第百二十二話 仲間の新装備
「正直金は余ってることだし、装備を整えるとしよう」
「凄いっす! 普通なら嫌味に聞こえるっすが、シノブが言うと、なんかこう、すごく背伸びしてるように聞こえるっす!」
全く褒めてないなそれ。
「我は嫌なのじゃ。人間の装備はどうも肌に合わん。この服とやらだけあればいいのじゃ」
「お前はそうだろうよ。最初からそこまで気にしてはいないさ。ただ、装身具は必要だろ。お前も鑑定から身を守る術をもってないわけだしな」
「むっ、鑑定か……」
『確かに、そう言われてみれば、大事な事ですね』
「うっかりしてたっす。でも鑑定持ちはそんなに数は多くないと思うっすが」
「だけど、事実さっきも危なかったからな」
え? と三人の声が揃う。ネメアもまぁ、もう人として見ていいだろう。
「あのハウンドの仲間に鑑定持ちがいた。俺もされたのがなんとなく判ったからな。まぁ、俺は上手いことごまかせたけど、その後三人の事も見ようとしていたからな。間に入っって邪魔しておいたけど」
「そ、そうだったんっすね……」
『全く気が付きませんでした』
「むぅ、一生の不覚なのじゃ」
まぁ、あれはそう簡単に気がつけるものじゃないだろうしな。ただ、鑑定は相手を見なければ発動しない。逆に言えば、常に相手を見せないようにカバーに入っておけば見られることはない。
だから、鑑定しようとしている連中の壁に俺はなった。
ただ、こんなことずっと続けられるものではない。討伐の最中なんかは当然、現場は更にゴタゴタする可能性が高いからだ。
そうなると、せめて鑑定を妨害できる魔装具なりなんなりが欲しい。
だから、今日はこれから町の店を巡って色々と見て回る。勿論装備品だけではなく、以前にバーバラが言っていたが、いざという時のためにポーション系も揃えておきたい。
「こ、これをつけるっすか?」
「装備品を購入するなら、外套は脱ぐ必要あるかもしれないからな」
だから、途中いい感じのマスクが売っている店があったのでそれを試させてみる。
マスクと言っても顔をすっぽり覆うような仮面ではなく、いわゆるアラビアンな雰囲気漂うフェイスベールだ。
それをマイラとシェリナに着用してもらい、代わりにフードを外してもらったわけだが――
「これは、随分と雰囲気が変わるもんだな。何かすごくエロティ……いやミステリアスで大人びた雰囲気に変化したよ。二人共よく似合ってる」
「そ、そっすか?」
『な、何か照れてしまいます(ポッ)』
「シェリー様は何を召されても女神様の如くですのじゃ!」
ネメアの持ち上げっぷりは相変わらずだな。とは言え、これで見た目の雰囲気は一気に変化した。
これであればマイラとシェリナだと気づかれる事もないだろう。ただ、ふたりともこれまでも十分可愛らしかったが、これを付けてると美人度は三割増しという気もするから変な虫が寄り付いてこないよう気をつける必要はあるな。
まぁとにかく、店に代金を支払い今度は別な店に向かう。
「次は防具っすか?」
「あぁ、今の装備品じゃ心もとないしな。ハイミソシル製ほどじゃなくてももう少しいいのがほしい。あとシェリナも回復系っぽいローブでいいのがあったらいいんだけど」
とにかく、防具の専門店に入る。二階建ての店舗で一階には鎧が刻まれた看板が掛かっていたけど、二階には剣や斧が刻まれた看板が掛かっている。これなら防具を見てから武器も見れるから楽だな。
「いらっしゃ~い」
俺達が店に入るなり姿を見せたのは、ちょび髭を生やした気の良さそうなおじさんだった。
ちなみにそれほど規模の大きな町ではなく一時間も歩けば全て見て回れる程度であり、その為、武器屋と防具屋もこの一軒しか存在しない。
「実はこの二人の防具を新調したいんだ。予算はこのぐらいで――」
俺は出てきた店主に希望と予算を伝えた。すると店主は目玉が飛び出さんばかりに驚く。
「それだけあればこの店で買えないものなんてありませんよ! いやはや驚いた」
「そうか? ただ、今日はこれからまだ客がくるかもしれないぜ? あの立て札を見て町長の屋敷に訪れた連中は多いからな」
「あぁなるほど、例の件ですか。ですが、だとしてもそれほど多くの人が来るかはわかりませんね。既存の装備のメンテナンスであれば鍛冶屋が専門ですし、腕に覚えのあるようならとっくに大きな町で装備は揃えているものですから」
