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第十話 平等

「ご、ごめんなさい……」

「この、馬鹿者が! 不審者を取り逃すなど何事だ!」


 とある一室。マジェスタが昨晩森で見張りをしていたマビロギを叱咤していた。

 頭を下げるマビロギに怒りを露わにする。


「全く、こんな事ではやはりまだ我が魔導師団に入れるのは早かったな。陛下のお言葉とは言え、考え直さねばならぬだろ」

「そ、そんな! 僕はまだやれます! 今度見つけたら、絶対捕まえますから! 僕も、お、じゃなくてマジェスタ様のようになりたいんです!」

「……ふぅ、大体マビロギ。お前は魔物使いとしてのセンスの方が高いであろう」

「で、でも!」

「……もういい、判った。今回だけは不問とする。だが次は、といっても盗賊が同じ場所をうろついているとは思えんがな。とにかく、今回だけだ」

「あ、ありがとうございます!」

「うむ、それと、薬を(・・)飲むのを忘れるでないぞ」

「え? あ、はい! 勿論です!」


 こうして話は終わりマビロギは部屋から退室した。その後ろ姿を見送り、ふぅ、とため息を吐くマジェスタであり。


「それにしても――盗賊か。まさかと思うが、例のあの連中か? ふむ、一応調べさせては見るか――」


 マジェスタは何かを想起するようにしながら独りごちる。そして彼もまた、その部屋を後にした――






◇◆◇


 明朝、朝食を食べ終えた後、今日から訓練が始まるため、城に集まってもらうという話を騎士然とした男から聞いた。


 その後一旦部屋に戻ると、ユウトが部屋に来て相変わらずの爽やかスマイルを見せてきたわけだが。


「今日から訓練だけど、シノブ君は参加しなくても大丈夫だからね。後は僕達に任せておいてよ!」


 そんな事を言い残して張り切り勇んで出ていった。つまり、ここにいて待ってろって事なんだろうけど――


「……シノブ様、これから訓練が始まりますが準備の方は整いましたか?」


 しかし暫く経ってから俺専属のメイドさんがやってきて、そんな事を言われたわけだけどね――





「シノブ君! どうして君がここに? 部屋に待っていてくれていいと言ったのに! 君はその、無職という状態なんだから、正直訓練は厳しいと思う。だから、もし皆に悪いと思っているなら無理せず――」


 結局、俺は一足遅れで全員と合流することになったが、そんな俺を認めるなり、ユウトが駆け寄ってきて耳打ちしてきた。

 

 いや、確かにそれで済むなら俺としても願ったり叶ったりだったんだけどな。


 ただ、ユウト以外、特に俺達の訓練を担当するであろう騎士達の目が厳しい。その中でも特に一人、偉そうな雰囲気を醸し出してる髭面がいるわけだが。


「落ち着いてくれユウト。これはメイドさんがな――」

「おい何をしている! シノブ! クラスが無職の分際で遅刻してくるとはいい度胸だな! もうとっくに全員集まっているのだぞ。ユウト様も、そのような輩に構うことはないでしょう。さあ、こちらへ」


 なんとなく予想してたが、俺がユウトに説明する前に髭面が怒鳴ってきた。すげーな。ここまであからさまだと逆に清々しいぐらいだ。ただ、残念ながらこいつ、ユウトは納得していないようであり。


「ちょっと待ってください。彼は責めないで頂きたいですね。彼に部屋で待っていて構わないと伝えたのは私なのですから」

「……ほう? 勇者様がですか? これは驚いた、どうしてまたそのような事を?」


 口ひげをフサフサさせたそれなりに地位の高そうな騎士がユウトに尋ねる。

 

 すると、ユウトが彼を睨めつけつつ、大丈夫僕に任せて、と俺に囁きながら騎士の下へ向かっていった。


 正直、そう言われても不安しかないぞこっちは。


「むしろ疑問を持ったのは私の方です。貴方は……」

「オニスと申しますどうぞ呼び捨てて頂いて構いませんので」


 自分の肩に手を当てそう答える。ここで名前を明かしたって事は詳しい話はまだ聞かされていなかったということか。対応が丁寧なのはやはりユウトが勇者のクラスだからなのだろうな。


「そうですか、判りましたオニス。それで、これはどういう事でしょうか?」

「さて、どういうことと申されますと?」

「私は昨日、陛下と対談した際、彼に関しては訓練も含めて今回の任務から除外されるという形で話が進んでおりました。それなのに、何故いまシノブがこの場に呼ばれることになっているのか? その説明をお伺いしたい」


