春の幻想
高校っていうのは退屈な所で大抵の場合ラノベみたいな青春は待っていない、特に自分みたいな奴には。友人が全くいない訳ではない。かといって昼食を一緒に食べたいかと訊かれれば一人で屋上にいった方がマシだと応えるそんな性格。どうして世界ってこうも面白味のないようにできてるんだろうだなんて中二臭い独り言。こんな事を毎日のように言っている気がする。
屋上へ向かう為の汚い階段を上って錆びれた扉を開ければいつもの静かで風の心地よい場所が待っている。それが自分の日常の筈だった。でも今日は運が悪い。珍しい、先客がいるなんて。
ー春の幻想。屋上から見える景色は最高だった。桜の花が綺麗に咲いている。どうしてだろう春の暖かい陽気がこんなにも辺りの景色を一変させるのは。春独特の暖かさと冷たさの混ざり合うあの雰囲気が気分を高揚させる。
いつもならそれで終われていただろう。しかし今日は違う。輝く金色の髪と透き通った緑の瞳。まるで絵に描いたような物静かな美少女がそこにいる。普段の人間嫌いな自分では考えられないがその時彼女に興味を持った。
勿論小心者の自分の事だ、そう簡単に声をかける事など出来はしない。ただ軽く会釈していつもの場所に座り購買のパンを食べる、それだけの事だ、だがやはり落ち着かない。こちらがじっと見ていてもあまり気にしていない様子だ。こちらから声をかけるしかないか、気乗りはしないが。
「飯はいいのか」
自分本当テンパってたんだな。明らかに初対面の女子にいうセリフじゃないだろ。ただ屋上に一人立たずむようなだけあって返事は意外だった。
「人間が一日に必要とするエネルギー若い女性で約1200カロリーでも十分とさせている、一食抜いた所で問題はない」
同族のような違うようなしかし決して周りとは同じではない何かを感じた。そんな事を考えてる隙に手は勝手にパンを二つに分けていた。
「ほら」と自然に手が動いた。殆ど無意識の内にパンを空中に放り投げていた。
「ナイスキャッチ」
彼女は不思議そうに見つめる、戸惑うというより何かを考え込むように。
「金は明日返せよ、百円でいい」
明日の算段までしていよいよ春の陽気に酔わされたのだとわかった。そのおかげか気分は晴れやかだった。
「君は面白い人だな、だが…割と好きだよ」
それがその日唯一まともに聞いた言葉だった。




