002 スマホって何だろう
◇スマホの光は世界を照らすか?!
「逃げろ!魔物が来るぞー!!」
火の手が回る町、逃げ回る市民たち。
「ああ、もうおしまいよ…助けて、神様、スマホ様!!」
暗雲立ち込める世界に一筋の光が灯る!その光の正体は俺だ。俺は市民を安心させる為に声を上げる。
「もう大丈夫!何故かって?そう!スマホが来たからだ!!」
「きゃー!スマホ様よ!」
「まさか本当に!?」
「おお!おおお!!まさか生きている内にスマホ様を拝む事が出来るとは!」
市民の感謝と安堵の声が気持ち良い。俺はスマホを魔物に向ける。
「ふん!スマホの力を思い知れ!!」
スマホから眩い光が溢れ出し、魔物を一匹残らず消し去る。その光は町を包み込み、破壊された物全てを包み込む。
「おお!町が治っていくぞ!」
「町だけじゃねぇ!傷も治ってやがる」
「これが…スマホの力…!」
「スマホって革命なんだ!!」
「再生ってレベルじゃねぇぞこれ!」
光は段々と勢いを増し、国を、世界を包む。
「なんて温かい光…これがブルーライトの光…」
「自然界には存在しない科学の光だ!」
「唆るぜ、スマホは!」
スマホの光に包まれた人々は争いを止め、口々に感謝の言葉を述べる。
「ああ、スマホ様!ありがとう」
「サンキュースマホ!」
「ありがとう…それしか言葉に出来ない」
こうして世界に平和が訪れたところで、俺は夢から覚めた。
「何だ夢か」
俺は目を覚ます為に湖で顔を洗う事にする。何故未だこの場所から動いていないのか。
それは昨日、ゴブリンを追い払った後の事だ。俺はこれからの事を色々と考えた。考えた結果、この場で一夜を明かすのが最善だと考えたのだ。
何故なら空を見れば日も傾きかけており、いつ暗くなるか分かったものではない。
夜の森は危険だ!と本で読んだ事がある様な気がする。だから賢い俺は考えました。
ここで寝て起きて朝から行動始めるのがチョベリグ最善じゃね?と。
そんな訳で俺は湖の近くで一夜を明かしたのだ。森の夜は寒かったが、スマホがスマホらしく何故か生温かったので、スマホで暖を取る事で何とかなったのだ。
「腹減った…」
当然サバイバル素人である俺が食料を確保できる訳もなく、昨日から何も食べていない状態だった。
顔を洗い、少しはスッキリとした頭でこれからの事を考えようとした時だった。
「美味そうな匂い…」
何処からともなく肉の焼ける良い匂いが漂って来たのだ。ふらふらと無意識にそちらに向かうと、そこには串に刺され焚き火で焼かれるお肉があった。
何故か周りに誰も居ない。もしや今なら一つくらい貰ってもバレないのでは?
「ごくりんちょ」
一日ぶりの食料に喉も鳴る。と、そこで後ろから何かの気配を感じた。
「オオ、ワガオットヨ、チョウショクノ、ジュンビガデキテオルゾァァアアア〜!!」
そこに居たのは昨日のゴブリンだった。しまった!これは罠だ!ゴブリンが人間を誘い込む為の罠にのこのこと引っかかってしまったのだ!
「くっ!」
幸い昨日から取っ手が出たままのスマホを盾の様に構えて、衝撃に備える。だが、いつまで待っても衝撃はやって来なかった。
「ホラ、オナカスイテルデショ?イッショニ、タベマショォァァアアア〜!」
それどころか俺に肉を差し出してくる。た、食べて良いのか?本当に?
