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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第2章 魔族領の入口編
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4. 強さを求めて

 地を薙ぐ風の刃は予想以上の威力で、その結果は期待未満だった。

 のんびりひなたぼっこしているように見せかけて、棘羊たちは刃が届く前に自らの毛皮を硬質化していた。とは言え強くなった俺の全力を受け止めきることができる程ではなく、大量の輪切りができていく。

 しかし、100匹、200匹と斬ればその限りではない。肉壁が徐々に刃の勢いを削ぎ、やがて完全に消滅した。


「もうちょっといけると思ったんだけっ、ど……」


 地面を大きく削りながら着地した俺に、背後から棘羊の突進が刺さった。背中から腹へ、複数の棘が貫通する。


(攻撃に集中しすぎた。切り替えろ、完全に囲まれている)


 遠くから見るだけでは分からなかったが、木陰にも無数の棘羊が隠れていた。しかも離れた位置にいた個体まで集まっているようで、気配はどんどんと増えていく。

 ひとまず身を翻し、俺を突き刺した棘羊を斬る。


(硬っっっってぇ────)


 剣が弾かれる。折れはしないが、まさか傷すら付かないとは思わなかった。しかし、驚いている暇はない。更に棘羊が追加で突進してきている。

 一番近くまで来ていた棘を踏みつけ、刺突の勢いを殺しつつ上に飛ぶ。滞空時間で回復魔法を自分に掛け、腹の傷を塞ぎながら今一度周囲を見下ろす。平原一帯どころではない。この丘全体が全て棘羊に覆われている。まさに針山だ。


 思考を巡らせていたのはそこまで。跳べるのは俺1人じゃない。重力に従う俺に、棘が迫り来る。その棘に合わせて突きを放つと、辛うじて強化魔法を砕く感触がした。

 だが一匹ではない。次の棘を掴み、力任せに別の棘へと叩きつける。すると、俺の持つ棘に砕かれた肉塊が花火のように飛び散った。


(これならっ!────なぁっ!?)


 更に迫る棘に、再び手に持つ棘を叩きつける。結果、()()()()()()砕け散った。衝撃で迫っていた棘は叩き落とせたものの、地上が近くなり棘はますます数を増している。辛うじて一番近い棘を剣で叩き落としたが、次は3匹同時に突っ込んでくる。無理な体勢になっている今では対応できないし、風魔法も間に合わない。

 重傷覚悟で着地するしかないと決めた時、カチリと久しぶりに聞く音が頭蓋に響いた。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




「さて、魔吸じゃったな」

「はい。よろしくお願いします」


 ご主人様が棘羊駆除に向かっている中、僕はお爺さんに魔吸を教わることになった。


「魔吸はそう難しい技術じゃあない。ただなぁ、キツいんじゃよ」

「キツい……というのは?」

「ま、1回やってみれば分かるわい。まず魔力をありったけ外に出してみい」


 こんな感じにな、とお爺さんが掌を上に向け、そこに魔力の球を生み出す。莫大な魔力が込められたそれは、片手で掴める程度の大きさでありながら、僕の総魔力量を上回っている。

 僕も見よう見まねでやってみる。初めてのことだが、そう難しいことではない。ただし、ありったけとなると別だ。体内の魔力が少なくなればなるほど、魔力の放出が難しくなってくる。

 だが、そこは男娼として培ったものが役立つ。僕がかつて越えた試練である『五行』の内の一つ、『中樽行』では、精根尽き果ててからも三日三晩精を吐き出し続けた。食べ物はおろか、水も、魔力も、何1つ補給できないまま、王国指定の中樽を満たした。それと比べれば、全て出し切るだけで終わるなんて(ぬる)いにも程がある。


「ほっほぅ、しっかり全部出し切ったのう。手助けも要らんとは思わなんだ」


 じゃあこれ。とお爺さんは出した魔力の球を、僕の魔力に混ぜた。いきなり倍以上の魔力を制御しなければならないことに一瞬焦るが、少年の魔力を取り込んだときのように波長を合わせる必要も無い。一旦落ち着かせてしまえば、魔力も楽に制御できる。


「それを自分に取り込むんじゃ。波長を合わせず、一気にな」

「魂が壊れるのでは?」

「魔族なら壊れる者は稀だ。それでも僅かな割合ではいる。じゃが、(かなめ)はそこじゃない」

「それは────」

「やってみぃ。魂が壊れるかもしれないと、恐れるようには見えんからのう」


 お爺さんの言うことは間違っていない。いくら脅されようと、強くなってご主人様のお役に立てるなら躊躇いはしない。

 大きく息を吐く。深呼吸するように、魔力もきっと大きく吸えるだろう。


 そして僕は、手の内にある魔力を吸うと同時に、手を握りこんだ。

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