いざゆかん王の下へ
とりあえず、家を飛び出そうとするカミラを追う。
なんとなく流されるままではあるが、コイツの行動には興味があるので、今しばらくは付き合うことにする。こういう時、自由に時間を作れるのは自由業の強みだ。
さすがに見ず知らずの家なので、どこから出るのかわからなかったらしい。廊下で立ち止まっていた。
「……進士さん」
「……玄関はあっちだ」
素直に教えてやる。そういえばコイツ登場からこっちずっと土足だったな……今更だが。
「……いえ、トイレどこですか?」
「……トイレならあっちだ」
素直に教えてやる。
流石にあれだけカパカパ茶を飲んだら影響も出るか。
その後、ウォッシュレットにやたら感動したカミラが「こ……これ絶対持って帰ります! 間違いなく革命がおこります! 私の名が歴史に永遠に刻まれます!」とひとしきり騒いだ後、自分の現状を思い出しがっくりする一幕もあったが割愛。
いや、ウォッシュレットで革命は起きないだろ。大体それを持って帰ったら「おしり洗ってくれるトイレを持ち帰った勇者カミラ」と永遠に呼ばれる羽目になるぞ?
そう指摘してなお、カミラはウォッシュレットに執着していたようだが、やがて吹っ切ったらしい。
「……名残惜しいですが、今はさらに優先すべき事項があります。ウォッシュレットを持ち帰るための研究は後です!」
「後でやるんだな……」
とりあえず表に出る。
隣を見る。
「よし一度戻ろう」
素直に従ったカミラと共に家に戻る。
「何かありましたか?」
きょとんとして尋ねるカミラ。たぶんこの世界について何も知らないから俺の指示を素直に聞いたのだろう。
「……妙に慣れてしまって気づいてなかったけどやっぱお前の恰好変だわ」
金髪碧眼の美少女……程度なら今どきそこまで珍しいものでもない。人目は引くだろうが、すれ違いざまにチラッと見られて終わりだろう。
だがその美少女が明らかにコスプレとも思えぬ使い込んだ鎧をまとって腰に剣を佩いていれば話は別だろう。
下手すれば職務に忠実なだけの善良なおまわりさんの手を煩わせかねない。俺としてもハッキリ言ってそんな事態はゴメンだ。
改めて白昼の日差しの中で(コイツは散々夕食がどうのと言っていたが実際は昼にもなっていなかった)見てみるとその異様さはよく理解できた。
……表に出るまでそのことを想像もしていなかった自分が毒された気になって嫌になるが。
そんなことを伝えると、カミラはポンッと手を打って
「なんだそれだけの話ですか」
「……それだけって結構大事じゃないのか?」
「いえ、それなら鎧と剣は脱げば済むことでしょう?」
「……確かにそうだが……」
その装備って大事なものじゃないのか?
「ですから、ホラ」
カミラがしゅっと手を振り何やら意味のわからない言葉をつぶやくと……
「おぉっ!?」
たちまちのうちにまとっていた鎧が見えなくなり、剣もどこかに行ってしまった。
そしてカミラは鎧の下に来ていたワンピースだけの恰好になる。
これはこれで時代がかかっていてなかなか目立つが、鎧よりははるかにマシだろう、
そういえば、なんとなく流していたがコイツ魔法が使えるんだったよな……。
改めてそれを目の当たりにすると、やはり異世界から来たのか、と実感する。
「収納系の魔法です。身に着けておける程度のものが限界ですが、我が村なら子供でも使えます」
俺が驚いたことに気を良くしたのか、またもや機嫌が良くなり-ついでに態度もデカくなるカミラ。
いや、これについては真面目にびっくりしたから、カミラが増長していることを指摘する気も起きない。
しかし、俺に刻まれたツッコミ因子はそういう状況下でもひたむきに仕事をしていたらしい。一つの疑問と共に俺は息を吐く。
「あのさ、さっきお前らの村の住人常に完全武装だって言ってたよな?」
「はい、その通りですが?」
「こんな便利な魔法があるならなんで装備をしまっておかないの? 不便だろ」
「勇者のたしなみです」
「は?」
「常に装備をまとうことで、己の命を預ける武器防具に愛着を持たせ、さらには『常在戦場』のごとき緊張感を……」
「……やっぱ変だわお前らの村」
んな張りつめた空気の村に部外者が長期間滞在したら、プレッシャーで押しつぶされそうだ。
あと「勇者村」って観光名所とかになってないのか?と今まで思っていたが、むしろ現役の勇者が山ほどいる(だけの)村なんてやましいところがなくても別に行きたい場所ではない、とようやく気付いた。
「……さて、これで問題は解決したでしょうか。ではいざ行かん、王の下へ!」
カミラがハイテンションに告げる。……今回は剣がないので拳を天に突き上げての宣言だ。
「いや、ちょっと待て」
よくよく考えるとまだ言ってないことが多いことに気が付いた。
「いいか、魔法は屋外では使うな」
「……えー剣と鎧を取り上げられた上、さらに魔法まで封じられるんですかー……」
カミラはあからさまに不満げだったが、俺は構わず続ける。
「この世界には魔王同様、魔法は存在しない。普通の人がそれを見たときどんな反応を返すか想像できるか?」
「魔法がない世界……想像の外ですねぇ」
「お前たちの世界にウォッシュレットを持ち込んで人々に自慢げに見せ歩くぐらい違和感のあることだ」
「バッチリ理解しました」
こんないい加減な例えだけで瞬時に理解するカミラはやはり頭がいいのだろうか。……単純に根が素直なだけな気もするが。
「この世界でウォッシュレットを持ち歩くのが常識であるように私たちの世界では魔法はあって当然ですが、その違いは弁えろ、ということですね」
いや、この世界にもウォッシュレット持ち歩く人なんていないけどね?そこは勘違いするなよ、あくまで例えだから。
「あと、外に出たら乗り物に乗るが、公共の施設だからあんまり騒ぐな」
「王に会う」云々と言っていたので目的地は大体決めてある。要は一番偉い人に会わせれば、気が済むだろう。正直異世界人を乗せるなら車の方がいいのだろうが、目的地周辺に車をタダで止められるような場所はないだろうし、小市民なので都心のバカ高い駐車料金は遠慮したいのだ。コイツが騒ぎさえしなければ電車を利用できるのならその方がいい。
先ほどから思っていたがカミラは意外なほど素直に俺の指示を聞き入れている。やはり高圧的なのはキャラ作りだったか。
「……要するにお忍びで、勇者らしい雰囲気を出さずに、決して目立つな、ということですね。理解しました」
ホラこのように。
「しかし私ときたら勇者オーラ抜群ですからね! 剣と鎧と魔法封じられた程度でこの神々しいまでの勇者的雰囲気を隠しきれるかどうか……私の努力にかかわらず気づかれたらその時はご容赦くださいね?」
前言撤回。やはり高飛車なのはコイツの地の性格かもしれない。