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第十一話 訓練開始

「済まないシノブ君、何の力にもなれなくて……」


 結局、俺も一緒に訓練を受けるという話に纏まってから、ユウトがわざわざ俺に謝りに来た。


 うん、正直全く気にすることないんだけどな。なんとなく予想できてたし。

 

 それに、これで少しはそのお人好しというかお節介というか、あまりに真っ直ぐすぎる正義感というか、そういうものがマシになったらいいかなと思って黙っていたのも確かだしな。


 それなのにこう神妙な感じで来られると、逆に悪い気がして仕方ない。正直騒動の原因俺だし。


「ま、まあ気にするなって。ほら、俺はこれで結構丈夫だし、訓練は何とか乗り切ってみせるからさ」

「そ、そうですよ。彼もこう言っている事ですし、いくらなんでも無職でステータスが最低値の男に、相手もそこまで厳しくしないと思いますし」

「そうそう、大体元はと言えば、無職なんかになったこいつが悪いんだしさ。ユウトが気に病むことはないって」


 マオはともかく、レナは中々容赦ない言い草だな。まあ、無職になったのは確かなんだが。


「そういう言い方は良くないよレナさん。彼だって好きで無職になったわけじゃないんだ」

「え? あ、う、うぅ、ご、ごめんなさい」


 うん……やっぱこいつ真面目だな。それにしてもこう無職無職というワードが飛び交うと地味に来るなおい。


「とにかく、訓練をやめさせる事はできなかったけど、少しでも厳しいとか、死にそうとか思ったら僕に言って欲しい。その時はなんとしても止めてみせるから!」


 ……あれ? もしかしてこいつ思ったより効いてない? 何か決意を新たに、別な部分で頑張ろうとしているみたいだぞ。


「とにかく、僕はこのクラスから誰ひとりとして欠けて欲しくないんだ! そしてこの世界の平和を取り戻したら、必ず皆で地球に帰る! その為にも、決して無茶はしてはいけないよ? それだけは、約束してくれ!」

「え? あ、ああ、判った、善処するよ」

「うん、それじゃあ、そろそろ訓練が始まるみたいだから、一度いくね! お互い頑張ろう!」


 ……行ったか。それにしても爽やかに暑苦しいやつだなあいつ。

 それに、いつの間にかこの世界の平和を取り戻すって目的が増えてるし。あいつの頭の中はどういう構造してるんだ?


「……大変だなシノブ」

「ああ、ケントか。何だよ、お前も心配して来てくれたとかか?」

「……いや、俺はそれはあまり心配してない」

「え? そうなの! 私すっごく心配なんだけど……」


 何かいつの間にかチユも来てるのな。


「……シノブはこんなところでへこたれる男じゃないさ」

「し、信じてるんだね、これが男同士の熱い友情なんだね!」


 そこに食いつくか~。

 とは言え、ケントも結構鋭いからな。忍者なのは流石に俺も言ってないし、バレてないだろうけど、雰囲気みたいなので大丈夫そうだと思っているのかも知れない。まあ実際、大丈夫だと思っているけどな。


「それでは改めて紹介となるが、私はお前たちを担当する教官となったオニスだ。他にも指導官という者はいるが、私はその纏め役でもある。騎士の階級は軍曹だ」


 オニスで軍曹って、鬼軍曹かよ。


「ここにいる者は、今後は基本グループに分かれてもらい、戦士タイプは騎士に、魔法タイプは宮廷魔術師に、他にも斥候士や弓師など、得意分野に沿った指導官に教わってもらうこととなる。ただし、勇者のクラスを持つユウト様に関しては私が直接指導を、また無職のシノブも私の部下のサドデスがマンツーマンで教える事となる。勇者のユウト様と、無職のシノブ以外は、事前に色付きの札を預かってると思うので、同じ色の担当指導官につくこと。さあ、訓練はここからスタートだぞ、駆け足だ駆け足!」


 そして鬼軍曹が声を荒げて、全員に命令した。流石教官を任されているだけあって締めるところはしっかり締めるといったところか。

 

 俺が訓練に参加することが決まった後は、一体何が始まるんだろ? 必殺技マスターしてやるぜ! 私の魔法を見せてあげる! みたいなどこかお気楽な雰囲気が漂っていたが、今ので一変された。


 この場所、広場みたいな屋外の訓練所になるんだが、結構広いからこれだけいても問題なくグループ分けが可能だ。今日は天気も良く空は快晴。


 まあ、そこだけ見れば絶好の訓練日和なのかもな。ただ全面石張りの床だからな。気をつけないと思わぬ怪我をしかねない。


「お前がシノブだな?」


 そして、俺のもとにやってきたのは、さっき鬼軍曹のご紹介に預かったサドデスだ。


 改めて見ると、膨張した筋肉、でかい図体、スキンヘッド、どうみても騎士と言うより人を一人二人殺してそうな犯罪者顔。


 こいつが指導官ね。手にしているのは、なんか長い棒だ。材質はかなり頑丈そうな木材ってとこか。中国の棍に近いな。


「お前はこれを使え」


 そしてぶっきらぼうにそう言って、木で剣を象った、いわゆる木刀、こっちの言い方でいえば、木剣といったとこか。それをよこしてきた。


 お前と扱う武器が違うのかよ。まあとりあえず拾うことにする。


 すると、サドデスが俺に近づいてきて、おい、と声を上げた後、奴の腕が首に巻き付いてきた。

 

