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第九十八話 決着?

 黒騎士は地面に大の字になって倒れていた。見た感じ満身創痍という様相。

 さっきまでの俺とまるで逆だ。今度は逆に黒騎士のアインが追い詰められる番が来たというわけだ。


 それにしても、正直ここまでとは思わなかった。確かにご先祖様である霧隠才蔵の思念体と融合した。

 だが、サイゾウ曰く思念体といっても、全盛期の全てが宿っているわけではなく、本当にきっかけを与える程度でしかないとの事。

 

 ただ、どうやら俺は霧隠の血筋ってことで融合できる資質は十分にあったようだ。


 尤も思念体によると、ただ子孫と言うだけでどうにかなるわけでもなく、俺には資格があったという話らしいが、それについての詳細は何れ判るといっただけで教えてくれなかったな。


 そして思念体と融合したわけだが――正直最初は俺も実感がわかなかった。

 別に融合したからと言って例えばご先祖様の記憶や知識、技術などが唐突に身につくというわけでもない。


 そもそも記憶に関して言えば思念体自体にそこまで多くは残ってなかったようで、霧隠才蔵についての知識はそこまでは入ってこなかった。


 ただ、サイゾウが得意としていた霧遁については使い方を理解できていた。それに精神的には少し落ち着いたというか余裕が出てきた気がする。


 おかげで以前よりも印を結ぶのがスムーズになったし、状況判断も冷静に行えるようになった気がする。


 それは、この黒騎士との戦いに於いても明らかだ。最初の遭遇時は逃げることも視野に入れたが、今は少なくとも敵わないと思えるほどではない。


「――【ギア・フォース】!」


 そう、思っていたんだけどな。倒れていたアインが叫び、再びオーラが爆発したように膨れ上がり、余波が広がる。周囲の木々をなぎ倒し、立ち上がったアインを中心に、地面がすり鉢状にえぐれている始末だ。


「ふぅ――まさか、四つ目のギアを引き出されることになるとはな」



ステータス

名前:アイン マスタング

性別:男

レベル:52

種族:人間

クラス:鉄血騎士

パワー:3160→12640

スピード:2280→9120

タフネス:3080→12320

テクニック:2800→11200

マジック:0

オーラ :4000→16000



 これが、ギア・フォースに達したアインのステータスだ。初期値に比べたらその差は歴然だ。しかもスピードとマジックを除けば他は全ての数値が1万を超えている。


 おまけに、今まで与えたダメージが全く残っていない。はっきり言えば回復している。


 どうやらこのギア、フォース以降はより細胞が活性化し、その影響でギアを上げる度に、受けていた怪我は完治し、体力も回復するようだ。


 厄介以外の何物でもないなそれ。しかも特殊効果としてギア・スリーでついた相手の防御スキル無効に加えて、オーラの数値が自然と百パーセント攻撃力に加算されるというおまけ付きだ。


 つまり実質今の黒騎士の攻撃力は28640あるって事だ。


「さて――」

 

 黒騎士が撫でるように漆黒の剣を振った。動きは判りやすかったが、こいつも敢えて見せつけるようにしているのだろう。


 俺はスッと横にずれるが、その瞬間、立っていた場所を衝撃が駆け抜けた。

 

 地面には一筋の深い溝が出来上がっている。軽く振っただけでこれかよ。


「……自然はもっと大事にしろよ」

「問題はない。この森とて帝国の領土だ」


 そういう傲慢な考えから環境破壊は生まれていくんだよ。

 とは言え、形勢逆転したかと思えばすぐこれか。本当、厄介なスキルだ。


「さて、覚悟は、決めたか!」


 アインが地面に剣を突き立てた。この技は既に一度見ているが、行動に移してから発動までは比べ物にならないぐらい早い。


 地面から生み出された剣が即座に俺の身体を引き裂いた。

 尤も、それは霧空蝉だが――


「甘いぞ!」


 かと思えば、そのまま地面を刳りながら無理やり背後に立っていた俺に向けて剣を振り回す。


 流石に読まれていたか! だけど――


「むっ!」

「残念、それも偽物だ!」


 背後の俺も掻き消え、肝心の俺は奴の頭上から落下していた。


「それも、読んでいたさ! 【天昇剣】――」


 だが剣を振り回して後方の俺の空蝉も切り消した後、そこから更に縦回転に移行し、流れるように飛翔。


 落下しながらの俺の剣戟に対して、アインの上昇しながらの剣戟が重なり合う。


「ぬうううぅうおおおおおぉおお!」

「ぐ、ぬ――」


 ステータスが向上した分相手の攻撃の方がより重く、このままでは撃墜されること必死。思念体と融合したといっても、俺は肉体的に大きく変化したわけではない。


 結果――パキィィイン、と霧咲丸の刃が粉々に砕け散った。


 その勢いに押しやられ、俺は結局そのまま空中へと投げ出される。

 砕けた刃は細かな結晶のようになって黒騎士の右肩辺りに漂っていたが間もなくして霧散した。


 俺はそのまま地面へと着地したが、そこへ黒騎士の虚空刹。

 空間ごと貫く刺突は、距離が離れていても問答無用で俺に迫る。


「霧遁・雲散霧消――」


 しかし俺はすぐに新たな忍術を発動。霧は光を屈折させることも可能だが、これはそれを応用した忍術であり、つまり屈折する対象を光ではなく相手の攻撃に変えることで強制的に軌道を逸らしてしまう。


