4. 思惑と身体が交差する
枝を抱えてキャンプ地に戻ると、それなりに沢山焼いたはずの肉はすっかり無くなっていた。
全ての肉を食べたのであろうウキアは少し膨らんだ腹をしているが、より魅力が増したように感じる。
「腹が落ち着いたら横になって休みなよ。借金取りから逃げ続けて疲れたでしょ」
枝を焚き火に投げ入れるが、プスプスと煙を上げるばかりで火の勢いは段々弱くなっている。何故だ。
風魔法でどうにかならないかと考えているところに、ウキアが魔法で火力を補充してくれた。
「いえ、……ご主人様」
「ん?」
「よろしければ、僕をお使い下さい」
揺らめく炎に照らされたウキアの瞳は、情欲に濡れているようにも見え、自然とその頬を両手で掴み、唇を重ねていた。
「────っは、どうぞ。準備は済ませておりますので、お好きなように」
ウキアの誘いに、思考の定まらない俺は従うことしか出来なかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
今となっては追っ手に命を狙われている男娼だが、僕はかつての王国の第6王子だ。
3日前に起きた反乱により、王家の血筋は残らず惨殺されるところを、僕だけは専属侍女の助けでなんとか逃げ延びた。僕がこうして生きているのだから血は途絶えていないが、王家を再興するのは極めて難しいと言えよう。かつての王国は、恐らく既に新たな国として生まれ変わっている。
それにしても、僕を助けてくれた彼女は今、無事でいるのだろうか。反乱一派の主張は、王家を廃して貴賤に関わらず政治を行えるようにすることであったから、貴族籍にその名の無い彼女は手を出されない可能性も十分にある。今となってはもう祈ることしか出来ないが。
しかし、反乱一派に逆らって殺されているかもしれない。彼女は特別僕への想いが強かった。市井に溶け込む期間の教育を一任されたのを良いことに、僕に男娼としての技を手ずから仕込ませるほどに。
僕が父に話さなかったから何も起きなかったが、あれが他の誰かに知られていれば、拷問が繰り返された後に処刑されていたことだろう。6番目とは言え、歴とした王子に対し、男娼としての心構えからあらゆる苦痛・快楽への耐性、絶頂の制御など、高位貴族が足を運ぶ高級娼館にすら中々見られないほど教え込むのは、不敬という言葉では到底言い表せない。
それでもこうして、類い稀な武力を持った者を魅了できたのだから、彼女にはずっと助けられ続けている。盥に張った水を道具無しで腹に収める訓練など何の役に立つのかと思っていたが、川で準備を済ませられたのだから無駄では無かったのだろう。恩人である彼女の無事を祈らずにはいられない。
さて、このご主人様だ。顔立ちは大海を挟んだ南の地に生きる民族と似ているが、魔法適正すら知らない者がこの地まで到達できるとは思えない。加えて、あの統率された4人組の暗殺者を山賊だと思っていたくらいだ。王国の者とも思えない。
分からない事だらけだが、その腕だけは完全に信頼が置ける。ここは魔族領にかなり近い土地だ。据え物を切るように蹴散らしていた魔獣も、本来は1匹に対して騎士数人が相手しなければならない強さだ。それを百以上も斬った上で、大した補給も無しに今もこうして腰を振っている。
化け物じみた膂力、底なしの体力。加えて、腹に注がれる度に僕へ魔力が流れ込む。当人の魔力量も僕に勝っているという事だ。
これから夜が来る度にこうして身体を重ねながら、魅了魔法で僕の虜にする。王国の復興など望まないが、追われること無く暮らすため、ご主人様に見捨てられないようにしなければ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
……すごいな、この身体。どれだけ出しても尽きる気がしない。
ウキアに吸い込まれるようにして始まった行為は長く続き、月の位置も大分変わってしまった。そろそろウキアを寝かせないと体力が回復しないだろう。そう思い、ドロドロに汚れた身体で息を荒げるウキアに声をかける。
「そろそろ休もうか。身体も洗わないとね」
ウキアを抱き上げ、川まで連れて行く。
艶やかな金髪にも粘液が絡みついており、さぞ時間がかかるだろうと思っていたが、俺が身体を流し終わる頃には、ウキアも魔法のドライヤーで髪を乾かしているところだった。男娼すごい。
「ご主人様、満足いただけたでしょうか」
トロンとした瞳でウキアが尋ねる。視線が交差した瞬間に、俺の意識がまた1段階、ウキアへと吸い込まれていく。
「うん。乱暴だったと思うけど、何も言わないでくれてありがとう」
「訓練として精液以外飲まず食わずで10日間休まず責め続けられた事もありますから、気遣って下さるご主人様相手であれば何も辛くありません。いくらでもお使い下さい」
健気にそう言うウキアを再び抱きしめ、一緒に横になる。見張りをするつもりだったが、気付けば意識が落ちていった。
おやすみ、ウキア。
ここでプロローグは終了です。次回から1章、辺境伯領編が始まります。
本当はウキアとの行為に1話使いたかったんですけど、ミッドナイト行きになってしまうのでやめました。