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聖域

「おなか、すいた……」


 ”グ~”っとなるお腹を押さえて聖域まで歩く。

 目的地付近の森でハンスさんと別れた後、お目当ての場所まで地図を見ながら2日掛けて歩き大変だ。

 でもあとちょっとでお目当ての場所に着くという達成感で空腹を(まぎ)らわす。


「つ、着いたっ!伝説の聖域!」


 ゲルマニアの深い森を抜け遺跡にたどり着く。

 目の前には校庭の10倍くらいある広さの遺跡の景色が広がっている。

 地面の奥の底まで掘った大きな穴にたくさんのものがある。

 奥には大きな建物もある。


「これ、勝手に聖域に入ってもいいのかな?わたし人間だし……」


 あたりをきょろきょろ見回すと、わたしと同じようにこの景色を傍観(ぼうかん)している男の人がいた。

 よく見てみると耳が長いエルフの美丈夫(びじょうふ)だった。

 年齢は20代前半くらい、紺色の髪、エメラルドのような緑の瞳、顔立ちはよくすらっとしていて足も長い。

 身長は185cmくらいあり、礼装用の軍服を身にまとい腰には剣を(たずさ)えている。


「あの~すみません」


「なんだ。ん、貴様人間か」


 声を掛けたわたしが人間と知るや否や装備した剣の(つか)を握る。

 この国では相当人間が嫌われているのだろう。


「ちゅ、中立王国シュヴィーツ出身の旅人です!観光目的できました」


 致し方ないので出自(しゅつじ)に関して嘘をつく。

 このゲームヒロインはガリア出身という設定だ。

 ばれたら殺されるかもしれない。

 

「観光だと。貴様、ここ”聖域”はゲルマニアの最奥部(さいおうぶ)だぞ。あのガリア人ですら見たことのないのにもかかわらず、どのようにしてここまでたどり着いた?」


「まぁ大変だったんですけど……なんとか。お金も時間もたっぷりありましたし……」


「……」


 納得してなさそうだが、剣の柄を握っていた手ははなした。

 だが警戒はしてそうだ。


「ここが伝説の遺跡、”聖域”っていうんですか?」


「……そうだ」


「武器が隠されているんですよね。もうちょっと近づいて見てもいいですか?」


「あぁ、だが触れるなよ」


「わかりました」


 エルフのお兄さんは寡黙(かもく)でクールな人だ。


 許可が下りたので近づいてじっくり見てみる。

 すると目を見張るものがたくさんあった。


「こ、これは……三八式歩兵銃さんはちしきほへいじゅう九七式中戦車きゅうななしきちゅうせんしゃチハ!九〇式野砲(きゅうまるしきやほう)!あー!一式戦闘機(いっしきせんとうき)(はやぶさ)”だ!すごいすごすぎる‼」


 昔の日本陸軍の兵器が、綺麗なままでズラーっと並んでいる。

 また兵器だけじゃなく車(九五式小型乗用車)や軍服(九八式軍衣)、電話機(九二式電話機)、などの日本陸軍が使用した道具まである。

 他にも鉄道、ラジオ、缶詰などの食料品のような戦前の文明道具もあった。

 

 これぞ科学の結晶、魔法にはない輝き、壮観(そうかん)だ。

 オタク心全開で、子供のように聖域を駆け巡る。


「うわっ、石油を精製(せいせい)する工場まである⁉」


 でもこれ伝承(でんしょう)どおりに武器を使える人なんてこの異世界にいるの?

 銃ならまだしも大砲や航空機、ましてや工場なんて使いこなすのに相当の知識と技術がいる。


 ガリア帝国との戦争でゲルマニアはおされている。

 伝承通りこの兵器たちをうまく活用出来たら勝機はあるかもしれないが、知識のある者がいなければ宝の持ち腐れだ。


「んー。やっと実物に近づいたのに触れないなんて……触りたい」


 手で触れてみたすぎて両手が自然とワシワシと動く。


「近づきすぎるな、人間」


「うおっ」


 いきなり声を掛けられてびっくりしたので振り返るとさっきのエルフお兄さんだ。


「あの、どうして触っちゃダメなんですか?」


「この出土(しゅつど)したものを今まで正しいやり方で使ったものはいない。道具と一緒にいくつもの紙が出てきた。その紙に書かれた文字はどこの国のものかわからない。国中の学者を集めても駄目だった。だが念のためだ」


「念のため……でもわたし使い方知ってますよ」


「なぜホラを吹く?」


「う、嘘じゃないですよ。それに人間って名前じゃないです。わたしは……」


 この世界に来てからちゃんと自分の名前を名乗ってこなかった。

 日本の名前を言うか。


「わたしは”サクラ・クリバヤシ”です」


「クリバヤシ?サクラ?変わった名だ」


「あなたのお名前は?」


「……ラインハルト・フォン・リヒトホーフェンだ」


「フォン……素敵な名前ですね」


 ゲルマニアは建物や食べ物も全体的に元いた世界のドイツっぽい。

 ”フォン”という名字はドイツで貴族出身を表している。

 ラインハルトさんは国の重役かなんかで、遺跡を視察でもしているのだろうか?


 

 ◇


 

 いろんなものを見て回りすっかり夕方になった。

 ラインハルトさんは付き添いらしきエルフの人と話している。


 わたしは一通り聖域を見たのでそろそろお夕飯にしようと、ラインハルトさんが渡してくれた布巾着から塩漬け肉を取り出して食べる。

 香辛料が少なめで獣臭くあんまり美味しくないが、この味にもう慣れた。

 ガジガジと硬い肉を咀嚼していたその時、


「――ッ。伏せろ!」


 と大きなラインハルトさんの声が聞こえる。

 何事かと思って伏せた瞬間、フュンッと空気を切るような音があたりに響く。


「え?――うわッ!」


 ボオゥッと大きな竜巻が突然吹く。

 ラインハルトさんは剣を抜いて森の方へ向けて構える。

 一緒に話していたエルフの方は体が上半身と下半身に分かれて倒れている。

 死体の周りは血まみれだ。


「――ンぐ」


 いきなりの死体の血の臭いが鼻をつたり、食べていた肉を戻しそうになったが何とか耐える。


「クソ亜人のくせして旋風魔法を交わすって、イケメンのお前クソ強ぇーなぁ。それに比べ隣のクソは俺の風で真っ二つ、軟弱だなぁ」


 喉風邪みたいにカサカサな声の男の声が森から聞こえる。

 

「次は当てるぞクソ」

 

 がさがさと森から木の杖を持った男が現れる。

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