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前向きになった

「ついたぞ。おい、降りろ」


「――んっ、んー」


 運転手の声で目が覚め目的地に着いたんだと理解する。

 手錠をはずしてもらい、眠たい目を(こす)って馬車から降りる。

 ガリア帝国では色々とあって落ち込んでいたが、寝て起きるとかなりマシになったことに気が付く。


「ここは亜人国家ゲルマニアの中立王国シュヴィーツ国境(こっきょう)沿()い近くだ。ここから西は戦争中だから近寄るな。南西の少し向こうには街がある。ほら、これが地図だ。もう戻ってくるんじゃないぞ」


「はい」


 そう言って地図をもらい、優しい運転手は去っていく。


 状況をいったん把握(はあく)しよう。

 眠気から完全に覚醒するために(ほほ)を自分の両手でパンッとたたく。


「これからどうするか……あっ」


 そういや高そうな宝石を盗んだんだ。

 一文無しだしとりあえずこれを売ってみるか。


 南西にあると教えてくれた街を地図で探し、そこを目的地にした。



 ◇



「すみません、宝石商はどこですか?」


「えーっとね、ここから右に曲がってますっぐ行ったらそこだよ」


「ありがとうございます」


 街に着いたらケモノ耳の生えた獣人のおばあさんに場所を教えてもらい、お辞儀をしてそこに向かう。


「あった」


 ”宝石商”と書かれた看板の小さなお店。


「ごめんくださーい」


「あぁ、はいはい。ちょっと待ってね」


 店の奥から体の大きなオークのおじいさんがいる。


「買取ですか?それとも何か買いますか?」


「買取です。これなんですけど……」


 持っていた革製のポーチから、ありったけの盗んだ宝石を店主に差し出す。

 ダイヤ、真珠(しんじゅ)、サファイヤ、エメラルドなどのきらびやかな装飾品でいっぱいだ。


「こ、これは……」


「ん?」


「ちょっと待ってね」


「は、はい」


 そう言ってオーガおじいさんの店主は再び店の奥でたくさんの宝石を鑑定(かんてい)する。

 そうして待つこと体感20分。


「おまたせ!おまたせ、こりゃぁすごいよお嬢さん」


「そうなんですか?」


「この宝石全部合わせて200万クロイツァーあるぞ!」


「にっ、にひゃくまんくろいつぁー?どのくらいの価値があるんです……」


「これだけあれば、そうだな……質素に暮らせば死ぬまで生きられるぞ」


「一生!?そんなに……早く換金してくれませんか?」


「わかった。ちょっと待ってくれ」


 店主は沢山のピカピカの金貨を持ってきてわたしに渡す。


「取られないよう気をつけてな」


「はいっ!ありがとうざいます!」



 ◇



 ゲーム異世界転移序盤から大金持ちになってしまったが、これからどうしたものか。

 大金を持ったとしてもこの世界にゲームやアニメみたいな娯楽はない。

 働かなくていいがそれだとあまりに退屈だ。


 大金があっても、もうシャルルには会うことができないからゲーム通りには楽しめない。

 ならゲームでできなかったことをするのはどうだろう。


「そういや『アンヌ・デュボア』ではガリア帝国の中しか遊べなかったよな……今いるのは亜人ばかりのゲルマニアだし、旅行?探検でもするか……」


 運転手の人からもたった地図を見てみる。

 なにか面白そうな場所でも。


「ん?なんだこの……”聖域”って……」


 地図の中で、ゲルマニアの一番奥の端っこにその文字が書かれていた。

 

「ほかの森や湖のようにはっきりと書かれてない。ガリアでもまだ未開の場所なのか……ちょっと気になるな」


 乙女ゲームとしてじゃなく、冒険や探索をするRPGのように楽しめるんじゃないか。

 思い立ったが吉日、わたしはここの街で旅のアイテムをいくつか購入することにした。


 

 ◇



「よーっし。一通りそろったな」


 目の前にあるたくさんの準備物を見てやり切ったという気持ちになる。

 保存食(干しパン、チーズ、塩漬け肉など)、毛布、ロウソクに火打ち石、革袋、水筒、それに馬と馬車。

 運転手の獣人おじいさん、ハンス・ゲルハルトさんも(やと)った。


「サクラさん、行先はどこじゃ?」


「この地図に書いてある”せいいき”ってところに行きたいんですけど……ゲルマニアの一番奥ですし遠すぎますかね……」


「あぁ~、あの聖域か。まぁ時間はかかるが特に問題はないなァ~。今日出発して一週間くらいかな。食料みたいな備蓄は大丈夫か?」


「はい。それにお金ならまだありますから」


「それなら大丈夫じゃろう」


 ハンスさんは立派に生えた白ひげをふさふさと手で撫でる。


「ハンスさんはおいくつなんですか?」


「ワシは今年で59」


「そうなんですか。でも若く見えますよ」


「おぉ、ありがとさん」


 馬車の旅早々暇になったので、ハンスさんと談笑(だんしょう)をする。

 日本にいたときは娯楽に(あふ)れていたので、わたしはいつも一人で暇つぶしをしていた。

 だから誰かと雑談なんかあまりしたことがなくて新鮮な気分だ。

 

「ハンスさん、”せいいき”って具体的にどんなところなんですか?」


「んぁ、あーあそこはねぇ、ゲルマニアを厄災(やくさい)から救う伝説の神器(じんぎ)が眠っているとかなんとか。まぁワシも直接行ったわけじゃねぇけどな」


「そうなんですか。ますます興味が湧いてきました!」


「そうかい、そうかい」


 神器、なにか強力な兵器でも埋まっているのかな。

 厄災、たしかゲルマニアと元いたガリアは戦争中だからそのことをさしているのかな。

 わたしは兵器や軍事的なものが好きなミリタリーオタクでもあるから、ますます興味が湧いてくる。 

 

 とにかく当分暇にはならなさそうだ。

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