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結末だけ

──零──

作者: 新田 葉月

涙を流している貴方を力一杯抱き締めた。 


かつてないほどの近い距離。

けれど私の心臓は少しも高鳴らない。





優し過ぎる貴方の背中はきっと重いね。誰かの死を、苦しみを貴方は見ない振りなんて出来ないから。

背負い過ぎだって思っても、弱い私が強い貴方に出来る事なんて限られてた。


けれど、そんな私にも出来ることはあるから。

だから私は貴方の傍に……。



私が貴方に出来ること。


例えば貴方に珈琲コーヒーをいれること。

どれくらい、貴方の為に珈琲コーヒーを入れたんだろう?

甘いのは貴方の好み。

鼻歌を歌いながらスプーンを使ってぐるぐる混ぜる。

たくさん砂糖を入れてるから、なかなか溶けないけど。苦い想いを抱える貴方にこれの以上は苦味は要らないから。

せめて、甘く、疲れがとれるように。

  


私が貴方に出来ること。


例えば、疲れて眠った貴方にそっと毛布をかけること。

いつも難しそうに考えこんで、しかめっ面してる貴方。寝てるときも眉間に皺が寄ってるのを知ったとき本当に驚いた。寝てる時くらい楽したらいいのに。

それが出来ない不器用な貴方が堪らなく愛おしい。




私が貴方に出来ること。


例えば、貴方の後ろを守ること。

貴方は決して油断なんてする人じゃないけど、少しでも息を抜いて欲しい。気を張りすぎだって。無理ばかりしないで、って。

伝えたかった。





貴方が強いということは知っている。

誰よりも近くで見ていたから。

手の届かない貴方の強さにたくさん涙を流してきたから。

触れようと伸ばした手は空を切って。

もう少し背伸びすれば届いたかもしれない。

臆病な私は伸ばしきることは出来なくて。


もっと頑張っていれば良かった。

ほんの少し勇気を振り絞っていれば良かった。


今となってはそんな後悔ばかり浮かんで。





ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ごめん、なさい……っ。


私は貴方をおいていってしまった。


貴方を支えたいと思っていたのに。

独りにするなと。貴方がようやく、弱音を吐き出してくれたのに。

貴方の重荷になってごめんなさい。

これ以上誰かの死を背負って欲しくなかったのに。


どうして……私はこんなにも―――弱い


もう、貴方に珈琲コーヒーを入れることも、疲れて眠った貴方に毛布をかけることも、貴方に触れることも、日常の些細な手助けだって何一つ、私には出来ない。

もう何一つ思い出を貴方と共有することは無い。


生者と死者。

あまりにも深すぎる溝。今更足掻いたところで二度と手は届かない。

初めてみる貴方の涙。

拭ってあげたいというこの気持ちはどれだけ願った所でもう、叶わない。


もっともっと生きたかった。

貴方の傍にずっといたかった。

貴方を支えていたかった。


ごめんなさい、ごめんなさい

結局、貴方を独りにしてしまった。置いていかないでくれと、そう、言っていたのに。


ようやく、貴方の心に触れられたのに。

私はもう貴方の人生に関われない。





泣いている貴方を力一杯抱き締めた。

こんなにも近いのに。こんなにも抱き締めているのに。私はこんなにも貴方の温もりを感じているのに


それなのに。貴方には伝わらないなんて。 


私の感じているこの一方通行の温もりはどうしたら……貴方に伝えることが出来るの?

静かに涙を流す貴方を抱きしめる腕に更に力を込めた。


これが私が貴方に、触れた最初で最後。




貴方との距離はゼロ

けれど、私が貴方に、してあげられることももう…………………… (無い)





こんな、暗くてまとまりきっていない上に意味の分からない駄文を最後まで読んで下さってありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 彼女にスルリと入り込めました [一言] このお話を書いてくださってありがとう 重い話でごめんなさい 立場は違いますが、このお話は同じように大切な人を失った私の癒しとなってくれました
[良い点] 悲しいけど、どこか優しいお話ですね。 [一言] はじめまして。 読んでてすごい主人公の気持ちが伝わりました。 誰かに想ってもらえるようになりたいなぁ…と考えました!
[良い点] 若い人が陥る懊悩ですね。 流れた時の彼方をただ眺めるだけ、結局はそうなるのですが、もがくのですね。 [一言] 去りし日、自分もなんらかの懊悩を経験したのか思い出そうとするのですが、さぁて…
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