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異世界から勇者が魔王倒しにやってきたので、世界を救わせないために頑張る  作者: Q・直下
藤城進士は勇者に振り回されて、溜息を吐く
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勇者への試練

よくよく考えるとここまで登場人物が2人しかいませんでした。まだあんまり増える予定はありません。

 ひとまず最寄り駅に移動する。

 カミラは初めて見る街並みにキョロキョロと実に忙しそうだ。

 とはいえ、この辺は住宅街なので特に目立ったものはない。

 そのためしばらく歩くと似たような建物ばかりの景色に飽きてきたようだが、仮にも東京23区なのですぐに店の多いエリアにたどり着く。


「あ、あの店はなんですか!?」

「コンビニだ。日用品を売っている」


「人だかりができているあの店は!?」

「電器屋だな。お前が好きそうなものがたくさんあると思うぞ」


「あっちは!? 随分さびれているように見えますが!」

「古本屋だ」

 俺は好きなんだけどね。でもあんな古臭い雰囲気の古本屋には皆そうそう行かないので、どうしたってさびれてしまうのは仕方がない。


 などと目移りしまくるカミラは全ての店に突撃したそうだったが、アダルトショップにまで興味が向いてきたので、とっとと連行することにする。


「あの店は実に怪しくて素敵ですね!きっと勇者のための特別なアイテムとか……」

「いいから歩け」

 確かにある種勇者のための店だけれども。


 とりあえず最寄り駅は地下鉄なのでカミラの分も切符を買って階段を降りる。

 地下鉄とか久しぶりだな……学生時代以来かもしれん。

 などと思いながらカミラを見ると思ったより落ち着いていた。


「おーい? カミラ?」

「はい、なんですか?」


 別に考え事をしていたわけではなく、単純にぼーっとしていただけのようだ。

 ……おかしいな、ウォッシュレットにあれだけ興奮していたのだから地下鉄見たらもっと喜ぶかと思ったのに……。


「……地下鉄だぞ、俺たち日本人の誇る自慢の交通網……」

「あ、いえ軌道上を走る大規模交通網ですよね? 我が世界にも普通にあるので、これについては特に見るべき点はないな、と思っていただけです」


 な、なんだと……

 ウォッシュレットはないのに、高度に発達した鉄道はあるのか……なんとも歪なファンタジー世界だ。


「……それにしても遅いですね。この世界の交通はこんなに待たされるのですか?」

「ここはそれなりに本数も多いんだがな……」

「私の世界では待ち時間なんてありません。常に車両は待機状態です」


 それどころか、この世界の鉄道まさかの完敗か!?

 恐るべし異世界の交通網……「魔法は発達しているが技術は中世並」なんてイメージはステレオタイプすぎるのかもしれん。コイツの恰好から勝手に技術レベルは低そうだと思っていたが、そんなのは先入観でしかないのだろう。

 などと会話しているうちにようやくホームに入ってきた電車-その爆音にカミラは耳をふさいでえらくやかましそうにしていた-に乗り込み、一度会話は途切れる。


 電車に乗り込んだカミラは一瞬顔をしかめて不愉快そうにする。


「……こんな見ず知らずの不特定多数と一緒に運ばれるのですか。私これでも勇者なんですが」


 平日の昼とはいえ、流石に都心の路線は混雑している。


「……我慢しろ」


 ちょうど並んで空いている席があったので座ることにする。

 ふぅ、と腰を落ち着けて隣を見ると、カミラは居眠りしながらこちら側に寄りかかっている向こう隣りの親父をなんとかどけようとしているところだった。


「席に座れるかは早い者勝ちですか……なんとも暴力的な……」

「……お前たちの世界だと違うのかよ」


 そう聞くとカミラはもはやお決まりとなったフフンッと鼻を鳴らすしぐさの後、さも自慢げに語り始める。


「私たちの世界の交通手段である、『魔道連絡式高速軌道網』はこんな箱詰めするような乱暴な旅客輸送方法は取りません。拠点……この世界風に言うなら駅ですが、そこに行けばいつでも個人用の輸送機がありますからそれに乗って目的の場所付近の拠点を指示すればいいのです。複数人で乗りたかったり、大きな荷物を運びたければ、ちゃんとそれ用の輸送機もあります」


