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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第2章 魔族領の入口編
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5. 互いを想って

 僕の身体では受け止めきれないほどの膨大な魔力が、手から腕へ、腕から胸へ一気に流れ込んでくる。同時に、僕の腕の紋様に沿って激痛も流れ込み、悲鳴は堪えたものの表情が引き攣ってしまう。


(弛んでいたな。ご主人様の優しさに、甘えすぎていたか)


 娼館にいた頃なら、不意だったとしても表情は変えなかった。こんなに甘えているようじゃ、ご主人様の横に立つ男娼としてふさわしくない。


「それが魔吸の基本じゃ。今は身体の一部だけじゃが、やがて全身で吸収できるように鍛錬する。その過程で魔力管は拡がり、魔力管の拡張に辻褄を合わせるように、蓄魔臓も大きくなる」


 穴の拡張と同じだ。無理やり大きいモノを挿れることで、壊れさえしなければ上限が広がる。魔力管……魔力の流れる道筋についてはそれで説明がつくが、貯める部分である、魔蓄臓と呼ぶらしい部位についてはどうなのか。

 確かに自身の総量を超える魔力を一気に取り込んではいるが、それらが全て中心に留まっているわけではない。途中の管に残っている魔力、身体に散らばった魔力、別方向の管に流れた魔力。そうして拡散されているため、魔蓄臓への負荷はほぼ掛かっていない。


「管から流れ込む先が、管より小さかったらおかしいじゃろ。管が拡がっていくに合わせて勝手に大きくなる」


そうか、と僕は再び手のひらに魔力を集め、一気に吸い込んだ。思っていた通りの耐えがたい苦痛が頭蓋を殴りつける。だが今回は表情も変えずに行えた。


「おっそろしく我慢強いのぉ」

「男娼は痛みも最大限強く感じ取らなければいけませんから。それにこの痛みは、調教魔法としてよく受けていました」


 後半の言葉には少し嘘がある。この痛みは調教ではなく懲罰の際に受けるものだ。厳しい調教を済ませた男娼が、それでも耐えられずに大声で泣きわめくような、そんな激痛を与えるためのものだった。

 僕は男娼の才能があるから、娼館にいた頃なら表に出さず耐えることが出来た。それなら、今だって耐えられるに決まっている。この修行だって、なんでもないように行い続けられる。


「次は、両手でやってみます」


 両の掌に魔力の球を作り出し、再び吸い込む。しかし、覚悟していたような苦痛は来なかった。


「あまり拡がった感触が無いのですが」

「魔力が少ないからのう。掌に魔力球を維持したまま、背中から周囲の魔力を吸うんじゃ。それを魔力球に足せば、自分1人でも上限以上の魔力で訓練できる」


 再び魔力の球を両手に作り、空になった身体で周囲の魔力を吸収する。言われた通り背中からジワジワ吸うように情景を思い浮かべると、確かに吸いやすいような気がする。

 それを繰り返し、およそ僕の上限の3倍ほどの魔力が両手に集まった。そして、躊躇無くそれを吸収する。


(~~~~っっ!!)


 片手だった時の倍どころではない痛みが僕に襲い掛かる。当然それを表面に出すことは無い。


(たかが両腕でこの痛み。全身となればいったいどんな……)


 我が身に襲い掛かるであろう拷問のことを考え、僕は小さく嘲笑(わら)う。

 男娼が、来るであろう苦痛を恐れる?何をふざけている。快楽も苦痛も、あらゆるものを全力で感じ、全て受け取った時のまま己の内にしまい込む。それが男娼だ。


 先ほどと同様に両手で魔力を集めながら周囲の魔力を取り込む。素早く、出来る限り素早く、総量の20倍程度の魔力を集めきった僕は、それを全身に纏うように流す。身体の輪郭がぼんやり光り、身体に残った魔力も全て吐き出し終えた僕は、それらを一気に吸い込んだ。



 地獄だ。

 苦痛の度合いで言えば、これまでの人生で受けたことのある中で最も苛烈だった。娼館時代には無理矢理前の穴に挿入されたり、指3本が入るほど乳の穴を強引に拡張されたりしたが、こんな激痛は1度だって無かった。

 だが、ただの客を相手にしていた昔と、ご主人様のために強くなろうとしている今。持つ覚悟も、心持ちも違う。



 それから僕は一心不乱に、お爺さんの声すら聞こえないほどに集中して、魔吸に励んだ。


 ご主人様が帰るまでは決して止めない。三日三晩であろうと、七日七晩であろうと。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 カチリという音。

 俺が一番()()()()()()()スイッチが入った音だ。ウキアに怖がられるなら要らないと捨てたはずの可能性が、どうしてこのタイミングで。


 俺が困惑している間に、()が3匹を片付けて着地した。更に、無数に迫る棘を掴んで叩きつけ、近づいた順に処理していく。

 もはや俺は思考を巡らせる必要も無く、身体が勝手に動いて棘羊を処理していく。だからこそ冷静に観察ができる。分かったのは、棘羊の硬さには個体差があること。考えてみれば当たり前だ。ロールプレイングゲームの敵ですらある程度体力に差があるのだから、こうして生きている魔獣は一匹一匹違うのだ。


 その硬さの差を俺は理解できていないが、()は無意識に感じ取っているようで、最も近い2匹の内硬い方を選んで掴み、もう一匹に叩きつけている。

 ()は何を使って判断している?思考はともかく、身体は同じなのだから、俺に不可能ということは無いだろう。


 色。……それと分かる差は無し。

 魔力。……感じ取れる大小と硬さの差が合っていない。

 匂い。……個体を嗅ぎ分けることはできない。


 分からない。()が何をもって判断しているのか。

 更に問題がもう一つ。頭に殺意が響いている。殺せという声でなく、殺したいという衝動でもない。俺とは別の何かが、俺の脳髄を、殺せと意思を込めながら殴っている。


(この殺意に従えば、少なくともこの棘羊は絶滅させられる。でも村の人々も、ウキアも殺してしまう)


 この響く殺意から逃れなければならないが、その方法が無い。

 思えば、初めてはウキアを見て、2度目はウキアに抱き着かれて戦闘モードが解除された。俺単独で戦闘モードを解除したことは無く、現状は過去の2回よりも()()入ってしまっている。

 

 意識が遠のく。もう少しで完全に戦闘モードに取り込まれるだろうと理解してしまう。どうすればこれから抜け出せるのか、いくつも試す時間は無い。


 こんな時ウキアなら――――




(身を……委ねる?)

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