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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
第2章 魔族領の入口編
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2. 田舎暮らし

「お、見えてきた」


 少年の言葉で進行方向に目を凝らしてみると、確かに人家のようなものが見えた。辺境伯サマの街とは違って閑散とした様子だが、それ以外は特別珍しいところも無い、いたって普通の民家だ。

 ウキアも魔力を目に集めれば見えたようで、思っていたより普通だと漏らしていた。


「それにしても、魔族領はすごいところですね。ここまでほぼ全部無視してきましたが、人族領では見ない魔獣ばかりです。正確には分かりませんが、強さも相当なものばかりでした」


 最初は走っていた俺たちだったが、ウキアが俺を風魔法で飛ばしてくれた事によって、魔獣を相手しなくても良い旅路になった。

 どうにも俺1人では継続して飛行するのが難しく、おそらくは練度の問題だとは思うが、まだ飛んで旅するのは出来そうにない。これは今後の課題だろう。


「ただいま~!」


 少年が手を振りながら飛んでいってしまった。俺たちも村で厄介になろうと思っているのだから、一緒に連れて行ってほしかった。


「良かったです。もう一晩野宿をするのは少し心配でしたから」


 ウキアは人里に辿り着けたことに安堵している。昨晩は俺が見張りをしていたが、魔力溢れる環境と強大な魔獣が多く生息していることで、中々心安まらない夜だったようだ。それはそうとして肉体は完全に休めたと言っていたところは流石ウキアだ。


「魔族の家はどんな内装してるのか楽しみだね」


 横を飛ぶウキアの頭を撫でながら、俺たちは少年の後を追った。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




「初めまして。僕は男娼のウキアと申します。泊めていただける事に感謝を。こちらは人族の街で手に入る中で、気に入っていただけそうなものを選んで参りました」

「そりゃあご丁寧にどうもねぇ。有り難く使わせてもらうよ」


 俺たちを受け入れてくれたのは、少年の母親であるという老婆だった。母親にしては些か年を取り過ぎているような気がするが、魔族がそういう種族なのか、あるいは何か事情があるのか、俺たちが聞くようなことでもないだろう。

 家の中を見渡すが、外装と同様に珍しいところは無い。強いて言うなら風通しが良い訳でもなく、暖炉がある訳でもない。要するに気温を調整するのに不便そうな所が珍しいと言えなくも無い程度か。


「ま、その辺座っとくれよ。これから晩飯だからね」


 ありがとうございます。と2人でお礼を言う。

 「その辺」と差されたのは木組みのベンチで、四角のテーブルを囲むように配置されていた。そこにウキアと隣りあって座ると、次々に皿が運ばれてきた。


「食えないものがあったら言っとくれ。なにせ人族を見るのは初めてなもんでね、なんにも分からないんだよ」

「見た目では問題ありません。ご主人様は大丈夫ですか?」

「俺も問題無し。いただきまーす」


 まずはパンらしきものから。スライスされているので、箸のような食器を使って食べるのだろう。やや長いので違和感があるが、それ以外の問題はない。

 大きな一口で食らいつくと、外側は硬めでサクサクした食感で、内側から滲み出してくるほんのり甘い液体が、単品でも十分に美味しいと思わせる。


 ウキアは骨付き肉を手掴みで齧り、笑顔で「美味しいです」と言っている。美味しさの程度は分からないが、少なくとも全く駄目ということはないだろう。

 それなら、と手のひらサイズのヤゴらしきものの丸焼きを手に取る。指で押してみた感触はだいぶ薄い外殻で、剥く必要はなさそうだ。

 味はどんなものかと頭から頬張ってみると、クリーミーな身が口いっぱいに広がる。うん、美味い。


 そんな調子でどれも美味いと食事を楽しんでいた俺達だったが、1種類だけ手を付けさせてもらえない肉があった。赤身の肉で、別段珍しい見た目をしているわけでもない。食べても問題なさそうだが、俺達から明らかに遠ざけて皿が置かれている。


「その肉は、何か特別なものなのでしょうか」


 俺の疑問を察してか、ウキアが訊ねてくれた。俺の想像としては、魔族の中でも好みが分かれるクセの強い食材だとか、人間には毒になるとか、そんなものだと思っている。


「隣村の魔族の肉だよ。流石にこれを食わせるのは忍びなくてねぇ」


 ────想像の遥か上を行った。


「そこまで食料が不足しているのですか?」


 ウキアが物怖じせずに訊ねる。


「いんや、この辺りの風習だよ。眠りから目覚めなくなる呪いがあってね、それに罹った魔族は隣近所に肉を食ってもらうんだ」


 古臭い風習だけど、こんな田舎じゃ中々辞められないんだよ。と老婆は言った。

 中々にショッキングではあったが、21世紀の地球人にだって食人を行う部族は存在したはずだ。世話になっている身で、俺がその風習を批判するつもりはない。と言うか別に気にならない。


 だが、ウキアは別だ。ウキアは人族の宗教を良く知っていた。もし禁忌とされているのであれば、魔族と分かりあうことは難しいだろう。


「ウキアは、無理しな」

「弔いであれば、僕たちにも食べさせていただけませんか?それとも、人族では冒涜になってしまうでしょうか」

「冒涜にはならないけどねぇ、良いのかい?」

「僕は構いません。特別信心が深い訳でもありませんから。ご主人様は……」

「────あぁ、俺も全く気にしないよ」

「それじゃ、はい。このくらい食ってくれ」


 俺とウキアの前に、150g程度の肉塊が置かれる。

 ウキアは構わないと言っていたが、会ったばかりの頃はサメ人間をノータイムで拒否していた。内心ではかなり無理をしていたとしてもおかしくない。ここは俺が行くべきだ。老婆にアイコンタクトで尋ね、手掴みで肉を持ち上げる。そのまま全体の半分くらいを噛み千切った。


「ん~……なんかピリピリする?」

「魔力が合わないんだろうね。ウキアちゃんは大丈夫かい?」

「彼の魔力を受け取った時の、魂が軋む感じに似てますね。魔族の皆様はそうではないのですか?」

「そんな事は無いけどねぇ。辛いなら無理しない方が良いんじゃないかい?」

「弔いですから、少し辛いくらいで辞める訳にはいきませんよ。それに、男娼ですから辛いのは慣れっこです」


 老婆の心配そうな表情を横目に、ウキアはしっかり肉を完食した。






ウキアは生理的嫌悪感から吐き気を覚えていますが、当然それを誰にも悟らせることはありません。

超一流の男娼なので

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