 イマイチハッキリしたイメージは描けないが、おそらくはこちらの鉄道などよりよほど発達しているだろうことはうかがえた。

 ちょうど電車が駅に着く。まだ乗り換えではないので座ったままだ。

 客の入れ替えを終えて電車は再び走り出す。


「……こんな風に余計な場所に止まって時間のロスを生じさせたりすることもありませんし……」


 チラと上を見る。


「……あれは広告ですか? 長時間拘束された上、強制的にあんなものを見せられるとは……」


 どうやらカミラはこの世界の鉄道がいたくお気に召さなかったようだ。

 不機嫌きわまる美少女と一緒に歩くほど俺にとって恐ろしい事態はないので、話を逸らすべく努力することにする。


「なんとなく聞き流していたけど、従者ってのは何か意味があるのか?」


 そういえばこういった根本的な疑問を尋ねていなかったのだ。コイツはひたすら「進士さんは私の従者です!」と言っているだけだから、あーはいはいとスルーしていたのだが。一応カミラの秘密が含まれる話題ではあるが、混雑した電車内で他人の会話に聞き耳立てる人もいないだろうし、仮に聞かれてもゲームやアニメか何かの話程度に思われるだろう。

 基本的に現代人は他人に無関心なのだ。それが自分の常識では理解できない人なら、関わろうとするよりは距離を取ろうと思う程度には。


「……召喚されて最初に出会った異世界人は、大抵魔王を倒すための仲間になるんです。進士さんはどう見ても私より格下……失礼、下僕根性が滲み出していたので従者として扱うことにしました」

「一度表に出るか、オラ?」


 言い直した意味合いが全く感じ取れない酷い発言だった。まともに殴り合ったら勝ち目ないだろうからやらないけれども。


「なんか『運命』らしいですよ。第一異世界人は、その勇者を助ける最高のパートナーになるんだとかなんとか」

「第一異世界人って……」


 「最初に出会う異世界の人」の意味合いとしては正しい呼称なのかもしれないが、俺にとっては全く別のニュアンスが感じられて真面目な話に聞こえない。


「その世界で勇者が生きていくために役立つ何かしらの能力なり権力なりを持っていて、しかも魔王になにかしらの縁-恨みと言ってもいいですが-を持っている人物……最初に出会う仲間はそんな人らしいです。だから私たちが魔王を打ち倒す勇者だとわかればほとんどの人は自発的に協力してくれるそうなんですが……」

「……俺には魔王に恨みなんてないぞ」


 そもそも魔王なんてこの世界にはいないし、多分今回の事例には当てはまらないのではないだろうか。……実はカミラが挙げたもう一つの条件、「異世界で勇者が生きるための能力を持つ」の方には心当たりがなくもなかったのだが、それを考え始めると恐ろしいことになりそうだったので思考を中断する。


「……にしてもお前らも暇だよな。わざわざ異世界まで救いにこなくてもいいだろうに」


 まだまだ着きそうにないので、再度話題を変える。どうやらカミラもだいぶ車内の環境に慣れてそれなりに機嫌を直したらしい。


「別に強制されているわけじゃないんだろ? その村のある場所が原因なら、村を引っ越して真っ当な暮らしをしようとかそういう意見が出たことはなかったのか?」

「いえ、確かに勇者業が嫌だって人はいますが、そういう人は自発的に出ていきますからね。村全体でそんな話になったことはありません」

「……要するに?」

「好きで勇者やってる人の集まりなんで、みんな嬉々として勇者に励んでいます」


 同好の士のコミュニティでもあったのか。


「あーそれならアレだ、周りの国の平和を守ったりとかは……」

「元々は世界中に魔物がいたので、それを討伐する英雄はたくさんいたんですよ。でもさっきも説明した通り私たちの世界いつの間にか魔物が滅んでしまいましてね、それ以降人間たちの間でも諍いはあったんですが、それも数百年前に終結し今じゃどこの国も戦争なんて起こさず平和なもんです。そのせいで存分に戦いの腕を振るいたい、って人が集まってうちの村が拡大したという歴史もあります」