なるほど、そう言われてみればそのとおりだ。普通は順番が逆で装備を揃えてから依頼を請けにいくものなのだろう。
勿論、装備もずっと使っていれば傷んでくるので、そういった物は鍛冶屋に趣き修復して貰うってわけだ。
「なんじゃ、つまりこの店には大して役立つものがないという事であるな」
「おいネメア失礼だぞ」
「いえいえ、確かに大きな町に比べたら品揃えは決してよくありません。それも事実。ですが――こういった店にはこういった店なりの掘り出し物というものも眠っていたりするのですよ」
そう口にした後、店主が奥に引っ込みガサゴソと何かを漁る音が聞こえたかと思えば再び姿を見せた。
「そこのお嬢さんを見たときからピンっと来ていたものがあったのですよ。恐らく貴方にはこれがよく似合う」
店主がマイラに向けて手にした装備品を差し出す。
「へ? こ、これっすか? で、でも――」
「物は試しですよ! さぁ、こちらに試着室がありますので、どうぞどうぞ!」
何故か店主のテンションが異様に高く、そのままマイラを試着室とやらに押し込んでしまった。
とは言え、確かに先ずは着てみないと合う合わないも判断できないしな。
「どうですか? 着替え終わりましたか?」
「お、終わったっすけど、ほ、本当にこれで戦うっすか? 騙してないっすか?」
「大丈夫です! それであってます! 着替えたなら開けますね!」
「え? ちょ、待つっす! 心の準備が~~!」
マイラの叫び声が耳に届くが、容赦なく試着室のカーテンがシャーという小気味よい音を残して開かれた。
「おぅっふ……」
その姿に思わず変な声が漏れてしまった。
そしてマイラはマイラで、うぅ、と顔を赤面させながらモジモジしている。
その両手は、胸のあたりと下半身の大事なところを隠すようにしてあった。
と言っても当然彼女が裸で出てきたというわけではない。ただ、この装備品は何というかまぁ、有り体に言えば見た目はビキニアーマーだ。
しかも非常に面積の狭いタイプのな。なんとなく察してはいたがこれでマイラは中々にスタイルが良い。
胸も大きめだし、腰もキュッとしていて全体的に凹凸がしっかりしている。
しかし、だからこそこれは、エロい。口元を隠すフェイスベールの存在がよりそれを強調していた。
「どうですか? 当店自慢の火炎狐の軽鎧、火炎狐の具足、火炎狐の手袋、火炎狐のマントのフルセットです」
火炎狐か、どうやらその皮と魔石を組み合わせて作成されているようだ。
そういえばどの装備も色が紅いな。でもその色はなんとなくマイラに似合っている気もする。
「これは何か特殊な効果が?」
「勿論、これも立派な魔装具ですからね。先ず耐火性能が素晴らしい。特にマントは下級の竜種程度のブレスなら完全に防いでしまえる程です」
「なんじゃ、下級の竜種程度大した事ないのじゃ」
ネメアが横槍を入れる。とは言え、確かに下級と言われるとな。
「とんでもない! 下級と言えど例えばレッサードラゴンのブレス一つとってもその温度は数千度に上ります。それを防げるということはちょっとした魔物の使用する炎系のスキルなどは軽々と防げてしまうということです」
なるほど……それにしても下級のドラゴンでも数千度のブレスを吐くのか。確かにそれなら普通はかなり厄介なのかもな。
「それにドラゴンは位が高ければ高いほどより賢くなり人の言葉も解するようになりますから相対的に襲われる確率は減るのです。しかし下級程度は野性的なので人間は餌だと認識している場合が多く、その為戦闘になるケースはこのタイプの方が多いのです」
「なるほど、参考になるな」
「ふふっ、私はこれでも町一番の情報通としても知られてますので。まぁどちらにせよ、今大量発生しているゴブリンには魔法を使えるのもいるようですし、そうなると中には火魔法を使ってくるのもいるでしょう。そんな時にこの防具は役立ちます。それにこの防具は魔法耐性そのものが結構高いですからね」
つまり、火系の魔法でなくても、防げる力は備わっているという事か。
「まだありますよ。この装備は火属性の威力をあげます。お客様はご自身で火魔法も扱えるのですよね? それであればこれほどぴったりな防具はありませんよ」
なるほど、耐火性能が高く、魔法にも耐性があり、更にマイラの火魔法の威力も上げる。確かに至れり尽くせりの防具ではあるが――