第11章 「ゼームセンター デビュー」
【隆司 side】
美味しいイタリアンを食べて満足した二人は、15分ほど歩いて繁華街のゲームセンターへ向かった。
道路側を歩いていた隆司は、自然とさくらの手を探してそっと繋ぐ。
道中は、さっきのイタリアンの感想や、観た映画の話で盛り上がった。
映画は心の機微を描いた大人向けの内容で、高校生の二人には少し早かったのか、
感想も「いい話だったね」くらいで落ち着いた。
そんな会話を続けているうちに、にぎやかな電子音が聞こえてきて、ゲームセンターに到着した。
まずは、ちょうど空いていた“太鼓の達人”へ。
隆司が先にお手本を見せる。パーフェクトではなかったが、十分に高得点だ。
演奏を終えた隆司はうっすら汗をかいており、ハンカチでそれを拭っていると、さくらが目をキラキラさせて言った。
「すごいっ、すごいっ!」
(俺、やればできるじゃん)
誇らしげに笑顔を向ける。
「さくらもやってみようよ。俺、アドバイスするから」
「できるかなぁ…ちょっと難しそう…」
本当はあれほど楽しみにしていたのに、いざ目の前にすると躊躇してしまうさくら。
(やべっ、張り切りすぎた?)
「大丈夫。レベルも“やさしい”とかあるから、そこからやってみない?」
隆司は少し焦りながらも、なんとか楽しんでもらおうと必死だ。
「そうだね。じゃあ、初心者向けでやってみる。アドバイスよろしくね!」
(よし、がんばらないとな)
ドンドン、カッカッ――。
「そうそう、さくら、うまいよ!焦らずその調子で!」
バチを握って満面の笑みで叩くさくらの横顔を見て、隆司はほっと胸をなでおろす。
――デートって、思ってたより難しいんだな。
二人のペースを合わせることが大事なんだ。
そう実感しながら、隆司はそっと小さく拳を握り、これからもっと楽しい時間を共有するぞ、と心の中で気合を入れた。
【さくら side】
太鼓の達人は、最初に隆司くんのプレイを見たとき、その速さに思わず尻込みしてしまった。
でも、レベルを落としてみたら意外とうまくできて、何より体を動かすのが楽しかった。
帰宅部の私には、こんな運動らしい運動は久しぶりで新鮮だった。
「隆司くん、もう一回やってみるね。またアドバイスお願い!」
今度は別の曲を選んで、バチを握る。
「次、カッカッがくるぞ!」
隆司くんの声のとおり、太鼓のふちを叩くタイミングが来る。
叩き分けるのが難しいけれど、その“カッ”という音が気持ちよくて、なんだかクセになる。
太鼓の達人が人気な理由、ちょっと分かった気がした。
二人三脚で演奏しているみたいで──それが何より嬉しかった。
ひとしきり遊んで体も温まり、息が弾む。
「隆司くん、他にどんなゲームがあるか見て回ろ?UFOキャッチャーも見たい!」
「おっけー!」
隆司くんは二つ返事で頷いてくれる。
初めてのゲームセンターは、見たことのない光景ばかりでワクワクした。
隆司くんが「これはこういうゲームでさ」と教えてくれる声が、なんだか誇らしかった。
(また今度、隆司くんと太鼓の達人やりたいな)
そんなことを思いながらUFOキャッチャーのコーナーを歩いていると、ふと、イルカのぬいぐるみが目に入った。
(わ……かわいい。欲しい……)
食い入るように見つめていたら、隆司くんが財布から500円玉を取り出してそのまま投入した。
(えっ、隆司くん…できるの?)
驚きつつも、ハラハラしながら見守る。
アームがイルカに近づき、つかんだ──と思ったら滑り落ちてしまった。
でも、向きが変わって、なんだかチャンスが増えた気がする。
「隆司くん、がんばって!」
気づけば声が出ていた。
「おうよ!俺の実力見せてやる!」
なんて強気に言ってるのに、二回目は失敗。
そして三回目。
二回目でさらに角度が変わったイルカの体を、アームが絶妙に捉えた。
持ち上がり、そのままシューターへ──。
派手なネオンと共に、取り出し口へぽとん、と落ちた。
「隆司くん、すごい!UFOキャッチャーって難しいと思ってたのに、
こんなにすぐ取れちゃうなんて!めっちゃ上手いんだね!
それに、このイルカ……すっごく嬉しい。ありがとう!
前に取ってくれたジンベイザメと並べて飾ろっと!」
気づけば、イルカのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめていた。
「俺もワンコインで取れるとは思わなかったけど……かなりラッキーだったな」
照れたように笑う隆司くん。その顔を見て、(この人が私の彼氏なんだ)と思うと胸がじんわり温かくなった。
楽しい時間はあっという間に過ぎて、気づけば午後三時半。
二人はちょっと疲れて、近くのカフェに入った。
外に出ると、秋の乾いた空気が、ゲームで火照った体にひんやりと心地よく当たる。
その優しい温度が、二人の距離をまた少しだけ近づけてくれた気がした。