逡巡する俺に更にゴブリンは追い討ちをかける。
「ターントクエ」
俺は気が付けば肉を受け取り、一心不乱に貪っていた。
「うめうめ!」
「お代わりもあるぞ」
「うめうめ!!」
今やけにゴブリンが流暢だった気がするが、そんな事はどうでも良いのだ。
俺は一日ぶりの食事を思う存分味わったのだった。
「ところでやっぱり喋ってるよね?」
「シャベッテル、ワケナイダロカスァァアアア〜!」
どう考えても喋っているが、本人がそう言うのならそうなんだろう。
俺とゴブリンはお食事会を通して完全に和解していた。昨日襲われたのが嘘みたいである。
「それにしてもこれからどうするかな〜」
「町に行きたいの?」
「それが一番良いけどね〜。今凄く流暢じゃ無かった?」
「ソンナワケナイダロ。マチノバショ、ワタシワカル」
「えっ!?マジで?」
「マジデ、ゴブリンウソツカナイ」
このゴブリン、町の場所を知っているだと!?よく見ればこのゴブリン、容姿が物凄くゴブリンってだけで身なりはそれなりにちゃんとしていた。
意外と社会派のゴブリンなのかも知れない。
「なら案内してくれよ!」
「ワガオットノ、タノミトアラバ」
「さっきも気になってたんだけどさ、何で俺が夫なの?」
「ゴブリンノナイフ、イノチクライタイセツ。ナイフコワサレタ、カラ、アナタニセキニントッテモラウ!」
そう言う事らしかった。いやらしかったでは無いが。
ゴブリンは顔を染め、手を後ろで組んでそっぽを向いている。行動だけは美少女のそれだった。
「ツイテコイ、アンナイスル」
「ところで喋ってるよね?」
「ゴブリン、ナンノコトカ、ワカラナーイ」
何処までも惚けるゴブリンの後に着いて、俺たちは町を目指す事になった。
「スマホ!アタックフォーム!剣になれ!銃になれ!変身!オッケースマホ、町までのルートは?」
町へと向かう最中、俺はスマホに他の機能が無いか様々な角度から検証してみた、が!駄目!スマホ、全くの無反応!宝太郎絶望!
「何で!何でだ!おかしい!こんなのおかしいだろ!!」
何を言ってもうんともすんとも言わなかった。取っ手を戻す事も出来ないのである。運ぶのに便利だから暫くはこのままで良いのだが。
と、俺がスマホと格闘しているとゴブリンが話しかけてきた。
「ホウ、アーティファクトデスカ」
「知っているのかゴブリン!」
「エエ、アーティファクトは強力な物もオオク、探索中に愛用スル冒険者モ、オオイとキキマス」
「ゴブリンは詳しいなぁ」
流石は社会派ゴブリン。人間の道具事情にも詳しい様だ。
「これ、全く動かないんだけど何か分かる?」
俺は駄目元でゴブリンにスマホを渡してみる。
「うーん、多分だけどマナがチャージされて無いんじゃないかな。エネルギー不足だと思うよ。今は残量2%位じゃないかな」
思ったよりも具体的な答えが返って来て驚いた。
「アーティファクトってマナをチャージして使う物なのか?」
「物にもよるけどね、使い捨ての物もあれば充電すれば何度でも使える物もあるよ〜。これは多分後者の方だと思うよ」
「なるほどなぁスマホだしな」
「それ、スマホでは無いと思うな」
アーティファクトにも色々あるみたいだ。もしかするとこの世界には俺が急激に強くなる様な、そんなアーティファクトも存在するのだろうか。
「あっ!町が…マチガ、ミエテキタゾ!」
「さっきまで普通に喋ってなかったっけ?」
「ゴブリンヒトノコトバ、シャベレナーイ!あっ!ァァアアア〜!」
もはや最後の叫びも取って付けた感じになっている。いや、元々そうか。
まあこのゴブリンが喋れようが喋れまいが、彼女がそれを隠したいのなら俺はもう何も聞くまい。きっと過去に人間に対して何かがあったのだろう。
「それにしても久しぶりに人と会えるな」
何だろう、前世でも大して人と関わっていた訳じゃ無いのに、いざこうして会うとなると涙が止まらないや。泣いてないけど。
町は木の柵で覆われていたが、門番などがいる訳でもなく、あっさりと入る事が出来た。
入る事が出来たのは良いが、これからどうするか全く決めていなかった。
「さて、これからどうしたものか…」
何をするか、何処に行くかも何も分からずに立ち尽くすしかなかった。
「…トリアエズ、ボウケンシャニ、ナルノハドウダ?マモノヲカッテ、オカネヲカセゲルゾ」
「そ、それだー!」
顔が半分くらい溶けていた俺を見かねてか、ゴブリンが助言をしてくれた。
だが、冷静になって考える。果たしてゴブリンの攻撃を防ぐので精一杯だった俺に、魔物なんて狩れるのだろうか?
「俺に魔物が倒せるかのか?」
「大丈夫大丈夫!私も手伝うから!」
「ま、まあそれならやってみようかな…」
俺がゴブリンに背中を押されて、冒険者の登録をする事に決めたのだった。