10.★ あのひとのフルネーム。上
だって、
知らなかったんだョ。
あのひとのフルネーム。上
朝だね。
残念ながらカッコウは鳴いてないけどさ。あれって湖畔の森の影の特許特売品でショ。
こっちじゃ鳴くのはせいぜいスズメと大地。
爽やかな朝の光を浴びて地面がゆれるゆれるゆれ…ってえぇ!?地震だよどうしようスマトラ沖じゃないのにあたい夢も希望もみちみち☆の17歳で死にたくない!(埋もれてください)
なんか被るもの、被るもの…。今日鞄持ってきてねェ!(がーん)び、ビニール袋かなんか落ちてないかな。
「ビニール袋被ってなんか意味あんの。むしろ窒息するんじゃない」
呼んでないけど飛び出る麻川氏。
「オッハヨーございます。しかしもうサヨナラですねこの揺れじゃ生き延びられません」
「(チッ)」
「(今舌打した・・・)ところで麻川氏、息が乱れてますけど走って来っおぉ!?」
ぐわっしと胸を鷲掴みされてかなり手荒に引き寄せられる。貞操の危機より命の危機を感じた。いやん朝からとか言ってらんねェよ コ ロ サ レ ル ! ! !
「悪いけど黙ってて。地球が滅んでも口開かないでくれる?(にっこり)」
ら、らじゃあ。(恐ッ)
「あと、俺の腰に腕回して」
「(ハァ!?)」
「いいから(さっさとしろよ)」
「(…ハィ)」
アキ、腰細っ。とりあえずホモ疑惑よりも麻川氏の笑顔の方が怖いので腕まわしたら、アキの腕が俺の首に回された。締められる…!?
「殺して欲しいなら今すぐ締めるけど(にっこり)」
「(しゃれになってねぇ…)」
どどどどどど、という地鳴りの音がどんどん大きくなって、突然悲鳴が聞こえた。「きゃーっ」て女の子の。
「麻川くんと白石が抱き合ってる!」
抱き合ってない。
どっちかっつーと首締められてる。
と、言いたいところだけどヘタするとホントに締められかねんので口チャック。麻川氏は追い討ち。
「何だよユウヤ・・・朝っぱらから」
何もしてないよ。
むしろ首締められてるんだって俺わ。え、なんか力はいってきてない麻川氏。
突然黙った女の子達の耳はさながらダンボで目はオードブル用の巨大皿。…もしかしなくてもさっきの地響きは君達が麻川氏を追っかける音ですか?(震度は3)
「え、本当?うれしい…。大丈夫、今日の放課後は夜まで空けてあるから」
何のために。
いいよ空けなくて。むしろ用事入れといて。
キャーッってもう悲鳴。っつか騒音?15オバンくらいあるョ。(「オバン」は、40〜60才の、口やかましいおばはん一人のうるささを単位としたもので、自動車の騒音については、5オバン。飛行機の轟音は10オバン。らしい)
アキ、女の子達にトドメ。
「ごめん。邪魔しないでもらえるかな(憂いを帯びた流し目)」
俺にもトドメ。
絶望の悲鳴(もーさながらムンクの「叫び」)をあげて、女の子達は散り散りになってった。
とんでもない上に解けない(だって麻川氏こわい)誤解をしたまま。
1時間目、自習。
俺含め男3人は顔をつき合わせた。
「…ってことがあったんだけど」
セン、興味なさげに本取り出すな。
「あー、どーりで朝から女子達がキャピリしてるわけね」
「カオル…キャピリって何」
「キャピキャピ×ピリピリ=キャピリ」
「この阿呆の頭の中ではそれで連立方程式が成り立っているらしい」
センが本から顔を上げてさらりと言った。無表情で。笑えねェ。
「いつにもまして気合入ってるきがしますケド、なんでなんデスかね」
「さぁ、発情期なんじゃねーの?」
カオルにツッこむより先に、センがはぁと溜息をついた。
「ユウヤ…今日は何の日だ?」
「は?清掃用具点検の日」
更に溜息。幸せが逃げる逃げる。カオルが「何委員だよ!」ってゲラゲラわらった。
センはもっかい本に目を落としながら言う。
「ボケもたいがいにするべきなんじゃないのか、今日は麻川アキの誕生日だ」
「へーそうなんだ。ってうえぇ!?」
新事実発覚。
驚くよりも「プレゼントの金ねェな」とみみっちいこと考えた、6月23日の空の下。
麻川氏のバースディの話。
突然友達(多分)の誕生日が判明したら慌てるよねって言う。