 俺を袂に引き寄せた後、囁くように耳打ちしてくる。


「そんなに緊張しなくて大丈夫でさぁ。これはあくまでポーズって奴でね、軍曹だって何も本気であんたを訓練しようなんて考えちゃいない。陛下の手前、そういうことにしておかないと示しがつかないんですよ」


 そして片目を軽く瞑った後、手加減は勿論するんで適当にガードしておいてください、と言い残して距離を取った。


 ふ~ん、つまりその言葉を鵜呑みにするなら、訓練というのは建前で、適当に流してお茶を濁そうと、そういうことらしいけどな。


「それではこれより訓練を始める! 先ずは一撃! この俺が攻撃を仕掛けるから、お前はそれを受け止めろ! いいな!」


 そしてそれっぽい事をいいつつ、またこっそりとウィンクしてくる。いや、それ普通に気持ち悪いからな。


 で、サドデスが構えを取り、そして、むんっ! と気合を入れて棒を振った瞬間、俺の体が宙を舞った。


 何人かの女子からキャー! という悲鳴が上がる。おいおいマジかよ――


 俺は流れる空を見ながら、やべぇな、と思いつつ、そのまま地面に着弾。


 擦過音を残しながら滑り、そして止まったかと思えば、あの指導官のやたら大げさな足音が響いてくる。


「おいおい、まだまだおねんねするには早すぎるぜ? なぁ?」


 そして俺の髪を掴んで持ち上げ、醜悪な笑みを浮かべて語りかけてきた。


「はは、なんだ? 絶望に満ちた顔してるな? おいおいまさか信じたのか? 手加減するって戯言を? んなはずねぇだろば~か! 誰が無職の屑に気を遣うか! むしろこっちははなっから本気で痛めつける気満々なんだよ!」


 本気? 本気だって? マジかよ……これは思ったよりやばそうだ。正直辛すぎる。


「ちょ! 教官ストップしてください! このままじゃシノブ君が!」

「何を、甘いことを言っているんですかね!」


 どうやらユウトが俺の様子に気がついたみたいで、一度自分の訓練をストップして駆けつけようとしてくれたみたいだが、あの鬼軍曹がそれを許さないみたいだな。


 でもなユウト、そんなことをしたって無駄だ。そう、だってこの男――


「おらぁ!」


 今度は俺を地面に叩きつけて、腹を蹴り上げ、おらおらどうした無職野郎! と腹に蹴りを何発も喰らわせてくる。


 くそ、こいつ、そうこの男、こいつ――弱すぎて洒落にならねぇーー!


 大体、こっちは最初からお前が手加減する気ないなんて事はわかりきってんだよ! 演技するならせめてもうちょい滲み出る威圧を消せよ! あれでもうやる気満々なのバレバレだからな!


 しかも案の定、最初の一撃から仕掛けてきたと思えば、全然使えねぇ! 弱すぎて一瞬どうしようかと思ったぞ。


 わざと吹き飛んだ振りするこっちの身にもなれよ! 大体なんだあの筋肉、とんだ見掛け倒しだろうが! いや、わかってたけどね。本当、後先考えずただただ強そうに見せるためだけに付けられた無駄な筋肉だからな。


 おかげで筋肉が邪魔して関節の可動域がやたら狭いしな。恐らくこいつもともと長柄武器を専門としてたんだろうけど、だとしたら絶対にやっちゃいけない筋肉の付け方だろこれ。


 自己管理も出来ないのかよこのハゲ。やたら滑りが良さそうな頭してるくせに、体の動きはやたらガチガチでギクシャクしてるから、折角の長柄の良さを全く生かしてない。

 

 こんなんで振り回しても遠心力や慣性を全く活かせないし、動きも一辺倒で変化が少ない。こんなんじゃ体が硬いから攻撃を受けることがあっても上手く受け身も取れないだろうし、攻撃を受けた時の衝撃も逃がせないだろ。

 

 おまけに鈍足と来たもんだ。何こいつ? なんで騎士やってんの? コネか何かか? こいつを採用したやつ軽く左遷ものだろ。


 ましてや指導官になんて選んだやつのセンスを疑うな。あ、あの鬼教官か、センス悪い髭してるもんな!


 はぁ~それにしてもつれーわーマジつれーわー。あまりにレベルが低すぎて、忍気使うまでもなくこっちは一切ダメージがないからな。


 そんな事を考えてたら今度は俺の首をその太いだけの腕で絞めてきたけどな。


「がはは! おらおらどうだ苦しいか? どうだ? 苦しいか?」

「うぅう……」


 じゃねーよ! 気管にも頸動脈にも上手く嵌ってねーよ! どこ絞めてんだよ! 不器用にも程があんだろ!


「もうやめてーーーー! シノブ君が死んじゃうーーーー!」


 うん、ごめん、死にません。チユが凄い悲鳴上げてるけど、むしろさっきからダメージゼロです。


「おいサドデス! 流石に死なせるのは不味い、それに一応は訓練なんだからな。武器で指導しろ」

「へい、軍曹」


 いや、だから死なねーし。命拾いしたな、て勝手に盛り上がってるけど、お前が与えたと思ってる傷も全て俺が自分で付けた偽装だからな?


 まあつけたといっても体遁の変化術を上手く利用してそれっぽく見せてるだけなんだけどな。


 いやはや、それにしてもこれは本当にキツい。こんな馬鹿に付き合って、これから暫くヤラれた振りを続けないといけないのかよ。先が思いやられるぜ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 忍者だったら、皆に見えないように後で、じわりじわりと効く攻撃ができるのじゃないの。
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