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第百二十話 傭兵団

 依頼について話でも聞こうかと立て札にあった屋敷の庭に来てみれば、妙なやつに絡まれてしまった。


 男は年齢は二十代後半から三十ちょいってところか? 切れ長の四白眼で俺を睨めつけてきている。


「え~と、もしかしてこいつの言ったことが気に障りましたかね? それならすぐにでも謝りますが」


 とは言え、その前に見せたネメアの発言は周囲の冒険者の気持ちを煽るキッカケとしては十分なものだった。


 だからここは俺も殊勝な態度でとりあえず接しておく。


「フン! 俺は別に謝れとは言っちゃいねぇさ。俺はテメェらみたいな世間知らずな餓鬼が我が物顔でこの場に立っているのが気に入らねぇんだ。餓鬼の遊び場じゃねぇんだぞここは」


 太めの銀眉を怒らせながら更に目つきを鋭くさせる。

 全く、面倒なのに目をつけられたものだな。大体これだけ沢山の参加希望者がいるのにどうして俺だけ目をつけられるんだ。


 確かに俺は年齢までも偽装してないから年相応に見えるだろうが。後はアレか、幼女が一人と出来るだけ顔が隠れるよう目深のフードを被った元女騎士と皇女様が一緒にいるぐらいだ。


 うん、十分目立つな。


「お、おいあいつ、灰色の猟(グレイハウンド)兵団(ソルジャー)とかいう傭兵の集まりのリーダーじゃねぇか?」

「あぁ、狩猟戦士のハウンドだろ? このあたりじゃ名のしれた傭兵だぜ」


 周囲からそんな声が囁かれていた。どうやら結構な有名人らしいな。

 そんな奴らとトラブルのは出来れば勘弁願いたいとこなんだがな。


「うん? おい、そっちの二人はもしかして女か?」


 すると、鼻をひくつかせた後、ハウンドというリーダーが問いかけてくる。


 ふたりとも顔は隠しているんだが鼻がいいのか?


 だとしても本当なら答える義務もないが、一応は同じ依頼を請けるかもしれない奴らだ。それに性別はどうせ声である程度ばれるだろう。


「えぇ、それがどうかしましたか?」


 一応はこちらも丁重な姿勢は保つ。するとハウンドは、ニヤリと口角を吊り上げ、鞘から灰色掛かった片手剣(ショートソード)を抜き振り上げる。


 狙いはマイラ。ただ、危害を加えるというものではない。その証拠に刃は寝かせていて、狙いはフードの端に定められていた。


 つまり、上手いこと剣でフードを捲り、顔を確認しようってところかもしれないが。


「キャッ!」

「何?」

「お客さん、俺の仲間にはお触り厳禁でお願いしますよ」


 ここまでくるともう言葉遣いに気を遣うのも面倒だ。素の口調に戻り、ちょっと長めの針でその一振りを防いだ。


 刀を出す程ではない。それにあれは目立ちそうだからこの場では一旦次元収納に収めている。


 本当は苦無で対応する手もあったが、この形状の武器はこの世界では珍しい可能性がある。針なら普通に使われてるものだ隠し持っていたとしてもそこまで不思議ではない。


「……なんだテメェ、針術師のクラス持ちか?」


 いや、たまたまなんだが、針術師なんていうクラスもあるのか。

 どっちにしろ答えてやる義理はないけどな。


「さぁな。ただ、俺を馬鹿にする程度ならともかく、仲間に危害を加えようと言うならついついブスっといっちゃうかもしれないぜ?」

「餓鬼がッ、調子に乗りやがって。だが、その女はそれだけ大事ってことか……なるほどな」


 再び不敵に笑う。そして俺を見下すようにしながら。


「やっぱテメェは俺に謝罪が必要だな。何せ針なんざ俺に向けて危害を加えようとしたんだ」

「は?」

「な、何言ってるっすか! そっちが先に――」

「い~や、俺は見てたぜ」

「そうそう、こいつが突然リーダーに針を向けてぶっ刺すぞなんて脅しやがったんだ」

「全く、よりにもよって町長の屋敷でそんな不始末やらかすとはな。これは警備の連中でも呼んだ方がいいか?」


 チッ、こいつら身内で一方的にこの男を擁護し始めた。


「さぁどうする? ここは素直に詫びを入れるなら許してやってもいいがな」

 

 とんでもないイカれ野郎に目をつけられたな。さっきまで謝罪を求めてるわけじゃないといいながらこの手のひら返しだ。


 周囲の集まった連中も、あいつらに目をつけられるなんて、やら、終わったなあいつら、やら同情的な目を向けてきている。


 だけど助け舟を出す気など毛頭なさそうだ。むしろ厄介事に巻き込まれるのはゴメンだといったとこだろう。

 

 まぁ当然か。俺達はこの町にははじめて立ち寄ったわけで、当然顔なじみや知り合いもいない。全く知らない相手を助けてやろうなんて酔狂な人物、そうはいないだろう。


「詫びってなんだ? 頭でも下げてすまんとでも言えばいいのか?」

「ちょ! シノビンそんな事する必要ないっすよ!」


 マイラが俺を止めようとしてくる。勿論俺だってそんな事はゴメンだ。大体これから依頼を請けるかもしれないって話なのに舐められっぱなしじゃこの先が思いやられる。

 