 一回の行使で一発の攻撃を逸らす忍術故に、連続攻撃だと少々厳しいが、単発の一撃なら十分効果はある。


 しかもこの術で攻撃を逸した後は、多くの場合主導権はこちらが握ることが出来る。


 なぜなら俺の方は身体の動きを防御に回すこと無く、一方的に軌道を逸らすことが可能なわけで、実際俺は既に黒騎士に向けて飛び出していた。


 一方相手はどうしてもうち終わりの隙というものが生じる。

 

「小癪な、だが、武器も失いどうするつもりだ?」


 突きを放った腕を引きそこから流れるように上段に構えを取ってくる。


 俺の手に握られているのは刃を失い柄だけとなった霧咲丸だ。


「誰が失ったって? 戻れ! 霧咲丸!」

「何? ぐっ!?」


 だが、多少の違いはあれど、ここまでの流れはほぼ想定内。

 

 俺が命じるように叫ぶと、黒騎士の肩部に入り込んでいた霧が姿を変え、元の刃へと戻った。しかも黒騎士の肩を貫きながらだ。


 アインの攻撃を受けて刀が砕けたのはただの仕込みだ。流石にそれにはこのアインも気づけなかったようだな。


 この力は手に入れて間もなく俺は気がついていた。何せ元々この刀は霧の巨人の身体の中に刀として残っていた。


 それを俺が奪った形だが、しかし、にも関わらずあの巨人が霧化した時、刀は全く姿を晒さなかった。


 それで判ったのさ。この刀は自由に霧状にも変化できるんだと。

 だからこそ、粉々に砕けたように見せかけ、霧化した刃を僅かな隙間から肩部の中に入り込ませたんだ。


 そして、黒騎士の顔が歪み動きが鈍ったその隙に一気に詰め寄り、現出した霧咲丸の刃に残った柄を逆手にしてくっ付け一体化させる。

 

「紫電一閃!」


 こうして戻した霧咲丸に雷遁を組み合わせ、紫の光を迸らせた刃を思いっきり振り上げた。

 刃は上を向かせていた為、黒騎士の右肩が大きく引き裂かれ、三分の一程残された肩の肉でなんとか腕をぶら下げているような状態に。


 当然、剣を持つ手を維持できるわけもない。それでも黒騎士は左腕一本で剣を握り、意識を保っていた。


 この状態で、気も失わず、戦意も全く消失していないところは敵ながら賞賛に値する。だけど、それじゃあ駄目だ。

 

 最低でも意識は絶たなければ、こいつはまだ回復する可能性がある。


 だから俺は、振り上げた勢いのまま跳躍した俺――


「雷遁・百雷の術!」


 百本の雷を降り注がせる忍術。それを俺は霧を纏わせたような状態を保たせた霧咲丸を掲げ、自らに向けて落とす。


 百本の雷は吸い込まれるように、刃へと落ち、そして霧の中で集束し帯電する。


 霧と雷を応用する形で、今俺が考えついた新技。さっき黒騎士に仕掛けたのは霧を纏わせての雷のダメージの増幅。


 それを、今度は刀に向ける。この刀は霧だ。だから雷は逃げ場なく刃に留まる。

 百雷の術は強力だが、百本の雷を別々に落とすため、結局ダメージは分散してしまう。

 だが、このやり方なら、一度刀に百本の雷を集めているため、百本の雷を、その威力を削ぐこと無く、相手にぶつけることが出来る。


「喰らえ! 百雷――」


 そして、俺は目を剥いて俺を見上げる黒騎士アインへ、その刃を振り下ろす。この技は更に霧も利用している為、威力だって跳ね上がる。


「――霧!」


 そう、それが俺の新技、百雷霧(ひゃくらいぎり)――黒騎士の鎧を斬りつけると同時に、百発の雷がその一点に一気に注がれる。


「ぐっ、ぐぉおおおぉおおおおがああああぁあ!?」


 さっきよりも更に一際大きな叫び。そしてそのまままるで石膏にでも固められたかのような直立不動の状態から、後ろへと倒れ込んでいった。


 受け身も取らず、地面に落下し土塊が舞い上がる。


 それにしても――やはり死んではいないよな。流石にタフだ。

 ただ、鎧の破損した箇所はすぐに修復されるが、身体の回復は間に合わないだろう。


 例え自然回復があっても、そこまですぐに怪我が治るというわけでもなさそうだしな。

 

 とにかく、こいつさえ倒せば、後は俺はマイラとシェリナ、そしてネメアを連れて逃げるだけだ。

 余計なことはせずさっさと――


「ふん、帝国の黒い嵐だ、黒き剣だなどと称されながら、随分な体たらくぶりだな。やはり、ここぞという時には私が出ぬと駄目か――」

 

 チッ、忘れてた。そうだこいつがいたんだったな。

 それにしても次から次へと、しかもここでご登場かよ――帝国の大魔導師マジェスタ・ランボルギニ……。

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