 ユウトが堂々と言い放つ。周囲の生徒が不安そうな顔でふたりとのやりとりを眺めていた。

 尤もあの三人に関しては相変わらず面白くなさそうであり、ケントは特に表情に変化はないな。


「ふむ、勇者様の言われたとおり、確かに最初こそその話で進んでいたようですが、しかし、その話は結局貴方様の申し出により反故にされたと聞いておりますが」


 すると、オニスは自分の顎を擦りつつ、ユウトの疑問に答えた。

 すると、馬鹿な! とユウトが憤り。


「私はそんな話はしていない、反故にしてほしいなどと頼んだ覚えすらありませんよ」

「ですが、聞くところによると勇者様は、あのシノブという男が無職だからという理由で扱いが異なるのは納得出来ないと、だから皆と平等にして欲しいと、そう願い出たとお聞きしておりますが?」


 オニスにそう言われ、え? という声を漏らすユウト。ふむ、やはり危惧していたとおり、こういう話になったか。


「いや、ちょっと待って欲しい。確かに陛下にはそのように願い出ましたが、それはあくまで部屋などの件についてであって、訓練などは別の話です。彼のステータスでは、皆と同じ訓練に耐えられるわけが――」

「ですが、実際彼の部屋は皆と同じ部屋に代わり、メイドも付き、夕食も一緒の物を摂ったのですよね?」


 まだ話している途中だったが、オニスはユウトの上から覆いかぶせるように疑問を投げかけた。


「そ、それはそうですが、それとこれとは話が違う!」


 すると、ユウトが右手を振り抜き訴える。ただ、雲行きは怪しくなってきてるな。


「……はあ、ユウト様、私は勇者の称号を持つ貴方様は、この帝国を、そして世界を救うであろう御方だと信じております。きっと陛下も同じ考えであることでしょう。ですが、やはりまだ若く、この世界に来て間もない。ですから、ここは敢えて失礼を承知で言わせてもらいますが――」


 そう言ってオニスは一拍溜めるようにしてからその眼を見開き、二の句を告げた。


「勇者様、いくらなんでもそれはない、それはありえない、その考えはあまりに馬鹿げてますぜ」


 な!? とユウトが驚嘆した。それにしてもこのオニスはオニスで口調が代わり過ぎだな。


「い、一体何が馬鹿げているというのですか!」

「全てですよ。いくら勇者とは言えあまちゃんが過ぎる。いいですか? 今の貴方の言っている事をまとめるとですね、あのクラスが無職で恐らくそのままでは使い物にならないであろうシノブという男を、全員と平等に扱え。部屋も皆と同じ豪勢なものを用意し、専属のメイドもつけ、食事も同じように与えろ、ただし、訓練だけは別だ。それは平等とは関係ない、本来やるべき必要のある仕事を一切させるな! こういう事ですよ。はあ? 何いってんのお前? と普通ならそう思うところですよ」


 むぐぅ! とユウトが喉を詰まらせる。ただ、まあ、これに関してはその通りではあるんだよな。

 だから俺もなんとなく嫌な予感はしてたんだけどな。何もしないであんないい部屋があたるなんて思えないし。


「だ、だけど、私達だって被害者だ! いつの間にか勝手にこんな世界に召喚されて!」

「ですが、受けたのですよね? 陛下の願いを、勇者様は引き受けてくれたのですよね?」

「え? そ、それは確かにそうだけど――」

「それなら、今更そのことでとやかくいわれてもねぇ。大体、皆様のあの部屋だってメイドだって食事にしても引き受けてくれたからこそのあの待遇ですよ。そうでなければいくらなんでもそこまで陛下はお人好しじゃない。国だってそこまで余裕があるわけでもなし、そもそも今ここにいる英雄候補様は、この時点で我々騎士よりも遥かによい待遇を受けているのですから、そこは考慮して頂きたいですね」


 流石にこれにはユウトもグーの音も出ないといったところか。

 肩もプルプル震えてるし。


「し、しかしやはりダメだ! 考えてみた前! シノブはステータスがあまりに低い、少し低いというようなレベルじゃないんだ! あんな状態で訓練したら、下手したら死んでしまうかも知れない!」

