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第13章 「募る想い」

【隆司side】


 

 あの映画館デートから、一週間が過ぎた。

毎朝と放課後と夜の、「おはよう」「ただいま」「おやすみ」のLINEは欠かしていない。


 それだけじゃない。学校であったちょっと面白い話を見つけるたびに、

さくらに伝えたくなって、ついメッセージを送ってしまう。

 けれど最近は、模試やサッカー部の手伝いで放課後もバタバタして、

図書館での勉強会どころか、さくらと顔を合わせることすらできていなかった。


 気がつけば、家から目と鼻の先にあるさくらの家に突撃しそうになるほど、

会いたい気持ちが膨らんでいた。

胸がきゅうっと締めつけられる感覚に襲われるたび、

ベッドの枕元でまた頭を壁に打ちつけては「バカか俺…」と嘆く日々。


 休日はといえば、ゲームで気を紛らわせたり、サッカーリーグの中継を観たり、

人気YouTuberの配信に笑ったりして過ごす。

最近はVTuberもお気に入りで、2.5次元の世界に癒やされていた。


 それでも平日は切り替えて、また勉強に集中する。

塾が休みの日は司と学校の自習室で勉強するようになった。


 だけど、さくらと会えない日々は想像以上に堪える。

スマホを見るたび、通知が来てないか確認して、来てないと「はぁ……」とため息。

自分から送ればいいだけの話かもしれない。

でも、さくらも受験勉強で忙しいはずだと思うと、頻繁にLINEを送るのがためらわれた。


 隆司は私立志望。受験科目は英語・国語・数学の三教科。

中でも数学は苦手で、理系志望のさくらにいつも助けてもらっていた。


 ある日、勉強の合間に司に「最近デートしてんの?」と聞かれたときは、

思わず肩を落としてしまった。


「いろいろあって、会えてないんだよな……はぁ」

 思いのほかしょんぼりした声に、司は苦笑しながらも、


「だいぶ弱ってんな。でも、向こうも受験生だし、しゃーないな」

それ以上は何も言わなかった。気を遣ってくれてるのがわかる。ありがたい。


 さくらは国立志望。五教科を万遍なく勉強しなきゃいけない。

そんな彼女に「今日、会いたい」なんて、軽く言えるはずもなかった。

自分でも臆病だと思う。でも、彼女のペースは何より大事にしたかった。


 そんな日々に、ようやく変化が訪れた。


 ある日の夜、さくらからLINEが届いたのだ。

「明日、図書館で勉強しない?」


 その一文を見た瞬間、思わずガッツポーズが出た。

ついでに軽くジャンプもしてしまった。

「もちろん、大丈夫。行く行く!」

まるでこの連絡を待っていたかのような即レス。

自分でもちょっと恥ずかしくなる。

(俺、こんなに喜んだの、初めてかも…)


 すぐに返信が返ってきた。

「よかった~。久しぶりだよね。いつも通り四時に図書館でいい?」


「もち。オーケー!」

 勢い余ってスタンプまで送ってしまう。

完全に浮かれてる。でも、しかたない。二週間ぶりの図書館デート。

 映画館でのあの一日が濃密だっただけに、そこからの二週間は

まるで時間が止まったかのように長かった。


 翌日の午後四時。図書館に着くと、さくらはまだ来ていなかった。

いつもの窓際の席が、奇跡的に空いている。


(よっしゃー、今日はついてる!)

 心の中で、何度目かのガッツポーズを決める。


 ペンケースにぶら下げたガラス石を目の端で捉えながら、苦手な数学に手を伸ばす。

今日はさくらに教えてもらうつもりで来た。

もちろん、勉強のため……だけじゃない。むしろ、彼女との会話のきっかけを作りたかった。


 10分ほどして、さくらが入口で小さく手を振ってきた。

向かいに座った彼女も、偶然にも数学のテキストを開いていた。

さらに、ポーチにはおそろいのガラス石が光っている。

まるでさりげなく、ペアであることをアピールしてくれているように見えて、思わず頬が緩む。


「さくら、久しぶり。さっそくなんだけど、数学おしえてくんない?」

(……会いたかった、なんてここでは言えない。本当は何回だって伝えたいけど)


