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カラスは黒い、と少女は言った。

 アクセスありがとうございます。

 びっくりするほどアクセスカウンターが回らない。最近のこのサイトっていうのはそういうもんなのか。単に俺の小説がつまらないだけ? まっさかー。

 アクセスくださった数人の方には最大級の感謝を。これからもお付き合いいただけると幸いです。

 小野寺正志は孤児院のみんなにそれはたいそういじめられていた。

 その日の夕飯の席で隣の男の子におかずをたかられていたのを皮切りに、その後は消灯時間まで両脇を二人の男の子に固められた状態で、年下の子たちから殴る蹴るの憂き目にあう。上手いこと年下の子に実行犯を負わせているといった具合だった。

 本気で痛がった表情をする小野寺の周囲を、子供たちはどこかしらけたような表情で眺めている。あからさまに愉快そうな表情を浮かべている子もいる。野次が飛ぶ。一ノ宮先生がやめろと叫ぶが効果は薄い。他の職員は揃ってみて見ぬ振りをしている。

 「あんなにいじめられているのに、どうして誰も助けてあげないんですか?」

 わたしが一之宮先生に訪ねると、一之宮先生は一瞬だけ諦めたような、それでいて少し奸悪な表情を浮かべる。

 「仕方ないのよ。あの子は」

 いじめは職員がらみで行われているようで、院長先生も副院長も他の職員も彼が殴られ蹴られるのを黙認しているようだった。見てみぬ振り。誰も彼に優しい言葉をかけることはない。一之宮先生ですらこんな感じなのだから、小野寺の嫌われようは尋常じゃないところに達していた。

 「あの子もついこの間お母さんに捨てられてここに来て……。しょうがないとは思うんだけれどね。盗むのよ、彼。女の子の下着とか歯ブラシとか、そういうの。前からちょっと嫌われてた部屋のベッドの下にたくさん隠し持っているのを、同室の兜森くんが発見してね。それからあんな状態に」

 男の子から強烈なラリアットを食らって小野寺が床に向かって投げ出される。そこを容赦なく蹴り、踏み付け、圧し掛かり、マウントビンタなどの暴力の応酬が繰り出される。やってるのは小さな子供だけれど、内容自体は酷いリンチだ。これが何日も続いているらしい。

 「ここを止めても意味がないのよ。あの子たち、今はじゃれてるみたいにやってるけれど、大人の目のないところだと本当に酷いんだから」

 酷いと思うなら止めてあげて欲しいと思う。思うだけで口には出さない。口に出しても無駄だろうことがなんとなく記憶のどこかに引っかかるからだ。

 こうして見ている分にはちょっとだけ滑稽にも感じるけれど。誰も止めてくれる人のいない状況でこういうことをされ続けるのは、相当つらいことだろうと思う。わたしは小野寺に同情する。どうにかして助けられないかと考える。

 一番小野寺をいじめているのは、彼と同室の男子だという兜森という男に見える。あいつをどうにかしてしまえば良いのだろうか? 躊躇するわたしに背後から何者かの声がかかる。

 「やっちまえよ」

 ふいに体がワイヤーかなにかでつりあげられたかのように立ち上がる。わたしは訳もわからないままにそばにおいてあった椅子を振りかざして、小野寺を後ろから羽交い絞めにする兜森の頭に振り下ろす。鈍い音がする。

 わたしの後ろから男の職員が飛びついてくる。そしてそのまま床に叩きつけられてなぐれられた。はじけるようなパンチで骨に響くような嫌な感じがする。小野寺は信じれらないものを見るような目でわたしを見下ろしていた。

 その後わたしは「すぐに寝ろっ!」と部屋に叩き込まれる。わたしはいわれたとおりに中に入って、膝を抱えて丸くなる。

 そういえばまだお風呂に入っていない。あんまり入らせてもらっている気がしないなと思う。こんな風に何かやらかして部屋に放り込まれることがだいたいだったような。わたしはなんとなくパジャマに着替えて眠くなるのをそっと待つ。

