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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第1章 辺境伯領編
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3. 護ること、共に在ること

 さて、2時間ほどゆっくり休み、そろそろ出発しようと思ったが、膨らんだ腹を圧迫してしまうからウキアを背負うことは出来ない。

 考えた結果、少しは腹への負担も少ないだろうと考えて、ウキアを横抱きにする。意外なことに、ウキアは顔を赤らめて、どこか気まずそうにしている。こういう事は慣れていそうだが、娼館では組み敷かれるばかりだったのだろうか。


「ウキア、吐きそうだったりする?」

「いえ。その、お腹の心配をして下さるのは有り難いのですが、背負われても問題ありませんので、ご主人様が動きやすい体勢で……」

「いや、そんなパンッパンの腹で言われても」

「大樽いっぱいに満たされた腹下し液を受け入れた事もありますから、この程度で音を上げることはありません」

「……そっか、じゃあ背負うね」


 男娼の意地みたいなものだろうか。ウキアがかなり強情に背負わせようとするので、その通りにする。

 確かに横抱きでも腹に負担が無い訳じゃない。なら少しキツい体勢でも短い時間で済む方が総合的には楽なのかもしれない。俺の体力は尽きなくても、やはり前で抱いている状態で同様の速度を出して走るのは難しい。

 それならばモタモタせずに一刻も早く街道に出よう。街道付近なら魔獣も出ないらしいし、そこまで行って今日はお休みでも良いだろう。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 意外と近く、と言うべきか。走り始めてから体感では一時間と経たず、街道に着いた。そして槍を向けられた。

「いたぞ。こいつの首を持ち帰れば」

「待て、さすがにあの服は。あれじゃ売女だぞ」

「どうでもいいだろ。街道沿いだって魔獣が来るかもしれないんだ、見てくれが似てりゃ言い訳もできる」

「そうだな。おい、そこの護衛。今そいつを殺せば一緒に褒美が出るぞ」


 借金取りが何か言ってくるが、気にせずウキアを背中から下ろし、少し乱れた髪に手櫛を通す。

 ウキアは若干緊張した面持ちだが、安心してほしい。あんな奴ら、昨日戦った魔獣よりも弱い。一瞬で殺すから、俺のかっこいい所でも見ててくれ。


 ウキアを抱く手を離し、少し格好付けて男達に向き直る。


「今逃げるなら首ちょんぱで許してやるよ」


 背中の剣を抜き、切っ先を男たちに向ける。男たちが舌打ちをしながら槍を構えるのを見て、俺は地面を蹴った。


 この半日で考えていたことがある。

 俺はウキアを護る。何があろうと、自らを肉壁にしてでも護る。

 しかし、俺よりも強い相手だった場合、俺に何が出来るだろうか。

 戦闘の技術はある。そんなもの身につけた覚えは無いが、勝手に身に染みついている。

 ただ、経験がない。このままだと俺は、本当の強敵からウキアを護れない。

 だから取り戻す。初めて戦った時の機械のような自分を。闘い以外の全てを遮断してウキアを護る事だけを考えられる自分を。


 昨日のように自動ではなく、自分の意思で戦闘モードに入る。そしてそれは、昨日よりも鋭く深い。

 30mはある距離を2歩で詰め、剣を振る。1振りで2つ首が落ちる。残った2人の片方が素早く反応して槍を横薙ぎに振るったが、距離を詰めて柄を左腕で受ける。

 槍の間合いは潰したが、剣を振るにも近間過ぎる。そう本能で感じ取って剣を手放し、鎧で守られた腹に掌底を打ち込む。反作用で自分の身体が後ろに動くのを風魔法で防ぎ、鎧を砕かれよろめく相手の腹に貫手を滑り込ませた。

 最後の1人がようやく状況を理解し、踵を返して逃げ出す。しかし、当然ながら俺の方が速い。距離を詰める中で剣を拾い、背後から首を落とす。


 時間にして10秒足らずで、借金取り4人を処分した。右手を振って貫手で付着した血を落としてからウキアの元へ戻ると、ウキアが怯えた表情を浮かべていることに気付く。

 安心してほしい気持ちでウキアを抱きしめようとすると、俺の手から逃げるように1歩下がる。


「僕……は、なんで?」


 ウキアは自分の事ではないように呟く。しばらく手をグーパーとして考えを巡らせていたようだが、やがて意を決した表情で俺の身体に抱きついた。


「ごめんなさい、ご主人様。何故かご主人様を恐れていて……何か原始的な、僕というよりも根源が恐れているような感じで。ご主人様は僕のために闘ってくれているのに」


 小さく震えるウキアの身体を抱きしめ、落ち着かせると同時に俺自身も落ち着く。多分ウキアの恐怖は、俺の変化によるものだろう。いくら護るといっても、当のウキアを怖がらせては意味も半減だ。

 だが、ウキアを護る事と怖がらせない事、優先順位は揺るがない。俺はどうすれば良いのだろう。


「ご主人様、僕にも闘わせていただけませんか」

「それは……危ないんじゃないの?この辺の魔獣は特に強いんだって言ってたじゃん」

「僕には、それなりの魔法の才があります」


 ウキアの魔法の才について、俺に分かる事は無い。適正のある魔法の種類は俺よりも遙かに多いが、それだけだ。極端に言えば、焚き火を少し強くする程度の魔法でも適性が無ければ使えない。

 加えて、ウキアは初めて会った時に借金取り4人から逃げていた。疲弊している状態だったとは言え、あの4人よりは弱いということになる。

 なら、俺の援護として魔法を使うよりは、万が一の時に身を守るために使ってほしい。


「それに、ご主人様に護っていただきながらでも、魔獣を倒せば魔力は増えていきます。ご主人様の手柄を奪うようで申し訳ありませんが、僕にも闘わせて下さい」


 魔力が増える?そんな話は知らないため聞いてみると、魔獣を倒した者には神からの褒美が時折与えられるのだという。日々の成長とは違い、急に魔力量が増えるのだとか。

 確かにそれならば話は違ってくる。初めのうちは危険だが、その褒美を貰うにつれてウキア自身の戦闘力が増えていく。ウキア自身が強くなれば、俺に万が一のことがあっても1人で街を動けるようになるだろう。


「……じゃあ、俺の後ろで打つこと。あと、魔獣が俺を抜けてきたら、巻き添えとか考えずに自分の身を守るために魔法を使うこと。この2つは忘れないで」

「はいっ」

「うん、良い返事」


 いつの間にかウキアの震えは止まっていて、俺の戦闘モードも解除されていた。











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