21.☆ 幟堂リナと信者の意思
「…会長、また女性のこと考えてますね」
カツ、コツン。
「サキちゃんのことだよ」
コツ、カツン。
「またある意味高嶺の花を」
カツ、カツン。
「もっと手ごわくなったよ。あの安倍くんを味方につけたからね」
コツ、カツン。
「安倍くんってエクセントリック・クラス(略称エククラ)で有名なF組の?」
カツ、コツン。
「安倍くんって言ったら小学4年生でアメリカの大学に飛び級入学して6年生の冬に卒業して帰ってきたって言う天才児ですよね」
カツ、コツン。
「そうだっけ?」
コツ、カツン。
「知っときましょうよそのくらい。あ、チェックメイト」
カツン。
幟堂リナと信者の意思
「えーちょっと待って今の無し!」
「駄目ですよ今の無しって無しにするの何回目なんですか」
覚えてナッスィン。
「ちょっとサトル冷たいこと言わないでよ」
「はいはい、13勝2敗5分けで俺の勝ち。もういい加減にしませんか」
「やだもう1回やるー」
「ってかてめぇら」
さっきからずっとドアの前に立ちっぱなしのシンイチくんの堪忍袋の緒がぶっち切れたらしい。ま、彼の堪忍袋ほどちっさい袋って見たことないけど。
「素直にチェス板でチェスやれよ!」
将棋板でやって何が悪い。もとはほとんど同じじゃん。
「まずそこにツッこむあたりがなんとも…」
フチ無しの眼鏡を押し上げながらサトルが呟く。
なんともの続きはなんだい?(にっこり)
「それより幟堂!」
シンイチくんが掴みかからんばかりに怒鳴ってきた。要件は大体見当ついてるけどわざと笑顔で「何?」と返す。
「てめぇだろ俺のことポスト幟堂とかいいあがったの」
「えぇぇ―――何のこと?」
「上目使いに語尾だらだら延ばして喋るな!」
サトルが撒きこまれないうちにとチェス駒と将棋板を片付けはじめた。
それ学園長のアンティークだから壊れたら困るしね。
「あれから俺は毎日毎日麻川サキとかいう女に追いかけられて大変でっ」
「あのコ、麻川レキの妹でもあるよ」
レキの名前を出すとおもしろいくらいシンイチくんはがっちごちに固まった。
「レキの…いやレキ先輩の…おと、妹…?」
今「レキの弟?」って言おうとしたね?
わざわざ直すところがシンイチくんらしいけどそこまでヘタレ根性染み付いてるんだね。嘆かわしい…。
「あと副会長でもある」
「は―――っ!?聞いてねえよそんなの!」
「言ってないから」
「白々しいんだよてめぇは!」
じゃあそのうちここに来るんじゃねえのかよとじたばた暴れ出したシンイチくんは、問題がすりかえられてることに全く気付いてない。
「なんと言うか…楽しい」
「Sに目覚めないで下さいね会長」
ごめんもう目覚めちゃってるかも。
「僕がSになったらサトルMになってね」
「嫌ですよ俺はアブノーマルな世界には足を突っ込みたくないですから」
「副会長の片割れなんだから会長をサポートしなさい」
「そんなところまでサポートしなきゃいけない義務も義理もないです(にっこり)」
母さん、日本の冬は寒いです。
そうこうしてるうちに生徒会室のドアが開き、サキちゃんと安倍くんが入ってきた。
基本的に副会長の仕事に愛がないから平気で遅れてきて大尊敬して止まない(本人談)サトルにほぼ仕事をやらせてる。
極めつけにもし仕事(私は存在自体が自然保護だから、らしい)の途中でシンイチくんを見つけでもしたら、
「江崎!」
「げ、麻川サキ」
「やっと見つけたわよ今日はPKで勝負するんだからね!」
ほんとに全く仕事をしない。
紋高の中田にPK戦を申し込むなんてまた滅茶苦茶な。
まぁその滅茶苦茶さが気に入ってるんだけど。
意気揚々とシンイチくんを引きずっていくサキちゃんと、諦めたように引きずられていくシンイチくんと、その後をおろおろついてく安倍くん。
いやぁ、ブレーメンの音楽隊みたいだねぇ。(謎)
「会長はなんだかんだいって江崎くんのこと大事に思ってるんですね」
「そう?」
「とぼけたって無駄ですよ。今日は6月18日で江崎くんの誕生日です。女性にプレゼントをもらって極めつけはあの取材陣、同性からの反感を買いやすいでしょう。
なるべく女性の方々に追いかけられないように長時間生徒会室にとじこめて、麻川さんに捕獲させれば女性の方々はプレゼントを渡すタイミングがないし、帰りが遅くなって取材陣や何やら物騒なこと考えてる人も減らせますし」
「…僕ねぇ、察しのいい人って大好き」
「それはどうも」
そう、おとうとであるシンイチくんのこと、僕は大事に思ってる。
だいきらいだけどね。
ハリポの1巻タイトルと並べてどうぞ。(笑)