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4.★ 空とぶケモノ・B

 名前  :白石ユウヤ

 身長  :180cm強くらい

 体重  :

  瞳    :濃紺

  髪    :茶

生年月日:1987年  月  日

血液型  : 型

在籍学校:私立紋峯学園高等部2年C組在籍

 成績  :下の上と中の中を行ったり来たり

 性格  :


※空欄部は不明



                   空とぶケモノ・B


 人間と言うのは全てエゴイストだ。

 獣よりケダモノくさいケモノだ。

 例えば、人に優しい人でも「人に優しくしたい」という自らの欲求を満たすために、人に優しくしている。

 それと同じで、生きているのも自覚がなくてもどこかで「生きたい」と思うからだし、

 死ぬのは「死にたい」ないし「もう生きていたくない」と思うからだ。

 人間は、自分の欲望に忠実に生きるケモノだ。

 だけどときたま、「生きたい」とも「死にたい」とも思っていないヤツがいる。ものすごく珍しい。

 まるで、自分は望んでいないのに体が勝手に生きているような、不安定で確かな矛盾した存在。

 白石ユウヤはそんなヤツだった。

「人間と言うのは全てエゴイスト」というさっきの話も、ヤツの受け売りだったりする。

(“「生きたい」とも「死にたい」とも思っていないヤツ”の話はヤツが教えたんじゃなくて俺が考えたことだ。きっとヤツにそれを言っても「そんな人間いるわけないじゃん」と笑うだろうけど)


「こっから飛び降りたらどーなりますかね」

「死ぬ」

「…ま、そうだネ。一発でアウトだよきっと」

 ザン、ザザンと波が音をたててテトラポットにぶちあたり、白い雫をまきちらす。

 何万年も何億年も、飽きることなくそればかりを繰り返す青い水のカタマリたち。不毛だとは思わないのか。―――水に意思があるわけないから思わないか。

 白い雫を見下ろす俺達は、海岸堤防のへりに並んで腰掛けている。

「それに海開きにはまだ早いんじゃない」

「そうですネ。クラゲがわんさかいるでしょー」

「サメ」

「いるんデスか!?」

「さぁね」

 ヤツの自殺(ヤツ曰く「青空トリップ」)を止めたのは、5月の終わり。

 大分気温と湿度が上がってきている6月の中ごろの今まで、特別変わったことはない。

 なんとなく屋上とか裏庭のベンチで並んでベントーを食べて、くだんない話をする。

 その時なんとなく約束したり、帰りに偶然会えば一緒に帰る。

 トモダチでも、ましてやコイビトでもない。腐女子が夢見るホモという類(腐女子はこれをBLボーイズ・ラブと呼ぶ)の関係は、今のところ俺達の間にはなかった。

「麻川氏」

「何」

「俺が今、こっから飛び降りて死んだらどうしますか」

「さぁ、俺も死ぬんじゃない」

「そんなあっさり…」

「これは俺のエゴですから」

「汚いですネ」

「汚いよ。キレイな人間なんているわけ?生きてることすらエゴなのに」

 そう言ったのはアンタでしょ。

「そうでしたねー」

 その間も、やつは食い入るように海面を見つめていた。

 もし今ヤツが一人だったら、間違いなく飛び降りているだろう。

「ねェ、白石ユウヤ」

「なんですか」

「死んだら許さないから」


 俺はまだ、ヤツの事が知りたい。

 人の興味をこれだけそそっておいて、ほっぽりだして死ぬのは無責任と言うべき大罪だ。

「生きたい」と「死にたい」の狭間にいる、ニキビと子孫を残すためのフェロモンを造る時期(人はこれを青春と呼ぶ)のヤツは、特に「死にたい」に傾きやすい。


 だけど、死なせないさ。


 俺の全部をかけて、意地でも「生きたい」にかたむかせる。

 ヤツは、とても大きな(学校の七不思議とか源義経=チンギス・ハン伝説なんかより)謎だ。

 それを解くためなら、俺は一生だってヤツの近くにいようと思う。


「了解」


 ヤツは、

 青空トリップ志願者で、帰宅部会計で、

 そして、いなくなってもらったら俺が困るヤツランキングのトップを独走しているケモノだ。



きみが何より大事だとか、

きみを護るとか、

そんなことは今は言えないけれど、(だってそんなこと思ってない)

でもきみがいない人生なんて、

とてもつまらないと思うんだよ。



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