 これは単純に相手の出方をみたいだけだが。


「んな言葉だけの詫びなんかで許すわけねぇだろが。だけど安心しな。おいそこの女、お前今日から俺の猟兵団に入れてやる。それで手打ちにしてやるよ。悪い話じゃないだろ? むしろ光栄な事だ」

「は?」

 

 思わず漏れる剣呑な声。まさかそうくるとはな。


「な、何言ってるんっすか! そんなの嫌に決まってるっす!」

「遠慮するな。俺がお前を入れてやるって言ってんだ。さっさとこい」

「だ、だから、話を聞くっす! 嫌だと言ってるっす!」


 しかし、全く聞く耳持ってないのか、ハウンドの奴はマイラの腕を掴もうとする。


「おい、いい加減にしとけよ? マーラは嫌がってるだろうが」

「マーラって言うのか。名前も気に入ったぜ。それとお前こそいい加減にしておくんだな。大体テメェみたいな青二才に女の仲間なんて身分不相応なんだよ。糞ガキが、さっさとどけ!」


 間に入った俺を抑えつけるように怒鳴り、マイラに手を伸ばそうとする。


 だが、俺のガードは完璧だ。誰がお前なんかに触れさせるかよ。


「……ふ~ん、そうか。残念だな手荒なマネはしたくなかったんだがな」

「おいおい、町長さんの屋敷でまさか暴れる気なのか?」

「はん、まさか。テメェなんざそんな事しなくてもな。おい! 誰かいるか! 屋敷の警備兵! いたらちょっと来い!」


 すると、先ずハウンドがそんな事を喚きはじめ、かと思えば他の仲間も大声で警備兵を呼び始めた。


 なんなんだ一体……。


「どうかされましたか?」

「どうかしたも糞もないぜ! そこの男が突然俺に向けて細長い針を向けてきたんだ。危なく喉をぶっすりいかれるところだった。これから依頼の説明のなされる町長の屋敷でとんでもないやつだぜこいつは!」

「全くだ。リーダーは何もしてないってのによ、危ないやつだ」

「今すぐ捕まえて、牢屋にぶち込んだほうがいいぞ!」


 リーダーのハウンドが騒ぎを聞きつけてやってきた屋敷の警備兵に訴え、周りの仲間も追従するように俺を罪人扱いだ。


「ちょ、ちょっと待つっす! そんなの酷いっす! シノビンは――」


 すると、マイラが俺をかばおうと声を上げ始めるが、それを俺は手で制した。

 どうしてという目を向けてくるマイラだが――


「彼らの言っていることは本当ですか?」

「さぁ? 全く覚えがありませんよ。ほら、針なんてそんなもの持ってないでしょう?」


 警備兵が近づいてきて詰問してくる。なので俺は両手をかざし広げてみせた。

 

「おいおい、ごまかそうとしたって無駄だぜ? 警備兵、そいつはどうやら隠すのが得意らしい。だが、俺はしっかり見てたぜ、そいつが針を袖に通すのをな。そうやって上手いこと隠しやがったのさ」

「あぁ、俺も見たぜ全く卑怯な奴だ」

「針なら隠せばなんとでもなると思ったんだろうがリーダーの目はごまかせないぜ」


 連中がそんなことまで言い出すものだから、警備兵も訝しげな顔で、

「少々改めさせていただいても?」

と確認してきた。


 ようは衣服の内側を確認したいという事なのだろう。


「構いませんよ」


 なのでそれをあっさりと許可する。

 ハウンドは意外そうな顔をしていた。

 俺が嫌がるとでも思ったのだろう。だが、これはむしろ好都合だ。


 警備兵が俺の体を弄る。こういうのはやはりあまりいい気分はしないが、警備兵は職務としてやっているのだから仕方ない。


 この男だって本来、男の体をチェックするなんて……。


「はぁ、はぁ、引き締まった身体。可愛らしい顔。ふふっ、これだから警備兵はやめられない――」

 

 前言撤回! ヤバい! こいつヤバい!


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「……で、どうだったんだ?」

「ジュルッ、えぇとっても美味しく、いえ、調べてみましたが特に針のような物は見つかりませんでした」

「な!? 馬鹿な! しっかりチェックしたのか! 調べ方が甘いんじゃないのか!」


 ふ、ふざけるな! テメェ、一体どれだけ俺が調べられたと思ってるんだ! 


「――そう言われてみると、足りなかったかもしれませんね」

「ふむ、安心しろ、そんなときの為に別室を空けておいた」

「そこならば、もっとじっくりと調べられるわよん」

「ちょっと待て! なんで二人増えてるんだよ!」

『しっかりじっくりねっとりたっぷり調べるためです(なのよ)!』


 ふざけんな! 一見普通に見えて全く普通じゃないのと、いかにもゴリゴリなのと、もう言葉遣いからしてソッチとしか思えないのしかいねぇだろ! 大体なんでそんなのばっか揃えてるんだよ!


「さぁ!」

「こっちへくるのだ!」

「ふふっ、一杯逝ってみる?」

「ちょ、ちょっと待て本当に、身体チェックだけなのかよおい! おーーーーい!」

「――ご愁傷様なのじゃ」

『い、一体あそこで何が(ドキドキ)』

「え、え~と、だ、大丈夫っすよね?」


 そんな皆の心配を他所に別室へ連れて行かれた俺。そして、体中のあっちこっちをまさにこんなとこまで!? と言えそうなほど調べられてしまった。


 影分身がな! 当たり前だ! とっさに入れ替わって後は任せたに決まってるだろふざけるな!

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