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第1章「再会の波紋」

第1章「再会の波紋」


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次作へのモチベーションになります。

* * * 現在 * * *

【さくら side】


 高校2年生になったさくらは、いよいよ本格的に大学受験の勉強に打ちこんでいた。

真夏の太陽が容赦なく照りつける中、友人の日奈子ひなこと並んで市立図書館へ向かう。

首すじを流れる汗をハンカチで拭いながら、二人は黙々と歩いていた。


 図書館の中に入ると、冷たい空気が頬を撫でた。

さっきまで止まらなかった汗が、ぴたりとおさまる。


 2階の自習室へ上がると、透明なドアの向こうに広い学習スペースが広がっていた。

30人ほどは座れそうな部屋が2つ。制服姿の受験生たちが黙々と机に向かい、

その間には初老の男性が静かに読書をしている姿もあった。


 さくらは、奥の方の空いた席を見つけて歩き出す。

その途中、ふと、視界の端に白と青のマーブル模様が揺れた。

――筆入れに、小さな瓶のストラップがついている。中には、小石のようなガラス玉。


 一瞬で、胸の奥にあの夏の日の記憶がよみがえった。

潮の匂い、眩しい太陽、そして隆司くんの笑顔。


 幼い頃、近所に住んでいた幼馴染。

家族ぐるみで仲が良く、夏には一緒にBBQをしたり、海で石を拾ったりした。

あの日、二人で見つけたあのマーブル模様のガラス石――。

今も、机の引き出しの奥に、大切にしまってある。


 気づけば、さくらは周囲をきょろきょろと見渡していた。

けれど、隆司の姿はどこにもない。

ほんの少し、胸の奥に寂しさが広がった気がした。

自分でも気づかぬうちに、頬が熱くなる。


 空いていた席に腰を下ろし、日奈子と向かい合って勉強を始める。

問題集をめくる音と鉛筆のかすかな擦れる音だけが響く。

時間の感覚が遠のき、気づけば夕方6時。

静かな館内に「蛍の光」が流れ始めた。


荷物をまとめて立ち上がろうとしたその時――


「あっ、さくら?」


 懐かしい声が背後から聞こえた。

驚いて振り向くと、そこに立っていたのは隆司だった。

少し背が伸びて、顔立ちも大人びているけれど、笑った目の形はあの頃のままだ。


「……あれっ、隆司くん? 勉強しに来てたの?」

思わず声が弾んだ。

緊張していた心が、ふっとほどけていくのがわかる。


さくらは、ずっと気になっていたことを指さす。

隆司の筆入れにぶら下がっていた、あのマーブル模様のガラス石。


「それ……まだ持ってたんだね。大事にしてるの?」

さくらは、淡い期待を胸にそっと秘めながら、思い切ってそう尋ねた。

言ったあとに自分でも顔が熱くなる。


隆司はびっくりしたように目を見開き、

「えっ、あ、あぁ、これね。綺麗だから……」

どもりながら答えるその様子が、なんだか昔と変わらなくて、

さくらは思わず笑みをこぼした。


「それ、わたしもまだ持ってるよ。綺麗だもんね」


その言葉に、隆司の頬がさらに赤くなる。

「そうなんだ……持っててくれてるんだ」

その声が少し震えていて、胸の奥が温かくなった。


――あの日の約束を、二人ともちゃんと覚えていたんだ。


日奈子が先に帰ると言って立ち上がったとき、

さくらは勇気を出して声をかけた。


「ねえ、隆司くん。これからも図書館で勉強するの?」

「う、うん。受験もあるし、ちょくちょく来ると思う」


「そっか……じゃあさ」

恥ずかしさで胸がドキドキするのを感じながら、

「よかったら、LINE交換しない?」


隆司は耳まで赤くなって、

「えっ、あ、いいよ」

と照れくさそうに笑った。


スマホを取り出して、お互いのQRコードを読み取る。

“蛍の光”が三巡目を迎えたころ、二人は別れた。


日奈子が玄関口で待っていた。

「ごめん。幼稚園時代からの知り合いに会って、ちょっと話が弾んじゃった」


日奈子はしたり顔で

「ふーん。さくらの初恋の人だったりして…ふふふっ」

ず、図星。幼稚園時代はそんなに意識していなかったけど、

