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怒りの差別化

作者: P4rn0s
掲載日:2026/03/11

あれは小学生のころだったと思う。


友達の家に遊びに行った帰り道、そいつが急に言った。


「昨日さ、弟が金盗んだんだよ」


自転車を押しながら、コンビニの前を通っていた。

夏だった。

アスファルトの熱がまだ残っていて、タイヤが少し重かった。


「どこから?」


「親の財布」


そいつは、あまり大したことでもないみたいに言った。


「で、バレたの?」


「うん。親がブチギレ」


そう言って、少し笑った。

笑ったというか、慣れている顔だった。


その家の親は、よく怒鳴る人だった。

遊びに行くと、台所からよく声が聞こえてきた。


「早くしろって言ってるだろ!」

「何回言わせるんだ!」


そんな声が、日常みたいに流れていた。


だから、そいつが「ブチギレた」と言っても、あまり想像が広がらなかった。


「どんな感じだったの?」


そう聞くと、友達は肩をすくめた。


「いつも通り」


少し考えてから、付け足した。


「むしろいつもより静かだったかも」


母親は怒鳴っていたらしい。

父親は机を叩いたらしい。

弟は無表情だったらしい。


その話をしている友達の顔は、妙に平らだった。

怖かった感じが、あまりない。


自転車を押しながら、コンビニの前で止まった。

ガラスの向こうに、アイスのケースが光っている。


「弟どうなったの?」


「さあ」


友達はアイスを見ながら言った。


「どうもなんないんじゃない?」


その言い方が、少し引っかかった。


「怒られたんでしょ?」


「うん。でも」


そいつは笑った。


「うち、いつも怒鳴ってるし」


それで話は終わった。


アイスを一本買って、二人で食べながら帰った。

夏の夕方だった。


それから何年も経って、大人になって、

あの会話をふと思い出すことがある。


怒りって、量じゃないんだなと思う。

大きな声とか、激しさとか、そういうものじゃない。


たぶん、人は差で感じる。


静かな場所で落としたコップは、

すごく大きな音に聞こえる。


でも、工事現場で落としても、

誰も気づかない。


怒鳴り声がいつも鳴っている家では、

本当に大事な怒りの音も、

ただの背景音になるのかもしれない。


コンビニのアイスケースを見るたびに、

たまに思い出す。


あのときの友達の顔。


弟が金を盗んだ話をしているのに、

どこか遠くの出来事みたいな顔をしていた。


怒りが毎日ある家では、

怒りはもう、

天気みたいなものになるのかもしれない。


晴れとか、雨とか。


今日は少し強い雨だったね、

それくらいの出来事。

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