 なんと向こうの世界では何百年も前から平和郷を作り上げていたらしい。やはりこの世界は遅れているのだろうか。


「犯罪行為だって滅多なことじゃ起こりません。うちの村の近くで起きた一番最近の大事件だと、2年前に山を越えた向こう側の里でニワトリ泥棒が起きたときですかね。あの時はみんな大騒ぎで大変でした」

「ほー実に牧歌的な光景だな」


 想像してみる。逃げ出す泥棒、手にはニワトリ、後ろから追いかける無数の村人……当人たちからすれば笑いごとじゃないだろうが、それがここ最近で起きた一番の大事件として語り継がれているのは牧歌的としか言いようがない。


「いや、本当に大変でしたよ。誰が泥棒の討伐に向かうかの大激論から始まって」

 ん?

「結局討伐隊メンバーはこの私こと『銀嶺』カミラ・フェーゼン他、『剣星』のルクシオンさんと『爆炎に居する女帝』マリリンおばさんと『漆黒の送葬者』マーチスさんと、あと『学究の徒にして探求の途』ジェイルさんに決まったんですが」


 お前たちの村の住人は全員物々しい二つ名を持っているのか、ということはさておいても。


「……討伐? 捕縛とかじゃなくて?」

「えぇ、討伐です。悪党に容赦する義理はありませんから。まずジェイルさんが山の中に逃げ込んだ泥棒の痕跡を追跡しましてね、いやもう瞬く間に泥棒がどこでどれだけ休んだのかとか、どこで何を食べたのかあっという間に割り出して現在地まで推定してですね、あれほどの探知魔術とそれを処理する演算能力の合わせ技は地味ながら神がかった凄さです。で、ようやく泥棒の後ろ姿を捉えたんですが、不埒にも逃げようとしたのでルクシオンさんが長年の修行の末身に着けた秘儀『飛燕』で泥棒の左腕をスパッと行きまして、それでもなお逃げようとするもんですからマリリンおばさんの『豪炎満つる帝紀エンプレス・クロニクル』が炸裂したんですよ。運良く直撃は免れて-『豪炎満つる帝紀』が直撃したら本来消し炭も残りませんから-泥棒ときたら全身大火傷でそこら中転がり回っていたんですが、そこにマーチスさんの『大口開ける虚無ダークネス・ダークホール』が全てを食らい尽くさんと迫って……」

「……いや、もう本当お腹一杯だから勘弁してくれ」


 どう考えても泥棒一人に使っていいとは思えない技名が乱発されていたが、それについて質問するよりも武勇伝を嬉々として語るカミラがどうにも俺の理解の外なのだ。


「ですが本当にあの戦いは私が手を出す暇がなかったのが残念に思えるほど、近年まれに見る熱戦でしてね。是非ともあの興奮を分かち合いたいと……」

「……そろそろ乗り換えだから降りる準備をしろ」


 多分厚意から面白い話題を提供しているつもりなのだろうが、フィクションの中ではなく現実にそんなことをやっているエピソードは正直勘弁願いたいものである。


 乗り換えもクリアし、満員電車も経験……しかけたが、カミラが「こんな非人道的なものに押し込められるぐらいなら、いっそこの世から消し飛ばします!!」と危うく剣を抜きかけたりもしたので、なんとかなだめすかし空いている電車を待ってから移動することを繰り返し、俺たちはようやく目的地にたどり着く。


 場所は東京都千代田区溜池山王駅、目の前にそびえたつはこの国の首相がいるはずの建物……

 つまり、総理大臣官邸にほとんど勢いのままやってきてしまったのである、俺たちは。

次回、少しシリアスになる予定です

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