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どこからか湧き上がる衝動。
それはただ単に性欲を満たしたい、というものではないと、彼女と出会った三年前に初めて知った。無視したり、どこかへ流してしまったりという事が簡単にできない、彼女に対する感情や衝動は、いつの間にか自分の中でその種類を増やし、大きさも加わり。すでに自分の一部となってしまった。
「同窓会、楽しかった?」
気だるい目線を上げる京子にそう尋ねると、ぱっとその表情が変わる。
「あのね、緋天に話題が集中して面白かった!」
目を輝かせて説明を始めた彼女の背中に手を置きなおす。どうやら第二ラウンドへ突入する機会を自分で潰してしまったらしく。苦笑を抑えてその言葉に耳を傾けた。
京子の友人の一人、緋天という女の子には正直ライバル心を抱いてしまう。京子の話の三分の一を占める彼女には、今まで男の影がなかったのだが。と言うより、何故か京子が近づく男を品定めする事に只ならぬ情熱を注いでいたのだが、ごく最近、京子があっさり認める男が現れ、めでたく結ばれた。これでようやく京子の興味も薄れるだろうと内心ほくそ笑んでいたのだ。ところが今日もまた、彼女の話題となってしまった。
「・・・でねー、こう、甘ぁ~い雰囲気を人目を気にせず作り上げる蒼羽さんもすごかったなー。王様は他人なんか目に入らず、って感じ。でもクールな顔で木下にヤキモチ妬いてて面白かったー」
「・・・。緋天ちゃんて、そんなモテる子には見えないけど」
最後に彼女に会ったのは、京子の高校の卒業式、もう二年も前の事だった。ショートカットの髪でとりわけ美人でもなく。大人しいけれど、たまにその口から思いもよらない発言が飛び出す。無駄にはしゃいだりせず、どう贔屓目に見ても二十やそこらの遊びたい盛りの男達からは、あまり目を向けられない気がした。
逆に京子の方がはきはき物を言う性格で、おまけに大人びた表情、クールビューティの代名詞の様な容姿をしているので、悔しい事だが男の目線から隠せない。思わず本音が漏れて、一瞬後にしまった、と思ったら。案の定目を吊り上げた京子が体を離した。
「もうっ。ちっがうよ!! 亮祐さん判ってないの! 髪、短いのも可愛かったけど。なんか髪伸ばしてから、緋天、すっごいんだから。人間の庇護精神?みたいのを掻き立てられるっていうか。高校の時とのギャップに驚いた男子諸君が目の色変えてさー。でも初めに蒼羽さんが布石打って行ったから明らさまに近づく奴いなかったけどね。あっ、そうだ。昨日写真撮ったから見せてあげる」
体を起こしかけたその肩を押さえて無理やり押さえつける。もう少しこのまま彼女を近くに置いておきたい。この体の内側を回り燻る嫉妬に彼女は全く気付きもしないのだ。
「それで? その血気盛んな男子諸君から、お前には何も打診は無かったのか?」
高校時代、幾度も同級生から告白をされていた彼女を。久々にそのクラスの女神を目にした男達がまとわりつかないはずがない。
「やだな、いい大人がヤキモチですか?」
にやりと笑うその魅惑的な唇に指を乗せる。
「どうだったんだ」
「クラスの全員知ってる誰かさんと相も変わらず付き合ってる、って聞いたらね。皆苦笑い浮かべて、それから緋天の事を聞いてきた」
つい苛立たしげな声を出してしまったら、得意げな笑みを浮かべる。その答えにほっとして、もういいだろうと京子の体を再び引き寄せた。何はともあれ蒼羽という名の見知らぬ男に、京子の大事な友人をしっかり支えて貰いたい、とそう願って。甘い香りが漂う愛しい彼女の首筋に口付けを落とした。