29. 信じる心
先週は投稿できずすみません。
スプラトゥーン3のせいではなく、単に宿直がある事を失念していました。
「いやぁ、旨かったね。特にあの魚」
「僕も見たことの無い種類でした。この辺りの川にしか生息しないのでしょう」
2人で大量のご馳走を平らげ、俺がウキアを膝に乗せて後ろから抱き留めながら、部屋でくつろいでいた。
「────それにしても、色々あったねぇ。俺は丸6日寝てたわけだし、特に濃密だったよ」
「僕も王都を出てからの日々は、今までの何よりも刺激的でした」
もはや懐かしさすら覚えます。とウキアは遠い目をする。
ボロボロになって刺客から逃げ延び、メッセンジャーとしての役割を全うしたウキア。そんな事よりも、森神との戦いや魔族の少年との出会い、そして────
「ご主人様と出会えましたから」
ウキアが俺の手に自身の手を重ねる。
「多くの犠牲の上で、僕はご主人様に助けていただいて、今こうして幸せな時間を過ごしています。だから僕は、絶対に死ぬわけにはいかないのです」
それについては、細切れではあるが聞いた。孤児だったウキアを娼館に推薦した恩人も、どうなっているかは分からない。生きていたら一言お礼を言いたいのだが、生き延びていたとしてもこれから行く魔族領にはいないだろう。
「これからはご主人様にだけ身を捧げる、とは言えません。必要であれば、僕は魔族でも、魔獣にだって股を開くと思います」
「知ってる。ウキアは男娼だもんね」
それは理解している。悔しいが、ウキアはそれが自分の生き方であると胸を張っている。俺がこの世界に誕生するよりもずっと前から、ウキアはこうして生きてきたのだから、俺がその生き方を変えさせることはできない。
「それでも、俺と一緒に来てくれるの?」
魔族領は危険だ。行ったことはもちろん無いが、断片的な情報だけで危険と分かる。こちらでは災害として扱われるような魔獣がそこかしこを闊歩し、ひとたび入れば二度と出ることはかなわない森には、魔族の間ですら伝説とされる魔獣が存在するとか。
そして何より、魔族領とは陸続きだというのに、情報が少なすぎる。その事実が何よりも雄弁に危険を物語っているだろう。
絶対に生きたいのなら、魔族領に行くべきではない。森神を倒したことで莫大な魔力を手に入れた今のウキアなら、暗殺者ごときにやられる事はないだろう。こちらであれば、ウキアは安全に暮らすことが出来る。
「僕はご主人様の強さを誰よりも信じていますから」
ウキアの言葉に、自然と頬がにやけるのを感じる。だからその顔を見られないように、ウキアをきつく抱きしめる。
ウキアはそれ以降何も言わない。俺も抱擁以外の何も返していない。それでも俺たちは通じ合って、音も無くたくさんのことを語り明かした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、簡素な朝食を終えたところに辺境伯サマがやってきた。なんでも、街を出る時に馬車で凱旋してほしいのだと。
特に問題は無いから了承する。英雄一行の1人に数えられているのだから、少年も一緒に乗ってくれれば良いが。まぁ本人は目立つのだって嫌いじゃないだろう。そうでなければ1人で注目を浴びながらの街歩きなど、肩身が狭くてしょうがない。
それにしても、少年はいつまで搾り取られているのだろう。極端な魔力の変動は感じなかったから、まだ娼館にいるとは思うが、周囲に気遣って魔力を抑えてくれているものだから感知ができない。
「ウキア、迎えに行こうか」
「そうですね。下手をすると今日出発できない可能性もありますから」
手荒なことをされている心配は無いに等しいが、あの様子だと心身を全て吸い尽くされている可能性は否定できない。いくら巨大な魔力を持っていても少年には違いなく、大勢の女性から求められ続けては恐怖で動けなくなってしまうかもしれないだろう。
一応控えているメイドさんに用事を伝え、入れ違いになった時は軽く魔力を放出してもらうよう伝言を頼むと、その背後で動く影があった。
「おや、ちょうど良かったですね」
ウキアの言った通り、メイドさんの後ろから魔族の少年が現れた。衰弱した様子は無いが、どこか雰囲気が変わったように感じる。
どう変わったのかじっくり考えていると、少年の瞳に涙が浮かぶ。下瞼ではどんどん膨らむ水滴を受け止めきれなくなり、決壊した時、少年がウキアの胸に飛び込んだ。
「怖かったよぉ~」
グスグス鼻を啜りながらウキアをポカポカと叩いている。その姿は年相応というよりも、もう少し幼くなったような気がする。
「折角なので良かれと思って差し出しましたが、悪い結果になってしまったようですね。申し訳ありません」
ウキアは少年の背中をさすりながら、優しくあやすように声を掛けた。多分ウキアは、本当に良かれと思っていたのだろう。せっかく人間と交わる機会があるのだから、体験しておいた方が良いとかそんな考えだ。
ウキア自身、何の事情も知らされずに娼館に放り込まれた時も、不安はあれど恐怖は一切無かったらしい。拷問を通り越してもはや処刑の域だった調教も、多種多様に男娼を痛めつけようとする客の相手も、まるで苦じゃなかったのだとか。
大して知識の無い俺にも、それはウキアが才能に溢れすぎていただけのように思えるが、ウキアにとっては自分で実証した感情だ。多少なりとも他人も近しい考えをすると思うのは仕方の無いことだろう。
「ご主人様。このままでは可哀想ですので、軽く慰めてもよろしいでしょうか」
誓って穴は使いませんので。と続けるが、別に俺としては使っても良いと思う。ウキアが他に靡かないと俺は確信できている。不安は無い。
それでもウキアが気遣ってくれるのが嬉しくて、少年も巻き込んでウキアを抱きしめた後、いってらっしゃいと手を振った。




