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告げられた未来と響く言葉

「率直に言うぜぃ。キミとお嬢様の寿命がわかったから、お知らせに来ました~。つまりは、余命宣告っ!」


「……はぁ?」


俺は目を丸くする。

連れて行かれた場所は取調室のようなところ。小さな机を挟んで、所長を名乗る男と俺は向かい合っていた。


「……待って下さい。俺たちの病気は症例が少なすぎて、限界を調べることはできないはずじゃぁ……」


「ふふふ~、それがね、ほんの一週間前に二人の患者が死んじゃたんだ。一人はキミと同じ『黄泉帰り』の患者。もう一方は、あのお嬢様と同じ『時戻し』の患者でしたっ。その二人のおかげでデータがい~感じにそろっちゃてね。確実じゃあないんだけど、大体の予測ができるようになったんだ。いえ~い! 医学の進歩はすばらしいっ!!」


所長は満面の笑みを浮かべて言う。


「『黄泉返り』、キミが罹っている病気。ただ死ねないという病。限界(リミット)は個人差があってバラバラ……だ・け・ど、法則が見つかったんだ。君の場合(ケース)だと、だいたい十万回目ぐらいで死んじゃうってさ」


「十万……」


途方もない数字だ。六百十七回なんて、まだ全然足りない。


「一方、あの御嬢さんが罹っている病気、『時戻り』――肉体面・精神面ともにランダムに時が巻き戻る病。進ませるにはそれぞれ条件があって~今のところキミの言葉だけが彼女の時を進ませることができるんだってね。ラッブラブ~。……でもまぁ、彼女を殺して、また同じことを繰り返すのがパターン化してるよね。悲劇だね」


「……」


彼女は知らない。今、あの檻の中でひとり停止してしまっている彼女は、自分の未来を知らない。

俺に殺されるという未来を、夢にも思っていないだろう。


「彼女の場合(ケース)では、時が戻り続けるのは約五十年くらいで終わっちゃう。限界が来れば、正常に時が進んで――彼女は本当に死んでしまうでしょう!」


「五十年……か」


頭の中で計算しようとする。でも、やはり俺は頭がよくない。

なるべく平坦な声を装って俺は尋ねる。


「俺とミユ様……どちらが先に終わりますか?」


所長は尋ねられることをわかりきっていたような顔して、あっさり答えた。


「お嬢様。これは、よっぽどキミが死に過ぎなければ揺らぐことはないだろうね」


その言葉に、内心安堵する。

ずっと、不安だったのだ。

いつか死ねてしまったとき、彼女を置き去りにしてしまうのではないかと。


「従僕根性かな? くすくす、バッカらしいよ~」


似たような言葉をレイカからも二度言われた。

二度目に言われたのは、この刑務所に収監された後。彼女と俺の病、これから俺が繰り返すことについて、面会室で話した時だった。


『バッカだねぇ、そんなに主を慕っちゃって。下僕がよくまぁ似合っているよ』


最初に言われたのは、彼女が紅岬レイカを屋敷に連れてきた時だった。


×××


「私のことは、レイカって呼べ。さんづけしたり、様呼ばわりしたら許さないからね」


印象深かったのは、やはりその衣装だった。

奇抜な、魔女をイメージしてコーディネートされた服装。

彼女は友達が多く、よく俺に紹介してくれたが、レイカはその中でも群を抜いて奇妙な人物だった。


俺は横目で彼女が頷くのを確認して、「はい、レイカ」と呼んだ。


「敬語もやめろ……って言いたいところだけど、そこは奴隷に求めちゃダメか。ははは、うちの奴隷たちもあんたと同じで、私の――主の名前だけはどんだけ言っても呼び捨てにしないのさ」


「そうなんだよね。私も呼び捨てでいいんだよ、ハジメ」


「それはできません、ミユ様」


「ほらね。やっと名前で呼ぶようになったけど、様は取れないの」


彼女は頬を膨らました。その表情を見て、「くくくっ」と猫のように目を細めて笑った。

それから彼女とレイカはしばらく益体もない話をして、お茶が終わるころには夕方となり、使用人がレイカの迎えが来たことを告げた。


「そういえば、レイカの奴隷はどこに?」


彼女は不思議そうに聞いた。

主人と奴隷は常に一緒。

彼女には六人の奴隷がいたはずだった。全員は無理にしろ、一人も連れていないのは確かに不審だった。


「めんどくさかったから置いてきたのさ」


レイカは蒼い夜空のようなコートを翻した。


「彼らは私の奴隷じゃないからね」


そう意味深に、レイカは憂いを含んだ微笑みで答える。


「それって、どういう意味なの?」


「さぁ、君ならわかるだろう?」


レイカは俺に聞いた。

俺は数秒考えをめぐらせたが、「わかりません」と簡潔に返した。


「そうかい」


ふふふっと笑うと、レイカは彼女の背後に控えていた俺へと近寄ってきた。体を強張らせるが、レイカは顔を寄せてきて、そっと耳元で囁いた。


『わかっているのに、彼女のために言わないんだろう? 奴隷らしい様だね。主人に尽くしちゃって、バカじゃないのか?』


レイカの貴族という立場。奴隷をもつことはほとんど義務のように強いられる。

例え――奴隷制を嫌っていても。

彼女の場合があまりにも異例なのだ。

望まないものを押し付けられるのは、どこにでもあることだ。

世界の、優しくない現実。


『ミユは綺麗だね』


レイカは離れるとき、呟いた。


『ずっと純白のままでいれたらいいのだがな』


その言葉に思わず目を見張る。

レイカはくすっと笑った。


「えっ、二人とも何してるの?」


彼女はレイカの言動・行動を一つも理解できず、ただ混乱しているようだった。

無知な無垢。

あの言葉は警告だった。


それから二年後、俺は彼女を殺した。



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