないし、お前も少しは大人になれよ」

「は? 誰が餓鬼だこら! 無職に言われる筋合いじゃねぇんだよ!」


 駄目だこりゃ、全く話が通じない。最初から喧嘩腰な上、なんかやたら俺を目の敵にしてるしな。無職とか馬鹿にしている癖に。


「おい、お前たち何を騒いでいる? 大体もう本日の訓練は終わっているだろう。早く城を出て部屋にもどれ」


 ナイスタイミング。俺達の様子を目にした騎士が注意を呼びかけてきた。


 よく見たら、いつの間にか他の生徒の姿もないしな。


「チッ、覚えてろよ――おい、いくぞ!」


 結局そんな捨て台詞を吐いて三人は先に出ていった。


 俺たちもその後、城を出て宮殿の東宮に戻る為、帰路につく。


「で、でもシノブくん、だ、大丈夫?」


 その途中、チユが心配そうに声を掛けてきた。優しい子なんだろうな~チユは。


「俺は大丈夫だよ。それにあいつらだって、こんなところで無茶しないだろうしな。宮殿内だって騎士が見回っているわけだし」

「……だといいけどな」

 

 おいおいケントもそういうこと言うなって。まるでフラグみたいじゃないかよ。

 

 まあとにかく、宮殿に戻った俺達だったが――






◇◆◇


「おう、ちょっと面かせや」

 

 盛大なフラグでした。


 くそ、なんだってんだ! 本当なら夕食の時間まで部屋で大人しくしてようと思っていたのに、なんかユウトが部屋にやってくる気配を感じたから、いい加減勘弁してくれと、一旦部屋を出て、チョロチョロしたのが間違いだった。


 大体俺も気配消して歩けよ。何やってんだよ俺。

 まあ、そんなこと今更後悔しても遅いけどな。


 はぁウゼぇ。しかも三人に前から後ろから挟まれてる形だしな。

 それでも逃げようと思えば逃げられるけど、無職で弱いって事になっている俺が、消えるようにいなくなるわけにもいかないしな。


 やれやれ、仕方ないからとりあえずこいつらに付き合うことにする。

 大体、こんな宮殿で面かせってどこで何する気だ。


「ここでいいな、この階段の影なら誰にもみつからねぇしな。叫んでも無駄だぞ?」


 いや、ここでいいのかよ! 階段のある場所の影って、ガバガバ過ぎるだろ! ここ普通に上から見えるぞ! 正直影ですらないぞ! 揃いも揃って空間認識能力皆無か!


「キキキッ、ほ、本当にここでいいのか?」

「おう、どうみてもバッチリだろ。なんだキュウスケ何か文句があるのか?」

「全くだな、何の問題もないだろここなら」

「キキキッ、マグマとガイがそういうなら別にいいけどよ……」


 違った。キュウスケだけは普通に理解していた。ただ、強く出れないだけだ。お前、そこはもっと気持ち強く持てよ。


「お前、なんでこんなところに呼ばれたか判ってるか?」

「いや、さっぱり」


 ガツンッと一発殴られたな。お前いきなりそういうことやめろよ。油断したらお前の拳が普通に壊れんだから。


 咄嗟に首回して回避したけどな!


「舐めてんじゃねぇぞテメェ」

「…………」

「おいおいマグマ、弱い者いじめは止めてやれよ。こいつ、生まれたての児島みたいになってるぞ?」


 いや、誰だよ! それを言うなら仔鹿だろ! 


「キキキッ、涙流して完全にガクブルじゃんかよ。情けねぇ」


 いや、涙も流してなければ、震えてもいないけどな。もし本当に視えてるならそれヤバい霊だぞ。


「ふん、所詮無職ってことだな。まあいいさ、俺がいいたいのは二つだけだ。先ず一つ、テメェは二度と俺たちに舐めた口をきくな、もう一つ、これまでの詫び料として毎日百万円用意しろ。最後の一つ、今後チユの半径百億万キロ園内に近づくな、あと息もするな」


 子供かよ。大体二つとかいいながら三つ言ってるし、百万円ってこの世界の単位日本円かよ。大体百億万キロってなんだよ、そんな単位ねぇぞ。お前の数の単位どうなってんだ。大体園内ってどこの園だ、保育園か。お前にはぴったりな気がするけどな。


「うん、無理。それじゃあそういう事で」


 とりあえず、こんなのに構ってもいられないしな。はっきりと断って、シュタッと手を上げて立ち去ることにする。


「待てコラ、そんなんで許すと思ってんのか?


 ですよねぇ~。


「おら! 舐めた真似してんじゃねぇぞ!」

「ふん! 筋肉もないくせに調子にのるんじゃないぜ!」

「キキキッ! 女に優しくして貰ってムカつくんだよ!」


 結局三人から殴る蹴るの暴行を受けることになった。ま、それで気が済むなら好きにさせとくか。


 別に痛くないし、こいつらが無駄に疲れるだけだ。


「キキキッ、な、なんでこいつ、立っていられるんだよ!」

「流石に殴り疲れてきたぞ……」


 で、キュウスケとガイがわりとあっさり音を上げた。キュウスケは見た感じ体力なさそうだったが、ガイも持久力に難ありだな。


 で、頑張ってるのはやっぱ、こいつマグマか。


「……テメェ、本当に、ムカつくな! あのユウトもケントって野郎もそうだが、無職の癖に、常にやる気なさそうな目をしている癖によ!」


 うるせぇな。普段から忍者してる俺はできるだけ平日力抜いてんだよ。やる気なんて出す時に出せばいいんだからな。


「そうやって、いつまでも平然といられるテメェがムカつくんだよ!」


 そう言われてもな、て、なんか右の拳から妙な力を感じるぞ――


「てめぇみてぇな糞弱い奴は、俺らの前に大人しくひれ伏しとけばいいんだよ! 喰らえ爆裂!」

「爆裂? まさか! や、やめとけマグマ!」

「キキキッ! 許可なく力を使うのは禁止されてるの忘れたのかよ!」

「うっるせぇ! 知るか馬鹿野郎!」


 おいおいマジかよ。力って事は、こいつ、固有スキルの絶対爆裂使う気か? まだ訓練中で、上手く扱えもしないくせに――


「何やってるんっすか、あんた達はーーーー!」


 そんな事を考えていたら、二階から女性の怒鳴る声。


 見上げると、何か見覚えのある女騎士の姿があり、マグマの拳が俺の目の前で急停止する。


「おいマグマ! やべぇぞ、騎士にみつかった!」

「キキキッ! 早くずらかったほうがいいって!」

「チッ、糞が! テメェはいつも女に守られてばかりだな、なあ、シノブちゃんよぉ?」


 そんなセリフを置き去りに、厄介事はゴメンだとばかりに三人が走り去っていく。

 

 全く、だからこんなところで見つからないわけがないだろって。


「むぅ、逃げたっすか! 逃げ足の速い連中っすね! でも顔はバッチリ覚えたっす! 後で報告するっす」

「――いや、別にいいよ。それに相手が俺じゃ、言っても無駄だろ」

「何言ってるっすか! 誰だろうと、て、あれ? あんた確か――」


 そんな事を言いながら、人懐っこそうな顔をした赤毛の騎士が、ぱっちりとした瞳で俺を覗き込んできた。


 ああ、やっぱそうだ。この口調、この子、召喚されてすぐのあの場所で声を掛けてきた女騎士だな――

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