今日、再会して、改めて自分の気持ちに気付いた。


あの夏の暑い日に浅黒く日に焼けた少年の面影を思い出していた。

キラキラ光る眼に吸い込まれそうだったことが頭をよぎる。

今も変わらず日焼けした肌だったが、身長は驚くほど高くなっていた。

昔は同じくらいだったのに…ちょっとした違いが長い年月を感じさせる。


図書館を出た帰り道、さくらの足取りは自然と軽くなる。

夜風が頬をなでる。

――また、ここで会えるかもしれない。

そんな予感に胸が高鳴っていた。


【隆司 side】

隆司はマンションの自室に戻っていた。

図書館を出てからずっと、恥ずかしさが体の奥に残っている。


幼稚園の頃から、さくらに抱いていた気持ちは変わらない。

それを自分でも分かっていた。

けれど、まさかあの“小瓶のガラス石”を、さくらに見られるなんて――

完全に不意を突かれた。

あの瞬間、彼女に気持ちを見抜かれたと確信していた。


キラキラと光る海岸で、二人で石を拾ったあの日。

あの記憶だけは、一日たりとも忘れたことがない。


「……俺、顔、真っ赤になってたよな。暑かったし」

独り言のように呟きながら、隆司はスマホを手に取る。

画面に映るのは、さくらのLINEのプロフィール。

何度も見返しては、自分で苦笑した。

「……これじゃ、ストーカーみたいだ」


スマホの画面をそっと消し、机の上に置く。

ベッドに寝転び、天井を見つめた。


さくらからLINE交換を持ちかけてくれたのは、意外だった。

小学生の低学年の頃は、よく一緒に遊んでいた。

でも高学年になると、自然と男女のグループが分かれて、

会っても挨拶するくらい。

中学では、サッカーに夢中だったこともあり

ほとんど話す機会もなかった。


それでも、彼女のことをずっと心のどこかで覚えていた。

ガラス石のことも、もう捨てていると思っていた。

まさか――今も持っていてくれるなんて。


胸の奥がじんわりと熱くなる。

「……もしかして」

淡い期待が、静かに広がっていった。



【さくら side】

 「今度、一緒に勉強しない?どうかな」

打ちかけたメッセージを、さくらは何度も消しては打ち直した。


指先が送信ボタンの上で止まったまま、心臓の鼓動が少し早くなる。

送るか、やめるか。

もう三十分も、同じことを繰り返していた。


その小さな選択が、何か大きな変化を呼びそうで――怖かった。


さくらは一緒に遊んでいた頃の記憶がよみがえっては

このLINEを送りたい気持ちが徐々に膨らんでいく。


思い切って送信ボタンを押し、急いでお風呂に向かった。

真っ赤な顔を家族に見られたくなかったし、万一見られたとしても

お風呂でのぼせたと言い訳ができる。


入浴中は気が気ではなくなってしまった。

大胆にもLINEするなんて、自分でしたこととはいえ

そこまで想定していなかった自分の甘さに「…はぁ…」と溜息出る。


いったいどんな返信が返ってくるのだろうか。

あまりにも緊張して、リラックス空間であるはずのお風呂が台無しになった。


増々、赤くなった顔でパジャマに着替えると部屋に戻り

速攻でLINEの着信を確認する。


アプリに着信アリのバッジが付いていた。

アプリを開く指がふるふるとし、思い切って起動すると

「いいよ。いつがいい?」

とちょっとぶっきらぼうなところは昔の隆司と変わらないと思うと

嬉しくなった。

さくらはスマホを胸に抱えると

「来週はどうかな?何曜日がいい?」

と打って返信を待った。


数秒とかからないうちに

「水曜がいいな。いい?」


さくらはこころで「ーやったー!」と飛び跳ねたいくらいに嬉しく

「うん。じゃあ、四時に図書館で」

と打つと、ベッドにうつ伏せでダイブする。


顔を枕に埋め、結局「ーやったー!!!」と叫ぶ。

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― 新着の感想 ―
青春の物語で爽やかな感じですね~ 桜の方は比較的に積極ようです。可愛くてストレートな子が好きです :) 次回、本格的な(?)再会に気になります:)
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