第百十六話 変わったゴブリン
「こ、これはゴブリンっすね! でも、ゴブリンぐらいならあたしでも戦えるっす!」
マイラが前に出て剣を抜いた。持っている剣などは予め救出前に俺が用意しておいたものだ。
残念なことにあの時迷宮で手に入れたミソウル系の装備は帝国に奪われてしまっているから、今彼女が使用しているのは普通のロングソードになる。
防具も少し厚手の服程度だから、正直油断は出来ないが、それでもゴブリンなら問題はないと踏んでいるのだろう。
ただ――
ステータス
名前:ゴブリンファイター
レベル:14
種族:魔物
クラス:子鬼系戦士
パワー:150
スピード:130
タフネス:140
テクニック:120
マジック:0
オーラ :100
スキル
異種交配、仲間を呼ぶ、力溜め、全力の一撃
称号
歩く生殖鬼
ステータス
名前:ゴブリンアーチャー
レベル:12
種族:魔物
クラス:子鬼系弓士
パワー:80
スピード:150
タフネス:80
テクニック:160
マジック:0
オーラ :120
スキル
異種交配、仲間を呼ぶ、二連射、パワーショット
称号
歩く生殖鬼
ステータス
名前:ゴブリンシーフ
レベル:16
種族:魔物
クラス:子鬼系盗賊
パワー:110
スピード:220
タフネス:90
テクニック:220
マジック:0
オーラ :90
スキル
異種交配、仲間を呼ぶ、忍び足、掠め盗り、命中率上昇、駆け足、毒付与(微毒)、バックアタック
称号
歩く生殖鬼、軽業士、早熟
看破の術を掛けて連中のステータスを見たわけだが、結果を見る限り明らかに俺が聞いていたゴブリンとは異なる。
そもそも、目の前に立っているゴブリンの装備品もわりとしっかりしているからな。捨てられた武器なんかを使用する事もあるというゴブリンだが、そういったものは錆びてたり折れてたりするのが普通。
しかし、このゴブリン達の装備はそういった類とは違う。
勿論、希少な武器などを持っているわけではなく、所持しているのは至って普通の武器、装備しているのもこの世界では普通に店で購入できるようなものであろうが、だとしても少なくとも拾ったようなものとは違う。
つまりそれ相応の品質が保たれているという事だ。それが偶然なのかどうかは定かでないが、ステータスの高さと併せて考えるなら只の偶然とも考えられないだろう。
「マイラ、油断はするなよ。こいつらのLVだが、12,14,16で並のゴブリンより高い。その上、それぞれが戦士、弓士、盗賊のクラス持ちだ」
「え!?」
マイラが随分と驚いているな。まぁ、ゴブリンに関して言えば城の訓練の際にも概要は聞いていて、群れで行動するのが厄介ではあるけれどLVは4~6程度という話だった。
それから考えるとこのゴブリン共はLVだけでも軽く倍以上はある。
「ムムムッ! 一体どういうことかわからないっすが、とにかくやっつけるっす!」
「あぁ、まぁいくらLVが高いと言っても今のマイラなら問題はないだろうけどな」
そう、確かに並のゴブリンより強いというのは不可解だが、それでもマイラに出会った当初ならともかく、今の彼女のLVは24。
いくら装備品が弱くなったとは言え、負ける相手ではない。
「ただ、弓持ちがいるからな。ネメアはしっかりシェリナを守っていろよ」
「当たり前なのじゃ! 任せるのじゃ!」
ネメアは幼女のままだが、それでもLV45だ。
まぁ問題ないだろう。
――ヒュン!
そんな事を話していたら、しびれを切らしたのか先手はゴブリン側が切ってきた。
逆三角形を象ったフォーメーションを組み、後衛のゴブリンアーチャーが矢を射る。
それが俺の眉間に迫るが、右手で掴み、そのままへし折る。
驚愕の表情を見せるゴブリンだが、この程度造作もない。
「――ファイヤーボルト!」
「グギャ!?」
詠唱を終えたマイラの魔法がゴブリンファイターに命中した。
LVがあがりマジックがかなり上昇している為か、火魔法では基礎の分類であるファイヤーボルトでも結構な威力になっている。
革の鎧を身に着けていたゴブリンファイターだが、鎧は見事穿たれ、腹部にも穴が空き周辺には焦げ跡が残りプスプスと煙を上げていた。
だが、それでも戦士だけあってか、生命力はそれなりに高いようだ。
身体に風穴があきつつも、マイラに向けて数歩駆け、ある程度距離が詰まったところで大きくジャンプ。
両手で剣を握り締め身体を大きく仰け反らせた後、反動を利用して思いっきり振り下ろす。
恐らくあれが全力の一撃なのだろう。今のマイラの装備じゃ、まともに当たればいくらレベル差があってもそれなりのダメージは免れないだろう。
尤も、あたればだけどな。あのゴブリンのミスは最初に受けたダメージの影響を考慮しなかった事。
その為、一つ一つの所作に遅れが生じていた。痛みに耐えて無理して攻撃に出た影響だろう。しかもスキル自体が非常に隙の大きいものだ。
予備動作もわかりやすく、そんな一撃をマイラが受けるはずもない。
結局、マイラは半身を逸らすだけで軽々とゴブリンファイターの一撃を避け、隙だらけになった相手に攻撃を二回叩き込んだ。
二段切りというスキルだな。只でさえ火魔法を喰らっていたゴブリンは、これに耐えられることはなく、地面に落下後ピクピクと痙攣したかと思えばそのまま動かなくなった。