「いいよ。私もちょうど数学をやるつもりだったし。

いつでも聞いてくれていいからね」

さくらは優しく微笑みながら、そっと囁くように言った。


 窓際に差し込む西日が、二人を静かに照らしていた。

あたたかな空気と、小さな声で交わす会話。

そのすべてが、嬉しかった。



【さくらside】


【さくらは、会えない日々が思った以上に寂しかった。

ガラス石のポーチ、ジンベイザメとイルカのぬいぐるみ——。

どれも隆司からの大切なプレゼントで、見るたびに心は温かくなる。

それでも、そのぬくもりだけでは埋められない、ぽっかりとした隙間が心に残っていた。


 毎日の「おはよう」「ただいま」「おやすみ」は欠かさずやりとりしているけれど、

本当は、もっと隆司のことを感じていたい。

どんな顔で笑っているのか、どんな声で話しているのか、考えるほどに恋しさが募っていった。


 自分自身も模試や学校の用事で忙しく、ゆっくり会う時間がなかなか取れなかった。

でも、それでもやっぱり——会いたかった。


 最近は、小説を読むのが唯一の息抜きだった。

特に文芸作品にはまり、ページをめくるたびに現れる繊細な言葉の世界に心をゆだねる。

気分転換に観るのは、海洋生物の映画やドキュメンタリー。

(私って、どこまで行っても海の生き物が好きなんだな…)

ふと、そんなことを思いながら、再び本の世界へと戻っていく。


 そして——。

ついに、隆司と二週間ぶりに図書館デートができることになった。

LINEのやり取りだけで、心がふわっと軽くなった気がした。


 図書館に着くと、窓際の席に隆司が座っているのが見えた。

彼と目が合い、小さく手を振る。

その仕草だけで、胸がほんのりと熱くなる。

静かに机の合間をぬって歩き、向かいの席へと腰を下ろす。


 隆司の手元には数学の問題集。自分も今日は数学をやろうと思っていた。

こんな偶然が、なぜかすごく嬉しかった。


「久しぶり。元気だった?」

隆司が小さな声で話しかけてくる。

(本当は、「ずっと会いたかった」って言いたいのに…)

「うん、元気。…学校の用事が多くて、なかなか会えなくて……ごめんね」

申し訳なさそうに視線を落とすと、隆司がどこか安心したように笑っていた。


 その笑顔を見た瞬間、胸にあったもやもやが少し溶けていく。


「さっそくなんだけど、ここ教えてくれる?」

隆司は、あらかじめ聞きたいところを決めていたみたいだ。

「いいよ。ここはね……」

と、ペンを持つ手に自然と力が入る。


「やっぱ、さくら教えるのうまいな。うちの先生より全然わかりやすい」

照れもなく、ストレートにそう言ってくる隆司。

そんな風に褒められるのは、純粋に嬉しい。


 そして、ふと目をやると、二人のポーチのガラス石が並んでいた。

まるで恋人である証のように。

それが、少し誇らしくもあった。


 集中して勉強していた頃、さくらはふと思いつく。

「ねぇ、隆司くん。机の下に、手を伸ばしてみて」


「ん? ……こう?」

隆司は少し戸惑いながらも、さくらの言葉に従って手を伸ばす。


 さくらもそっと手を差し出し、彼の指先に触れた。

驚いたような顔をする隆司。でもすぐに察して、優しく指をからめてくれた。

恋人つなぎ。たった数分間のことだったけど、心がぽかぽかとあたたかくなる。


「……隆司くんの手、あったかい」

「……あったかい、か。いつでも、あっためてやるよ」

顔を真っ赤にしながらも、ちゃんと応えてくれるその言葉が、

さくらの胸を優しく満たしてくれた。


 名残惜しく手を離す。

でも、あの短い時間だけで、胸の寂しさが少し埋まったように思えた。


 そのあとは、不思議なくらい集中して勉強に取り組めた。

西日が射し込み、頬にあたたかさを感じる。

それだけで、また少し元気が戻ってくる。


 ときどき、隆司から質問されるたびに、丁寧に教える。

そんなやり取りを何度か繰り返しているうちに、

いつもの六時を告げる“蛍の光”が館内に流れ始めた。


「う~ん、今日も捗った。やっぱり、図書館って落ち着くね」

そう言って、さくらは満足そうに問題集を鞄へとしまい、

最後に、そっとポーチを閉じた。


「俺も。教えてくれてありがとな。すげー助かった」

隆司もまた、充実した顔でそう返してくれた。


 図書館を出るころには、秋の終わりを告げるように、空がすっかり暗くなっていた。

遠くを見ようとすると、少し目を凝らさないと見えないほど。


 そんな夕暮れのなか、ふたりは自然と手をつないだ。

まるで、時間をゆっくりと引き延ばすように、歩く速度は自然とゆっくりになる。


 周りはもう薄暗いのに、不思議とふたりの周りだけ、

仄かにやさしい光がともっているように感じた。


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