 どうやらここは少しおかしなところらしい。


 夢を見る。

 わたしはそこでは七歳くらいの小さな女の子。毎日絵を描いて一人で過ごしている。

 ある日わたしの下に妹が一人生まれる。妹は玉のようにかわいくてわたしはそれをたいそうかわいがる。一日中妹のいるベッドの前で彼女のことを見守って過ごす。それだけが楽しくてほかのことは全部嫌い。わたしは妹さえいれば何もいらないと思い始める。

 しかしあるときわたしはふと二階で窓を見ている。その手にはかわいい妹が握られていて、わたしはふと思い付いて妹の足を持って二階の窓から吊り下げる。この高さから落としたらどうなるのだろうと、妙な興味を引かれてわたしは地面を見下ろし続ける。

 わたしの背中で二人の人物の声がする。羽の生えた少年がやめろとわめいて、尻尾のついた女性がやってしまえとはやし立てる。伸び切ったわたしの腕には幾重にも痣やら火傷やらが刻まれている。

 伸び切った両手がしびれて赤ちゃんの妹を取り落とす。天使の少年がしまったと頭を抱え、悪魔の女性が嬉しそうに微笑んでみせる。

 わたしはそのままつぶれた赤ちゃんを見詰めながら何かを待つ。待っていた何ものかは怒り狂ってわたしを床に叩きつける。そこからは痛いことしか覚えていない。


 「お姉ちゃん。お姉ちゃん」

 翌朝そんな声がして目が覚める。わたしは眼を引き摺りながら扉に向かい鍵を開ける。中から利発そうなかわいい女の子が現れる。

 「お姉ちゃん。やっと会えたね、昨日はさんざん色んな人が邪魔をしてさ。えへへ。嬉しいな」

 そう言って女の子はわたしの胸に飛び込んで甘えるように頭をこすり付ける。わたしは戸惑ってその子を目の前に引き剥がす。

 「あなたはわたしの妹なの?」

 そういわれて首をかしげる女の子の表情はあどけない。素直そうで賢そうで元気良くて、わたしがこんな妹が欲しいなぁって思うことがそのまま反映されているようにも見える。

 「そうだよ」

 女の子はそう言って屈託なく笑う。

 「お姉ちゃん。また何もわかんなくなっちゃったんだね」

 そう言って女の子はころころ笑う。

 「良かったね、お姉ちゃん。もう何も思い出さなくて良いよ。ね? 気分が楽でしょう?」

 妹はわたしの傍にぴったりと張り付いて頬にキスをする。それから甘えたように微笑むと、屈託のない笑顔でくるくる回りながら部屋を去る。

 「お姉ちゃん。またねっ」

 そんな言葉を残して行った。わたしは取り残されて部屋で立ち尽くす。

 しばしそうしているとわたしはふと夢の内容を思い出す。妹は確かにいた。ずっと昔にいたはずだ。しかしあの子はわたしが窓から放り投げてしまったはずだ。どうしてあんなことをしたのかは分からない

 わたしは自分の右腕を確認する。千切れた人差し指から視線を下げて目を凝らすと、そこには確かに焼けどやキズの跡が刻まれている。そのキズの内容が夢とほとんど一致していることから、あの記憶はほんとにあったことだという確信を得る。

 ならばわたしは妹を殺したのか。そう思っているとがしゃがしゃと鉄格子を叩く音がする。

 びっくりして振り返ると、一羽のカラスが窓の鉄格子に向かって何度も何度もタックルを決めて羽を散らしている。何かを訴えるようにくちばしをばたばたと動かして、羽を撒き散らしながら全身傷だらけでぶつかってくる。わたしは何事かと窓を開ける。カラスが目の前でわめく。