「やったっす!」
マイラが喜ぶ。その気持ち判らなくもないんだけどな。
しかし、そんな彼女の背中側、飛びかかる小さな影。
「させねぇよ――武遁・忍気手裏剣!」
「ギャヒッ!」
穿孔タイプの棒手裏剣がゴブリンシーフの額にサクッと命中。
マイラに忍び寄って首でも掻っ切ろうとしていたのかもだが、残念ながらそうは問屋が卸さなかったな。
「ふぇ? ファッす!」
「たく、忍び足で背後まで近づいてきていたんだよ。気をつけろよ」
忍び足は気配を消しながら近づくスキルだからな。俺たち忍者からしたら当たり前の歩法だけど。
「ギャッギャッ!」
おっと、残った一体、ゴブリンアーチャーがシェリナに向けて矢を二発撃ったな。普通の連射じゃなくてスキルの二連射を行使したんだろう。
「甘いのじゃ!」
だけど、それは通じない。何せネメアがすぐ傍に控えている。
確かに並のゴブリンよりはそこそこ装備品は良いが、それでも木製の矢で鏃に黒曜石を加工した物を被せた程度の代物だ。
ネメアの爪に掛かればあっさりと弾かれ折られる。
「ギャッ!」
更に弓を引き絞る。パワーショットでも狙っているかもしれないが。
「シェリナ様に仇なすものは許さないのじゃ!」
「――!?」
だが、二の矢を撃つ前にネメアの爪による斬撃で引き裂かれた。
爪を受けた本数分に縦に分割されてバラバラになった形だな。中々エグい。
「ま、とりあえず片付いたな」
「うぅ、最後助けてもらう羽目になったっす」
「マイラは一体倒したぐらいで油断しないようにしないとな」
「面目ないっす……」
「シノブよ、このゴブリンは料理出来るのか?」
「嫌だよこんなの。どう考えても食えるものじゃないだろこれ」
人型の魔物なんて流石にあんま食いたいと思わないしな。
「そっすね……ゴブリンを食べようとするなんて基本なんでも食べる傭兵でもあんまきかないっす。それに、ゴブリンはその――交配で、あれっす」
急に顔が赤くなったマイラだがつまりそういうことだろう。
「こいつら異種交配というスキル持ち出しな。もし人間相手にしていた場合は、流石に食べる気も起きないもんな」
『!?(あうぅ、あうぅう)』
「ふにゃ! シェリナ様、どうしたのじゃ!」
シェリナの顔も真っ赤になった。
そしてなぜかネメアの身体をギューっとし始めた。刺激が強かったか。
「まぁとりあえず、ゴブリンからは素材も取れないだろうし。魔石だけ回収して先を急ぐとするか」
そんなわけで、三体のゴブリンの魔石を回収し次元収納に放り込む。
そのまま再び森を抜けようと歩みを再開させるが、その後もやたらとゴブリンだけが俺たちに襲い掛かってきた。
しかもそれらもやはり似たようなLVでクラス持ち、中には風術士といった魔法系クラスを持っているものもいたほどだ。
ウィンドカッター程度の魔法だったから、特に問題なく倒せたが、とにかくゴブリンが多い。
「全く鬱陶しい連中なのじゃ」
「でも変っすね。いくらなんでもゴブリンが多すぎっす。元々ゴブリンは繁殖する能力もあるから増えやすいっすが、それでも強い魔物ではないっすから、狩られやすい魔物でもあるっす。それなのに――」
ふむ、確かにな。ゴブリンのLVも本来こんなに高くないわけだし中々不気味だ。
そんな事を思っていたらまたゴブリンの群れを発見したわけだが――
「グルルルルゥ……」
「ギャギャ!」
「ギャッ!」
「ギギッ! ギャイ!」
それはなんとも妙な光景だった。緑色の毛をした狼がゴブリンに狩られているという現場だったからだ。
「あれば、グリーンウルフっすね。でも、グリーンウルフは本来ゴブリンより強いっすから、ゴブリンに負けることなんてそうはないはずなんっすが……」
「確かにグリーンウルフはLV8、普通ならゴブリンに負けないんだろうけどな。でも、今はゴブリンの方がLVが高いから逆転現象が起きているんだろう」
そして、同時に何故この森にゴブリンしか見かけないかがわかった気がする。つまりゴブリンによって他の魔物が狩られているってわけだ。
とは言え、今はこの森の事にあまりかまけている場合でもない。ゴブリンは狩ったグリーンウルフで食事をはじめていたのでその隙に片付けた。
魔石を回収し、更に進み、そして森から出ることが出来たわけだけどな。
「やっと森を抜けられたっすね」
「あぁ、ゴブリンがやたら多かったからな。それでもあのまま直線で町に向かうよりは少なかったんだが」
『もしそっちに向かっていたらと思うと――(ガクガクブルブル)』
なんかシェリナの表現が段々俺達のいた地球に近くなってきた気もしないでもないけど、ま、それでも相手がゴブリンでこのぐらいの強さなら面倒だけどやられることはなかったと思うな。
「シノブよ、いい加減我は腹が減ったのじゃ」
「町まで我慢しろ。もうすぐなんだから」
ぐるるぅ、と唸り声をあげ、腹も鳴らす。
器用なやつだな。
そのまま移動を続ける。街道を見つけたので、そこから北へと向けてあるき始めたのだが――
「ひっ、ひぃいぃいい! 誰か、誰かーーーー!」
「いや、放して、放してよぉおぉおお!」
そんな助けを呼ぶ声が俺たちの耳に届いてきた。




