進みだした針の音
男は硝煙を上げる拳銃を手にしながら、つまらなそうに言った。
「……どうして、避けるの?」
頭から流れる血を、手で無理やり拭いながら言った。
「悪い……な」
頭に銃弾はかすりはしたものの、俺は紙一重で避けることに成功していた。
そのまま呆然としている男に馬乗りになる。
両腕を動かせないように筋を押さえつけると、男は痛そうに顔をしかめた。
そこまでして、感情が決壊した。
堪えていた言葉が、口からこぼれだす。
「ごめ……んなさい」
ぽとりと男の頬に滴が落ちる。
「ごめんなさい。ごめんなさい……」
まるで子供のように涙を流しながら、謝る。
男はあきれたように呟いた。
「…………謝るくらいなら、そんなふうに泣くくらいなら、しなければいいのに」
「……ごめんなさい」
俺は謝る。すべてに許しを乞う。
許されないと知りながらも。
こんな風に泣くことが、どれほどおこがましいことかわかっていながらも。
「ごめんなさい。それでも、俺はミユさまのそばにいたい」
「…………」
「もう主や奴隷の関係ではないにしても、俺が忠誠を誓ったたった一人の人だから。たった一人、愛している方だから」
諦めきれないのだ。
どれほど自分は強欲なのか。
頭の中の自分が俺を責めるが、その言葉を掻き消してしまうほど心が叫ぶ。
「俺は、ミユさまのそばに……いたい」
絞り出した微かな俺の言葉に、男はため息をつく。
「……羨ましいなぁ」
「……?」
「僕は自分のことばかりだよ。旦那様だって、僕にとってはただの道具に過ぎない。だから、そんなふうに狂えるほど誰かを思える君を見てると、少しつらくなる」
男は無表情のまま、無感動な声で言った。
「自分がどれだけ欠けた、つまらない人間だと思い知らされるからね」
俺は言葉を出せない。
男はにっと笑った。
「逃げな。どこかへ行っちゃえ。薬はあげるよ、好きに使っていい。ここまで物語を進めちゃったんだ、終わりがどうなるのか、僕はとても興味がある」
「でも……旦那様からの命令は」
「そうだねぇ。殺されるかも。でも、まぁいいや。僕はこの命を売ってでも、君たちの終わりが見たいな~。それだけの価値があり、そう思えてしまうほど僕は羨ましい」
「……感謝する」
それだけ言って、俺は男の頭を殴る。
あっさり気絶した男のスーツを探り、その小瓶を見つけた。
コンテナの後ろに寝かせていた彼女の口元に、小瓶の液体を注ぎ込む。
彼女を抱いて数瞬、変化は劇的だった。
「あれ、ハジメ? 私……死んだはずじゃ…………えっ?」
十八の姿となり戸惑う彼女の言葉をさえぎって、俺は抱きしめる。
「ミユさま…………」
押し出した声とともに、強く強く彼女を抱いた。