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 なまぬるい風が頬に吹きつけて、まだまだ暑いなー、と隣を歩くゴウがつぶやいた。

「なぁ、お前どう思う?」

 程よく酔いが回った所で店を後にして、家に戻る為にゆったりとした歩調で彼と肩を並べていた。唐突に聞かれたその問いが何に対する事なのか判らずに、一瞬沈黙を作っていると彼の口が更に開く。

「京ちゃんだよ。簡単に手に入ると思うか?」

「え?・・・だって高校生ですよね?」

 彼の意図に驚きの言葉を返す。女子高生相手に楽しく付き合うのは難しく厄介なのだと容易に想像がつくはずなのに。

「いや・・・まあ。しっかりしてるし綺麗な子だなぁと思ってたんだけど。今日、あの佐藤達のあしらい方見て。大人として付き合えそうだな、とふいに思った瞬間に、なんか急に。これはかなりのいい女だと悟ったっていうか。誰かに取られる前に自分のものにしてみたい」

 そう一気に吐き出した後、ゴウは上を見上げて雲の流れを追った。


「・・・確かにしっかりしてるとは思いますけど。でもやっぱり子供だと思いますよ、俺は。だから普通に口説いていけば落ちるんじゃないですか。ゴウさんの大人の魅力で」

 正直な感想を述べると、隣で彼はにやりと笑う。

「おう、じゃあ、やってみるか。上手くいったら何か奢ってやるよ」

「楽しみですね。頑張って下さい」



 設計事務所自体は午後五時に閉店する。

 しかしほとんどの社員は連日六時、七時までいるのが常だ。実働部隊となる建築士が全員男で独身が多いと言う事もあるのだろうが、実際に客と打ち合わせをするのには土日か夜になる事が多いせいで。客の都合に合わせるには一般の勤め人が仕事を終える五時以降と休日という事になる。


「課長、コピーここに置いておきます」

「ああ、ありがとう」

 ゴウが飲み会の帰り道、自分に意見を求めてきたあの日から一週間と少しになる。クリップで挟んだ紙束を奥の課長席に届けた彼女に、何か変わった所があるようには見えなくて。ゴウはまだ何も行動を開始していないのかと疑問に思った。

「あ、そうだ市村さん」

 何でしょう、と小首を傾げる彼女に目を細めて課長が口を開く。

「明日の土曜日、創良家具に行くって松木さんから聞いたんだけど」

「ええ」

「それにさ、佐山も連れて行ってくれないかな」

「え?」

 彼女の顔がこちらを向く。後ろで軽く結んだ髪が揺れて。切れ長の目が驚いていた。

「挨拶に行かせなきゃと思ってた所に、いいタイミングで松木さんが明日の事話してくれたもんだから」

「・・・ああ、お願いできるかな。俺がいた時はそこと取引なかったみたいだから」

「は、い。分かりました。・・・三時に着くように行くんですけどそれで大丈夫ですか?」

「判った、三時ね」

 戸惑う彼女に了解の意を告げた。

 自分がいない間に新しく取引を始めた家具店へと顔を見せに行け、と先程、課長と生活雑貨ブースの主任が話をしている所へ呼ばれてそう命じられた。その店舗は質のいい家具をこの店に卸す他に、客のオーダーに合わせて設計から製作を行うという仕事もしていて。この設計事務所に依頼する客が家具もこだわりたいとそこへ注文する事が多いらしく、パイプ役となる建築士として挨拶をしておかなければいけなかった。

 インテリアコーディネーターである真里や沙紀が同様にパイプ役となるのだけれど、偶然にも明日、雑用でその家具店へと出かける京子に案内を頼む。お互いまだ慣れていないので、彼女もかなり戸惑うのだろう。

「悪いね、俺の車出すから。二時半位でいい?」

「あ、いえ・・・あの、駐車場ないし駅のすぐ近くなので電車で行く方が早いと思います」

「ああ、了解」

 そう答えるとその表情も元に戻る。

「京ちゃーん! ちょっとこれ、用紙の設定ってどうやって変えんの? 文字が端で切れるんだけど、おれを助けて!!」

「あー、はい、今行きまーす」

 気まずい沈黙が流れ始めた所に、部屋の向こうから先輩が大声で彼女を呼んだ。ほっとしてその後姿を見送って仕事に戻る。


 いまいち、彼女にどう接すればいいのか分からずにいる。彼女の方も他の社員とは違い自分に対しては、何かおずおずとした様子か、事務的口調のどちらかなのでやりにくいのだ。

 明日の事が思いやられてため息がこぼれ落ちた。


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