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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第1章 辺境伯領編
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5. いざ街へ

 夜明けと共に目が覚める。昨晩はどうにか早めに終わらせられたから、ウキアも同様に目覚めたようだ。


「おはようございます、ご主人様」

「うん、おはよう」


 焚き火の残滓からそれなりに形の残っている枝を取り出し、力任せに擦ればものの数秒で発火する。その炎をそこらでへし折った枝葉と共に投げ込めば、あとは少し風魔法で補助してやるだけで焚き火の完成だ。

 自分でその手際の良さに感心していると、顔を洗っていたウキアがいつの間にか真後ろに立っていた。


「ご主人様、火を用意して下さったのに申し訳ありませんが、出来る限り早く出立したいのです」

「飯は要らない?」

「はい、昨日あれだけ食べましたから、5日は問題ありません」

「5日何も食わないのは問題あるから、街に着いたら何か食おうね」


 火を踏み消して、昨日と同じようにウキアを背負う。1つ深呼吸をして気合いを入れ、道を走り出した。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 街道を西に進むだけの行程は、平坦かつ平和だった。借金取りも魔物も出ず、坂道も無い。楽に街の外壁の見える位置まで来たのだが……


「ねぇ、ウキア。やたら物々しくない?」

「魔族領と隣接していますから。……まぁ、魔族の方々が攻め込んでくるような事は無いと思いますが」

「魔族と会ったことがあるの?」

「はい、大使の方々への接待をしたことがあります。人族のあらゆる国が一致団結したとしても、間違いなく攻め滅ぼされるでしょう」

「ほ~ん、それでも何もしてこないって事は」

「わざわざこちらを攻める利点が無いという事でしょう。魔族領は人族領とは比較にならないほどの魔力が満ちているそうですから」


 要するに、わざわざ息苦しい土地を侵略する必要も無いという事だろう。人口増加で土地が足りなくなったりしたら分からないが、基本は攻めてこないだろうと。

 しかし、それならばわざわざ無駄な外壁を建てるのか。疑問に思ったが、思い出しただけで恐ろしいとでも言わんばかりのウキアの表情を見ると、魔族に関する情報が広まっていないのも納得がいく。いつ圧倒的な力が襲いかかってくるか分からないというのは、恐ろしいものだろう。


「ウキア、街に入るのに気をつける事とかある?」

「いえ、荷物を見せる必要も無いので、剣を振り回したりしなければ特に気をつけなければいけない事は無いと思います」


 てっきり門番から色々と聞かれて、荷物も見せなければならないかと思っていたが、そういう事は無いらしい。

 この先には魔族領しか無く、たとえ麻薬のようなものを個人が持っていても、国全体への影響は低い。大荷物の商人くらいはチェックするが、俺たちのような旅人ならまず止められないのだとか。


「うし、それじゃ街に入りますか」


 俺たちは、俺にとってはこの世界で初めての街に、足を踏み入れた。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 ウキアの言った通り、門は素通りできた。

 いざ太い通りに出てみると、外から見た物々しい雰囲気とは異なり活気に溢れていた。今俺たちは変装も兼ねて、借金取りから剥ぎ取った外套を着ているが、それも要らなかったかもしれない。そもそも通行人が多いというのと、ウキアの衣装よりも露出が激しい客引きもちらほらと見られる。


 しかし、どうやら実態はそう明るくもないようだ。

 ウキアがよく分からないゲル状の食べ物を買いながら聞き込みをしていると、どうやらかなり広い年代を徴兵しているらしいと分かった。なんでも、クーデターが起きたのだとか、

 旅人の俺たちには直接関係することではないが、ウキアはかなり深刻な顔をしている。結構な高級店にいたようだし、もしかしたらその王都で働いていたのかもしれない。

 であれば、知り合いが戦渦に巻き込まれるかもしれないと心配しているのだろうか。なんて思考を巡らせてみるが、結局の所俺に分かる事なんてほとんどない。


「ウキア、俺にやってほしいことは何かある?」

「ご主人様……」

「辺境伯サマの暗殺とか?」

「いえ!……その、もっと難しいことかもしれません」

「なんでもやる。それとも、信じられない?」

「────僕を、辺境伯様の元まで連れて行っていただけませんか?」

「あいよ」


 善は急げとウキアを背負う。

 そこから跳躍、家々の屋根を駆け抜けようとしたところで、ウキアから声がかけられる。



「できれば目立たないようにお願いします」



「……はい」

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