 「おうおめーっ。ひさしぶりだなおめーっ。つっても一日ぶりだなかかかかっ。どうだ元気にしてたか? 僕っちいない間に何か悪いことしてないか? えぇっ?」

 そう言ってカラスは尚も執拗に鉄格子にタックルをかます。

 「あなた誰?」

 わたしが問いかけると、カラスは愉快そうに哄笑してくちばしをばくばく動かして話し出す。

 「誰? 誰って僕のこと忘れるなんて酷いよっ。僕っちは天使だよ、おめーの良心。思い出したか?」

 あの肉の石から出てきた男の子か……。思い出し、わたしは首を傾げてみせる。

 「カラスに食われたろ? あれからコイツを中からのっとったんだっ! かかかかかっ。ほら、さっさと中に入れてくれよ」

 「どうやって?」

 この鉄格子はわたしの手でははずれない。これは全ての子供部屋の窓にはまっているもので、子供が夜中に外出したり脱走したりするのを防いでいるものらしかった。

 「バーカ。おめぇ、これははずれんだろがっ」

 言って、カラスは鉄格子をついばんでばたばたと暴れる。

 「こないだおめー一人でナイフでこすってたろ? つってももう忘れてるのかな?

かかかかかっ」

 哄笑し、天使は鉄格子の端っこの方をくちばしで指してみせる。

 「ここだここだっ。この辺からぐわっ、ってもちあげたら開くよ。やってみ?」

 わたしは天使が言ったとおりに鉄格子をもちあげてみる。鉄格子と言っても薄く錆び塗れの金属が施してあるだけのそれは、やすりをかけるどころか男の子が殴れば壊れてしまいそうだった。

 鉄格子は簡単に開いてしまう。カラスは嬉しそうに哄笑して部屋の中に飛び込んで羽を撒き散らす。

 「かかかかかっ! やっぱ中は良いなぁ、外だと猫いるじゃん猫っ。食われるもん。かかかかっ」

 カラスは上機嫌そうにそこいらを旋回し、それからわたしの方に向かって一直線に向かってきたと思ったら、鼻のあたりをくちばしで攻撃してくる。

 「い。いたいっ」

 「痛いじゃねーよおめー。さっさとそこの鉄格子を元に戻せ。ばれたらどーすんだよ。かかかかっ」

 わたしは天使のいうとおりにそれを実行する。なんだかさっきから言いなりだけれど、コイツがわたしの天使で良心だというのなら、そうするのもあながち間違っていないようにも思える。

 天使はわたしがいうとおりにしたのを見届けると、満足したように時計の上に足を乗せる。時計は十一時を示しているがもともと狂った時計なのであてにならない。どれくらいずれているのかを逆算すればまだ役に立ちそうだけれど、わたしはそれを覚えていなかった。

 その時。部屋にノックの音がこだまする。

 「くぼみちゃん。くぼみちゃん朝だよっ」

 一之宮先生の声。カラスはびっくりした風に飛び上がる。

 「やっべーっ。人が来た。やっべーやっべーばれたらやっべーっ。おいおめー僕っちに布団をかけて隠してくれ! 羽も集めてどっかどけとけ! 早くっ」

 わたしはいうとおり、時計の上に掛け布団をかぶせてから扉を開ける。一之宮先生が優しげな表情でこちらを見下ろしてくる。

 「今朝はもう起きていたの?」

 うなずく。

 「朝ごはんできてるわ。早く着なさい」

 そう言って先生はわたしに向かって背を向ける。若干羽は掃除できずに残っていたし、床に置かれた布団は異様に盛り上がっていたけれど、どうやら異常には気付かれずに済んだらしい。

 「分かった。……ところで先生。あの」

 わたしは散らばったカラスの鮮やかな黒羽をもちあげながら、先生の後姿に向けて質問する。

 「なぁに?」

 「カラスの色ってなんでしたっけ?」

 先生は目を丸くして、それから当たり前みたいに返答する。

 「何いってるの。カラスは白に決まってるじゃない」

 そうですか。わたしは答えて、それから首をかしげながら今日を過ごす衣類に手をかける。


 朝食の席で小野寺は変わらずおかずをたかられている。

 たかっていた方の兜森が何か恐れたようにわたしの方に目をやってくる。昨日わたしが殴りつけた箇所に包帯が巻かれている。こぶでもできて、中に何かで冷やしてでもいるのか。血も出ていなかったのに大げさだなぁと考える。

