表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お気に入り小説4

愚かな王太子の、婚約者候補を外すと宣言して泣いて縋られると思っていたら、自分が泣いて縋っていた件

作者: ユミヨシ

「私はお前のような女を婚約者に選ぶ事は絶対にない」


ジュテル王太子は宣言してやった。

自分の婚約者候補、フォラーリア・キデル公爵令嬢である。


フォラーリアは、ジュテル王太子の婚約者候補の一人だ。

絹のような金髪に青い瞳のフォラーリア。とても高貴で美しい令嬢だ。

歳はジュテル王太子と同い年の17歳。


キデル公爵家は名門で、王家に嫁ぐにあたって家柄的に問題は無く、フォラーリアは12歳の時に婚約者として王家から名指しされた。


しかし、ジュテル王太子は12歳で、婚約者が今から決定された事に我慢ならなかった。


ジュテル王太子は、


「フォラーリアだけではなく、王国には美しい女性が沢山います。ですから、彼女は婚約者候補という事にして、決定はもっと先でもいいでしょう」


と言って、新たに目ぼしい高位貴族の女性達を6人も婚約者候補にしたのだ。

歳は同い年か、2歳年下まで。顔は美少女ばかりである。


そして現在17歳。

いい加減に婚約者を決定して欲しい。

父である国王や母である王妃にそう言われた。


令嬢達だって婚約者候補の間は、他の令息と婚約を結べないのだ。


母にジュテル王太子は、


「令嬢達だって、15歳から17歳。そろそろ婚約者を決めないと。お前がそのような曖昧な態度ではいけません。いい加減に婚約者を決定しなさい」


と、きつく言われた。


ジュテル王太子は自分の顔は美しいと思う。

背は低いが整った顔立ち。整った顔立ちだと思うが、でも、誰も美しいと褒めてくれない。どうしてだ?

勉強も苦手で、成績も下から数えた方が早い。


婚約者候補の令嬢達と王立学園で、


「食事でもどうだ?一緒に?」


と誘っても、皆、


「わたくしはお友達と先約がありますので」

「わたくしもですわ」

「フォラーリア様とお食事なさったら如何です?」


皆、逃げてしまうのだ。

そもそも、王太子からの誘いだぞ。どうして、皆、あっけなく断るのだ?

きっとフォラーリアが、他の令嬢を脅しているに決まっている。


フォラーリアだけが、誘っても嬉しそうに応じてくれるのだ。


「王太子殿下とお食事出来るなんて、わたくしは幸せですわ」


ちっとも幸せではない。

何故、他の令嬢は自分を避けるのだ?この女が悪女で他の令嬢達を脅しているのでは?


だから言ってやった。


「私はお前のような女を婚約者に選ぶ事は絶対にない」


フォラーリアはにこやかに、


「それはわたくしを婚約者候補から外すということですか?」



フォラーリアを困らせたくて。

フォラーリアを婚約者候補から外すと言ったら、彼女は泣いて縋るだろう。

いつもニコニコして、自分の誘いを喜んでくれるフォラーリア。

自分の話を色々と聞いてくれて、楽しい話題を提供してくれるフォラーリア。

フォラーリアだけが、一緒にカフェにお忍びで行ったり、共に乗馬をしたり、色々と一緒に楽しんでくれた。

婚約者候補の他の6人よりも抜きんでて美しいフォラーリア。

フォラーリアが泣いて縋ったら、結婚してやってもいい。

他の6人は婚約者候補から外すが、もし、泣いて縋るなら、側妃にしてやってもいい。

そう思っていた。


だから、言ってやった。


「お前を婚約者候補から外す。でも、泣いて縋るなら考えなおしてもいい」


「まぁ本当ですの?わたくしを外して頂けますの?」


「え?そんな嬉しそうな顔をして、外すと言っているんだぞ」


「わたくし、ウンザリしていたんですわ。名門のキデル公爵家に生まれただけで、先行き、頭の大した事のない、王太子殿下の御守をしながら生きなければならない人生。他の令嬢達は皆、王太子妃になりたくないと、わたくしに貴方を押し付けてきますし。ですから、婚約者候補から外れる事はなんて嬉しい。これから、素敵な人を探しますわ。ああ、幸せ。人生で一番幸せな日。有難うございます。王太子殿下。では、ごきげんよう」