「だったら死ねばいいのでは? そこで死ぬなら所詮それまでの命だという事でしょう」

「……は? そ、それは本気で言っているのですか?」

「言っている、言っているさ! 言ったがどうした! いい加減気づけよ! 通じない! 通じないんだよそんな話は! 勇者様のいた世界がどれほど博愛精神に満ちた世界だったかは知らないが、そんな考えは今を持って糞溜めにでも捨てろ! ここじゃそんな生ぬるい考えは誰も聞かない! あまりに馬鹿馬鹿しくて、腹立たしくて、あんたが勇者じゃなかったら今すぐその首切り落として兵士の糞に埋めて小便かけて馬の後ろ足で蹴り潰したいぐらいだ! それぐらい滑稽なんだよ! ふざけるな!」


 オニスが怒涛の勢いでまくし立てるように言う。しかしすげーな、ここまで言われるか。

 

「……貴方の言いたいことは判った――」

 

 そしてユウトが俯きながら答える。これは流石に堪えたか?


「だけど、それでも納得出来ないものは納得できない! 彼はこの訓練には参加させるべきではない!」

 

 て! まだ食らいつく気かよ! もうやめとけって。いや、何か流石に悪い気がしてきたし。俺、全然大丈夫だから!


 それにしてもユウトは心底真っ直ぐだな。正直愚直過ぎる。これにはオニスも唖然としてるぐらいだが。


「いい加減にしろよユウト、俺が言うのも何だが、今のはお前が悪いぜ。俺はそっちのオニスって騎士を支持するな」


 そんな中、異を唱えたのはマグマだ。まあ、こいつならそう言いそうだよな。


「……マグマくん、また君か――」

「マグマだけじゃないぞ。俺も同意見だ」

「キキキッ、俺っちもだなぁ。大体勇者のクラスを手に入れたからって、調子に乗りすぎじゃないのかい?」


 そして取り巻きふたりもユウトに噛み付いた。

 ただ――この空気は……。


「僕は君たちと話しているわけじゃない。この騎士と――」

「ちょっとまってくれよ。それこそおかしくないか? 大体ずっと思っていたんだけど、なんでいつのまにかユウトが仕切ってるんだよ?」

「そうだよな。そりゃ勇者は凄いのかもしれないけど、こう毎回自分勝手に話をすすめられたんじゃたまらないぜ」

「ちょ! 何言っているのですか! 大体ユウト様は皆を平等にと思って……」

「平等? おいおいマオ冗談だろ? こいつの言っていることの何処が平等なんだよ」


 クラスの中でユウトに不満を抱くのが現れたな。ただ、親衛隊の面々は流石にぶれない。マオが必死に擁護しようとしたが、ただそこにマグマがつけ込んだ。


「今この勇者様が言っているのは平等でもなんでもねぇよ! ようはこいつ、シノブを特別扱いしろって事だろ? 俺達が必死に訓練受けたり、陛下の願いを聞き届けるために命を懸けて戦うことだってあるかもしれない状況で、こいつだけはのほほんっと城で専属のメイドに面倒みてもらいながら過ごしてろって言ってるんだからよ!」


 俺を指差してマグマが吠える。指差すなよ。いや、騒ぎの渦中にいるのは俺だから仕方ないんだろうけどな。


「そうだ、こんなの平等でもなんでもないよ!」

「なんで私達が無職のロクでなしの為に頑張らないと行けないのよ!」

「冗談じゃねぇ! 平等だっていうならこいつにも訓練受けさせろ!」


 ユウトを批判する波が一気に広がっていく。親衛隊の三人が声を張り上げて庇おうとしているけどもう無理だろうな。


 実際は、静観している生徒の方が多いだろうけど、声の大きな連中が一気に乗っかってきてるしな。


「さて、勇者様、どうやら貴方のお仲間は私と同じ考えのようですが、どうされますか?」

「……う、くっ、わ、わかりました――彼も訓練を受けさせる方向で、お願い致します」


 そして、ついにユウトの心がぽっきりと折れた。

 まあ、原因になっている俺が言うのもなんだけど、あいつにはこれもいい薬になっただろうな。


 ユウトの皆を大切にする気持ちは大切だと思う。だけど、後先考えずに自分の主張だけ訴えても通じないこともあるし、今回のようにユウトが思っても見なかった方向に話が転がる場合もあるしな。


 ただ少々ウザくもあるがその性格は嫌いじゃない。それに勇者のクラスを持つユウトは今後クラスにとって必要な存在だろうしな。だからこそもう少し考えて行動して欲しいものだと思って、俺も今回は静観を決め込ませてもらったわけだしな――

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