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幸せな選択

「それで皆さん。妻は大丈夫ですか?」


私達はお父さんのいる方に戻っていた。


「え、えっと、まだ目覚めたばかりで体力が十分に回復していないのでもう一度寝てもらいました」


「そ、そうなんですか」


「とりあえず今日はこのまま安静にして、明日私達が出て行く時にまた診ます」


「分かりました」


お父さんはどこか残念そうな表情をしていた。


その後、お父さんの気を紛らわせさせる為に安全地帯での朱里さんの話をした。


勿論いい感じに私達のことは伏せて


「朱里はそんなことを。立派になったなぁ」


「とてもかっこよかったですよ」


「そうだ!朱里のアルバムでも見ます?」


「え、いいんですか?」


「朱里は見せたがらないだろうから、朱里には内緒にしてくれ。取ってくるから少し待っててくれ」


お父さんが階段を降りて行った。


「ねぇやっぱ、お父さんに本当のこと言った方がいいんじゃないの?」


「あんだけ信じきってるといくら言っても信じてくれないさ」


「じゃあ今日の深夜にでも蒼雷が外に追いやってやれば」


「そんなことしたら、もしかしたら外に探しに行っちゃうかもよ」


「うーん、まだ一度も殺されたことないから大して抵抗力も強くないし行く前に焔が眠らせればしばらくは大丈夫でしょ」


「そうだな」


「みんなー、アルバム持ってきたぞ」


お父さんがアルバムを持って戻ってきた。


その時、


「お父さん後ろ!」


「え?」


光が間に入り、蒼雷が動きを止めた。


「あぁー母さんや起きたんだな」


「お父さん危ないから下がって」


「何を言ってるんだ。妻は別に感染症なわけではないぞ」


お父さんは光を退けてゾンビに近づいた。


「蒼雷、ゾンビが噛まないようにしっかり抑えといて」


「分かってる」


「焔が眠らせたんじゃなかったのか?


「ああ確かに眠らせた。一度も殺されてないゾンビなら二日は寝たきりになる魔法をかけて」


「みんな改めて紹介しよう私の妻であり朱里の母の水野幸子だ」


「…」


「どうしたんだ母さん?もしかして久しぶりだから上手く喋れないのか」


「ここまで心酔してると流石に手の打ちようがない」


「そういえば私の自己紹介もまだだったな水野国士だ。すっかり忘れていたな。何だみんな、そんな警戒と不安が混じったような顔をして」


私達にはどうしようも無かった。


蒼雷と焔の力を使えばしばらくはやり過ごせるだろうが、ゾンビ化を解く方法見つけるか、お父さんの目を覚まさせるかしないと意味がない。


だけどそれは不可能に近い。


だってお父さん最初は作り笑顔だったが、今は心の底から幸せのようだった。


「ほんとにどうしたんだみんな。私と妻の名前がそんな衝撃的だったか?」


私が何を言えばいいか迷っている時に沙莉が話し始めた。


「お父さんはここを出て朱里さんに会いに行きたいですか?それともここで奥さんと暮らしていたいですか?」


「どうしてそんなこと急に。うーん朱里にも会いたいがあいつはもう大人で一人でやっていける。私は母さんとここで朱里の帰りを待つさ」


「そうですか」


「焔もう一度ゾンビ眠らせて」


「そんなに効果はないぞ」


「いいから」


「【レムスリープ】」


お父さんに気づかれないように焔がゾンビを眠らせた。


「おい、母さんどうしたんだ?」


「多分いきなり立ち続けて疲れたんだと思います」


「そ、そうか」


何だか沙莉の考えが分かってきた気がする。


「少し妻をベッドに置いてくる」


「国士さん」


「な、何だい?」


「私達やっぱもう出発しようと思います」


「な、何故だい?」


「せっかくの久しぶりの夫婦水入らずの空間を邪魔しない為にです」


「そ、そういうことなら分かった」


「ではもう行きますね」


「待ってくれ」


お父さんが棚の中から一枚の手紙を取り出した。


「もしまた朱里に会ったらこれを渡してくれ」


「分かりました」


「では今後も旅を楽しんでな」


「はい」


「ありがとうございました」


「ラーメン美味しかったです」


「手紙は必ず届けます」


「さようなら」


そうして私達は急いで外に出てキャンピングカーに戻りキャンピングカーを出発させた。


「沙莉、本当にこれで良かったのかな?」


「あの人がそれを望んだんだから、これが一番幸せな結末だよ」


「まぁいずれゾンビから元に戻れるようになったらその時夫婦揃って助けりゃいいだろ」


「今の光達に出来るのはこの手紙を朱里さんに届けに行くことだよ」


「よーし、熊本城行って、ある程度九州観光したら直ぐに関東の方へ行こう!」


「「「「おぉー!」」」」

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