「えええええっ?泣いて縋るのではないのか??」


「あら、何で泣いて縋るのです?」


「私に惚れているだろう?」


「いえ、チビで冴えない男で、そして勉強も出来ない。どうしようもない貴方様に惚れる要素がありますでしょうか?ですから、もう嬉しくて嬉しくて」


ジュテル王太子は焦った。

このままでは、フォラーリアと結婚出来ない。


だから思いっきり、足に縋った。泣きながら。


「頼む。今の言葉は取り消す。どうか、私と結婚して欲しい。他の令嬢なんてどうでもいい。私にはフォラーリアが必要なんだっ」


「あら?わたくしを候補から降ろして下さるのでしょう?わたくし、人生で一番喜んでいますのに?その言葉を取り消すのですか?」


「ああ、取り消す。お願いだ。私と結婚しておくれ」


フォラーリアが好きな事に気が付いた。

いつもにこにこしながら話を聞いてくれるフォラーリア。

一緒に、お忍びで街のカフェに出かけたり、馬に乗ったり、それなりに楽しい時間を過ごしてきた。


なのにあっけなく、フォラーリアっ。涙が零れる。


フォラーリアはにこやかに、


「仕方がないですわね。では王太子殿下。わたくしを婚約者に決定したと近々、発表して下さいませ。よろしいですわね?」


「ああ、発表する。すぐにでも発表する。だから、どうか、お願いだ。結婚して欲しい」


「結婚は致しますわ。でも、18歳になってからですわね。準備がありますから」


「ああ、準備があるな。もう、最高の結婚式にするよう、私は頑張るから」


「そうですわね。仕方がないから結婚して差し上げましょう」


ジュテル王太子はフォラーリアを抱き締めた。

人生で最高の日だ。そう思えた。




そして数日後、夜会で、フォラーリアをエスコートしてジュテル王太子は出席した。

フォラーリアは白の美しいドレスを着て、ジュテル王太子も揃いの真っ白な衣装で。


そして、出席者の皆に宣言した。


「私はフォラーリア・キデル公爵令嬢を正式に婚約者に決定した」


フォラーリアもカーテシーをし、


「わたくしが正式に婚約者に決定致しました。フォラーリア・キデルでございます。皆様。これからもよろしくお願い致しますわ」


皆、盛大に拍手をした。


愛しいフォラーリアと会場の中央でダンスを踊る。


フォラーリアは優雅に自分に合わせてダンスを踊ってくれて。

なんて綺麗な。なんて愛しい。


彼女を失わなくてよかった。


ジュテル王太子は幸せを感じるのであった。












「まったく、ジュテルにも困ったものだわ。やっと決意してくれたわね」


フォラーリアは王妃マリーとテラスでお茶をしていた。


フォラーリアは微笑んで、


「ええ、本当に手のかかる殿下ですこと。わたくしに決定して下さって良かったですわ」


「キデル公爵家と我が王家は結びたかったから、最初から貴方だけを婚約者に決定したかったのに。他の家と比べて、一番の名門ですからね」


「他の家の令嬢達から感謝されましたわ。やっと婚約者を決める事が出来ると」


「そう。それは良かったわ。ところで、フォラーリア。貴方、ジュテルを愛しているの?あの子はあの子なりに、貴方の事が好きみたいだけれども」


フォラーリアは、綺麗に菓子をフォークとナイフで切り分けながら、


「そうですわね。でも、わたくしが嫁がないと、わたくしが将来、王妃にならないと困りますでしょう。ですから、仕方なく。あの方を手の平で転がして見せますわ」


「貴方がわたくしの義娘になるのは心強いわ。これからもよろしくお願いね」




仕方なくと言ったけれども、わたくしもあのどうしようもない方が好きよ。

だって、愚かな人だったら、わたくしが好き放題出来るじゃない。

そうね。この王国を良くするために、あの人を上手く褒めて転がし続けるわ。


でも、嫌いじゃないわね。ああいう人、わたくしは好きよ。とても‥‥‥ね?

ジュテル様。


だからずっと愚かでいて頂戴。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白かったです! ジュテル王太子~優柔不断だな~笑 フォラーリアさんの作戦勝ちですかね。 なんだかんだうまくいくんんじゃないでしょうか、このお二人!
辺境騎士団案件かと思いきや、チビで冴えない脳足りん王子ですか…… 撤収! 接待されて喜んでる男の方は「一緒にいて楽しい」に決まってるわ! 接待する側は「思い通り転がせて楽しい」だけどな! 水商売で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