 食事を終えてわたしはキャンバスを手にして外へと繰り出す。昨日描いていたカラスの絵の続きをやろうと思ったのだ。

 朝焼けに染まった空を進んで昨日のゴミ置き場に向かって歩き出す。何もない。カラスは眠ってでもいるんだろうか。そう思ってわたしは窓の鉄格子を外して天使を呼びつける。ばたばたと羽を撒き散らしながら真っ黒カラスの天使が現れる。

 「そんな簡単に開けるなよ。バレちまうぞ」

 天使が忠告するように言う。わたしは首根っこを掴んでゴミ置き場に天使をつれてくる。

 「いてぇっ。いてぇって。乱暴に掴むなよ。いててててっ」

 ゴミ置き場まで来るとわたしは適当に天使を放り出してキャンバスの前に腰掛ける。それから首を傾げている天使にいう。

 「飛び回ってて」

 「合点承知」

 天使はゴミ置き場の周囲をぐるぐると旋回する。そうしていると昨日の料理のときに出たゴミを発見し、無表情のままでその傍に降り立って美味そうにゴミ袋を漁り始める。ゴミの中には台所の三角コーナーもあって、そこにはわたしの眼窩から出た肉片が混ざっているはずだった。

 この絵をどうやって完成したら良いのかはわたしには分からない。気の向くままに色んな黒を作って色んなところに塗ってみる。手元の絵の具では若干の不足を感じないでもなかったけれど、どうにかするのも面倒なので我慢する。

 グーで筆を握ってべとべと塗りつけているとなんとなく思い出してくる。わたしはこうしているのがとても好きだ。こうして毎日絵を描いていたんだ。

 こんな感じで少しずつ取り戻していけば良いのだろうかと考える。同時にわたしの妹と名乗る女の子が今朝忠告してきたことも思い出す。何もかも忘れた方が楽でしょう? 妹は確かにそう言っていた。どこかたくらむようなせせら笑うような、童女めいた笑みを浮かべながら忠告した妹のことを思い出す。

 どっちでもいっか。

 わたしはそう開き直って絵に向かっていることにする。ここの孤児院は少しおかしいけれど、一之宮先生は優しいしごはん食べれるし絵だって描ける。わたしだけ鍵のある個室に入れられていたり、窓に鉄格子がはまっていたり、部屋にナイフが落っこちてたりいないはずの妹がいたりカラスが喋ったりするけれど、そんなに悪いところではないのだ。きっと。

 そう思ってぐちゃぐちゃと絵の具を塗っているとわたしの背後から声がかかる。

 「よう信条。昨日はおもしろかったなぁ」

 軽薄なその声に振り返ると親しげな表情を浮かべた小野寺が、わたしの絵を覗き込んでいる。

 「うっわきっもちわりぃ……。ぐっちゃぐちゃじゃねーのぐっちゃぐちゃ。でもすげー」

 そう言って小野寺は見入るようにしてわたしの絵に顔を近付けてくる。眉間に皺を寄せてじっくりと吟味する様子はどこかしら学者然として見える。

 専門はなんだろう。ぱんつ学だろうか。

 「おめー。筆の持ち方きたねーのな」

 そう言って小野寺はわたしの右手を指差してくる。

 「赤ちゃん持ちじゃねーか。ぐーで握ってて良くそんなにかけるな。ぶきっちょなのか?」

 言うのでわたしはいったん筆を置いて、人差し指のない右手を小野寺の前に掲げてみせる。小野寺は一瞬面食らったような表情を見せると、目を丸くして黒くなったわたしの手を覗き込む。

