27.★ 血液型・B型 下
そりゃ、都合のいい事ばっかりな世の中なんてないって知ってるけど。
血液型・B型 下
「何やってんの」
「考えてるんですョ」
「嘘吐かないでくれる。目が逝ってる」
「斧の高村にサインをもらいに」
「悪いけどその発音じゃ正しい人名浮かんでこない」
アキと初めて会った場所で、ぼんやり佇む俺。
空は明るいオレンジ色で、見方によっては血みたいに赤い。
「…っていうか麻川氏手怪我してない?」
「ああ、さっき強化ガラス割ったから」
「は!?何それどんな腕力麻川氏細腕に似合わず!」
「おとすよ?」
「スンマッセンでしたー!!!」
「っていうかあんたも髪がない」
「止めてよその言い方禿げたみたいな気分になるから」
「何で」
「(スルー!!?)嫌気分転換に切ってみたら失敗☆」
「あんたって嘘へただよね」
「…否定はしません」
っていうか、俺そんな下手なつもりないんだけど。
麻川氏が見抜いちゃうだけの話で。
このちょっと勘がよすぎる男には時々嫌気がさしちゃうNE☆
「何があったかなんて大体予想つくけど」
「さっすが麻川氏!天才!」
「馬鹿にしてる」
「いやまさか」
とりとめのない会話を繰り広げながら、俺が思ってることはただひとつ。
人殺しは、人を愛せるのか。
愛していいのか。
「…ねえ。落ちる気?」
思わずフェンスから身を乗り出そうとしてた俺の隣で、アキは俺と同じ様な体制で下を見つめていた。
「麻川氏も落ちる気ですか」
「あんたが落ちるならね」
「魅力的なお誘いですね」
「そうかもね。とりあえずあんたが落ちたら俺も落ちるよ。つまらなくなるから」
「キミの生死の基準はつまらないかつまらなくないかなんですか」
「そうだけど」
そうデスか。
そのまま会話もなく、段々と濃くなっていく夕日を見つめる。
「ねえ麻川氏。俺どうしたらいいかなあ」
唐突な質問なのに、アキは何も聞かない。
何も聞かずに、答えた。
「何もしなくていい」
「うん、でもさ」
「俺がいいっつったらいいんだ」
「(ワォ天上天下唯我独尊☆)」
それは本当に唐突だった。
俺は夕日に洗脳されてとてもぼんやりしていたから、アキが動いたのに反応するのがとても遅かった。
首の後ろを鷲づかみっつっても差し支えないくらいの力で掴まれて。
痛いですがとか言う暇もなく、唇に何かが掠った。
確かめようと目をしばたいたら、アキはもう何もなかったかのよーな顔で夕日を見てる。
「あれ、今何したの」
うっわ俺間 抜 け … !
絶対馬鹿にされるぜこれ末代までの恥だねどうするよチェキ☆
アキはでも、馬鹿にするでもなく、ゆっくりと唇を開いて言った。
「わかんなかったんなら、もう一回してみる?」
抱き合うなんて大げさじゃない。
ただ、お互いの体を密着させた。
腕が背中に回りあうこともない。
熱すぎなくて、寒すぎない。
唇が触れ合う。
ほんの少しの間だけ触れ合って、すぐ離れる。
「僕ちゃんファーストキスだったんですけど」
「俺もだけど」
「嘘吐け超手馴れてたじゃん!」
「生憎と本当なんだよね」
腕がほんの少し触れ合った。
お互いの肘を握り合う。
掌に小さな脈が伝わった。
「殺人犯は人を愛せるでしょうか」
ふと零れた疑問に、アキは小さく笑った。
「償えない罪はあるけど、人を愛しちゃいけない人なんて聞いた事がない」
アキは過去に俺が何をしたのかを知らない。
俺はアキが何をどこまで知っているのか知らない。
知らない事だらけで、密着し過ぎない。
それは別れる時に痛みを伴わない、俺が身につけた賢い生き方で。
そうやってアキとも接してきたつもりだったのに。
「俺は思ったよりもずっとアキが好きなのかも知れません」
「あんたね、何回同じ事いわせれば気が済むわけ?今更だ、そんなこと」
確信犯めいたアキの笑みに、俺コイツにはぜってー勝てないなんて当たり前のことを再確認させられた。
アキの体温は低くて、テンパって体温高くなってた俺の体に気持ちよかった。
アキの唇は温かくて、青ざめていたのか冷えいていた俺の唇をあたためた。
※その後※
「ああ、言うの忘れてた。俺B型だから」
「え!?嘘アキファン必読の「アキ殿下瓦版」じゃアキはAB型って…!キーッ、この瓦版ガゼネタ撒きやがった!」
「あんたそれ読んでるの」
「いや拾った」
「(…)俺は間違いなくAB型なんだけど、今2年の階にある空き教室のガラスが割れてるんだよね」
「割ったんだよね!」
「うんそう。で、その際に血が散乱してるから」
「え、血って卵産んだっけ」
「どうでもいいボケかまさないでくれる。とにかくそういうわけで、サキに血液検査とかされると面倒だし」
「お嬢そんなことまでできちゃうんですか…。っていうか家族だからそんな嘘通用しないんじゃ」
「保健書見せ合ったことないから多分知らない。俺も教えてないし向こうの正確な血液型もしらない」
「ふーん、そっか」
「だからあんた今日俺の保健書拾ったことにしといて」
「了解しましたー」
「…っていうかさ」
「はい何」
「保健書に血液型なんて書いてないよ」
「マジで!!?」
「(馬鹿だ…)」
麻川氏せっかく珍しくボケかましたのに、突っ込みのほうの頭脳がついて来れず。
遅くなってスミマセンでした。