12
ブルーベリー、ルーマニア、グラスランド。
ラトビア、ファクトリー、ホールケーキ。
サイクリング、カルパッチョ、セルビア。
シュリンプ、バチカン、ブラックマンデー。
葉桜、冥土、航海。
潮風、宿木、黒煙。
螺旋、夕凪、椎茸。
蒟蒻、大蛇、砂浜。
峠越え、凧揚げ、神隠し。
素泊まり、叩き売り、盆踊り。
粘り腰、忍び足、祟り目。
眠り通し、刺し違え、痛み分け。
ここに共通点を見出せたにしろ見出せなかったにしろ、それが多かれ少なかれ気のせいであることに変わりはない。12個の要素をいかなる仕方で区別したところで、それがそうであるところの範囲を出ない。骨董無形な思い違いが我々の境界を規定し、内部の充足を保証するのだ。では我々は12個の要素からは逃れられないのか? そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。12の法則。12の野望。12の品格。12の方便。嘘から出た実。事実は小説よりも奇なり。いずれにせよ、もう12の要素に身を委ねるしか無いのだから、幽霊船に乗ったつもりでドンと構えておけば良い。
ブルーベリーの収穫に勤しむルーマニアの青年グラスランドは、ある日手紙を受け取った。それは、ラトビアでミニファクトリーを取材している兄弟からだった。
「よお、兄弟。元気か? こっちは大忙しだ。この前なんてホールケーキ片手にサイクリングしたよ。信じられないだろ。でもやってみたら意外と上手く行くもんさ。ところで今度、カルパッチョを食べに行かないか? セルビアで最高の店を見つけたんだ。そっちはちょうど収穫の時期か? ワイン作りがひと段落したら返事くれよ。じゃあまた」
彼は読み終えるとフッと短い笑みをこぼした。能天気な彼らしいと言えば彼らしい。そんな順風満帆な彼らに暗雲が立ち込めようとしていた。シュリンプ・バブルに沸く超巨大都市国家バチカンでは聞くもの聞くもの震え上がらせるような第二次ブラックマンデーの影が滲み寄ろうとしていた。