 「それどーしたの」

 「わかんない」

 「分かんないっておまえ……」

 小野寺は呆れた風に首を振るってみせる。

 「自分の指が千切れたときのことくらい覚えてろよ」

 「どーでも良い」

 そう言ってわたしは自分の絵に向き直って絵の具を置く作業を再開する。小野寺はやや退屈そうにその場に足を投げ出し、わたしの絵が進行していくのをぼんやり眺めていく。 

 「信条。おまえ絵ぇ習ってたこととかある?」

 「知らないよ」

 「絶対あるだろ。……うめぇもん。つーか描き方がなんか素人と違う。道具もすげーし。むちゃくちゃっぽいけどどっか秩序的っつーの? それ、今は絵の具塗ってるけどさ、その下で相当下書きとかしてるだろ」

 哲学者然とした顔で自分の分析を語る小野寺。変な言い回し。わたしはよくわかんないのでその場で首を傾げてみせる。わたしの返事がないので小野寺は退屈そうにあくびをする。

 「なー信条」

 「なに?」

 「その絵できたらくれよ。もしくは売ってくれ。三千円までなら出すよ」

 そういうのでわたしはすごく意外な気持ちになる。

 「ぱんつよりは高いね」

 「そうだな」

 「お金で取り引きするのすきなの?」

 「ああ。なんか安心じゃん、きっぱり金ですると。学校だと中古の漫画とかタバコとか売ってちまちま稼いでてさ。結構あるんだよ」

 「いくらくらい?」

 「六千円」

 「ふうん」

 わたしは生返事をしてキャンバスに向き直る。

 「一万円」

 「は?」

 「一万円なら良いよ」

 そういうと小野寺は眉を顰めて、しばらくするとしたうちをかましてから不機嫌な声で言う。

 「分かったよ。一万円な。できるまでに用意しとくよ。兜森の財布に確かそれくらいあった気がするし。知ってるか? アイツ院長の財布から金盗んでんだぜ?」

 どうでも良い。わたしはキャンバスに向き直って絵の具を塗りたくる。

 黒は一番作っていて楽しい色だと思う。何をどう混ぜてもだいたい黒にできるし、混ぜ方によって違う黒になったりもする。ぐちゃぐちゃにべちょべちょを混ぜ合わせて浮かび上がる、ぼんやりしたものがわたしは好きだ。

 小野寺は退屈そうに頬杖をついてゴミを荒らすカラスを見詰めている。その表情はやっぱり何か難しくもくだらないことを考えているようにも見える。くだらないことを難しく考えているのかもしれない。それで結局何も生み出さないし思い至らない。小野寺はそういう人間に見える。

 「ねぇ小野寺」

 わたしが声をかけると小野寺はびっくりしたように顔をあげる。

 「なんだ?」

 「この絵やっぱりただで良いよ」

 わたしは小野寺の方を見もせずに小野寺に言う。小野寺は意外そうな表情をしてからはにかんでみせる。

 「マジで? なんで」

 「なんでも」

 「……ふーん。そうか。じゃあ良いや。ただな、ただ。できあがったらただで寄越せよ。約束な。絶対、約束だからな?」

 約束、という言葉を偉く強調する小野寺。そう言ってこちらに向けて腕白そうな手を差し出してくる。

 「ゆびきりげんまんな。絶対破るなよ、なぁ」

 わたしは小野寺の顔を見返す。照れたような様子はなく、むしろそうすることで契約を明確に成立させようとする浅ましさすら感じられる。子供っぽいのやら神経質なのやらよくわからない。わたしは絵の具に塗れた右の小指を差し出してみる。小野寺は躊躇なくそれを自分の指にからめて乱暴に引っ張る。 

 「ゆーびきーりげーんまんっ!」

 小野寺は乱暴に手を振り回して音頭をとる。

 「嘘吐いたら針千本のーます。指切ったっ!」

 そう言って手を離し、後でげらげらと笑って見せる。自分のしたことがおかしかったのかもしれない。

 ふと思い付いてわたしは差し出した自分の手を前にかざす。わたしは自分の千切れた右手をじっと見詰める。紙切りバサミとかそういうものでぶきっちょに乱暴に切り離したみたいな、いびつでがたがたとした切り口だった。

 指切った。

 読了ありがとうございます。

 死体がコンニチワするのは次くらいで勘弁してください。

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