2. 出立
さて、ウキアが魔力結晶を剥ぎ取り、竜らしきモンスターの革で包み終えたところで、出立となった。
「ウキア、街は西にあるんだっけ?」
「はい、川を下れば街道に出ると思います。その後は道なりに進むだけですので、迷うようなことは無いかと」
「よし、じゃあ行こうか」
俺がよっこいしょと立ち上がると、ウキアも立ち上がる。荷物を持とうとするウキアを制して、その荷物を全て奪った。
うだうだと遠慮して荷物を持とうとするウキアの手首を掴み、ほんの少し引っ張りながら軽く捻る。すると、足元に車が激突したかのように、ウキアが横方向に回転した。
すかさず上手く背中で受け止め、脚を掴んで固定する。要するにおぶった訳だ。しかし、俺はなんであんな芸当ができたのだろう。力任せじゃなく、ウキアに痛みを与えないようにほんの少しの力で投げ飛ばす。アイキという単語が頭に浮かぶが、そんな技術を持っていたとは思えないが……
「ま、いいや。ウキアは道を指示してね」
それだけ言って俺は走り出した。昨日のような斜面ではないから、風の如くとはいかないが、それでも凄まじく早い。地球であれば間違いなく出ない速度で、川を下り始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
数時間走って分かった事と言えば、まずはこの身体が本当に底無しであること。そしてもう1つ、やたらと魔獣が多いこと。底無しであることは、昨晩の時点で分かっていたことではあるため置いておいて、この魔獣の量はかなりマズいのではなかろうか。人間は、実は絶滅の危機に瀕していたりするのだろうか。
ちなみにこの魔獣、ウキアでは命を賭けた上で1匹倒せるかどうかという強さらしい。ウキアは筋力こそ無いが、魔法には詳しいし、体力という見方をすればかなり優れていると思う。そんなウキアでも厳しい相手だというのだから、街の外がもはや地獄のような場所に感じてしまった。
今は、ここまで来る道すがら切り落とした魔獣の尾を焼いているところだ。昨日の肉は恐ろしく不味かったが、こいつはどこか違うような気がする。切り落とした断面がすこぶる旨そうだったから、再チャレンジしてみようというわけだ。
「街道まであとどれくらいか分かる?」
「ええと……距離に関しては大まかにしか分かりませんが、このままの速度ならあと半日掛かることは無いと思います」
ふむ、ウキアが言うならそうなのだろう。まぁ、何日だって走り続けられそうな体力はあるから、ウキアさえ大丈夫ならどれだけ遠かろうと大した問題では無い。
「お、そろそろ良い感じじゃない?」
脂が焚き火に落ち、ジュウジュウと良い音と香りを発している。ちなみに今回は岩のプレートではなく、剣で突き刺して直火に当てている。どうせ鱗があるから、多少焦げても問題ないという判断だ。
さて、ベリベリと鱗を剥いでみる。直火に当たっていた鱗は意外にも簡単に剥がれ、ピンク色の肉が現れた。肉汁を垂らしながら柔らかさをアピールするように震える肉は、更に俺たちの期待を煽っていく。
「……とても美味しそうですね」
昨日の劇物を食べて眉1つ動かさなかったウキアも、この魅力には抗えないようで、唾を飲んでいる。素早く肉をぶつ切りにして、岩をスライスした皿に乗せる。そして2人同時に肉を口に運んだ。
「────ぅ」
「……うっっま」
「……美味しいです」
それから先はもう、何も言葉を発しなかった。ただひたすらに肉を貪り、完食してしまってからようやく、食べきってしまったことに気がついた。
ウキアも同様に目蓋をパチパチとさせて、肉が無くなった現状を理解しようとしている。そんなウキアは、妊婦以上に腹を膨らませていて、どれだけ大量の肉をその細い腹に収めたのか、驚きの一言だ。
ちなみに、元の尻尾は三角コーンくらいのサイズだった。二人がかりとは言え、どうやって食べきったのか自分でも分からない。ついでに言えば、俺の体型は全く変わっていない。底無しの体力といい、飢えも渇きもしない事といい、俺は本当に人間なのだろうか。
「ご主人様、僕が食べ過ぎてしまったでしょうか。あまりに美味しくて、夢中になってしまって……」
ウキアが不安そうな顔をしているので、急いでそれを否定する。
「いやいや、そうは見えないだろうけど、俺も大分食べたから。何でか知らないけど、全く体型が変わらないんだよね」
パンパンと自分の腹を叩きながら立ち上がる。
「ちょっとここで休憩して、腹が落ち着いたら出発しようか」