27. 魔族、人を知る
「あ~……。そりゃ入店拒否されるわな」
「そうですね。まともな店で良かったです」
少年とは言え、魔族を入店拒否するなんて、どんな度胸のある店だろうと思っていたのだが、結果としてはとても分かりやすく当たり前の理由だった。
「娼館だよね?ここ。文字は読めないけど明らかに」
「はい。雰囲気から男娼はいないようですが」
偶には女性も良いものだと思いますよ?僕は挿れられる方が好きですが。なんてウキアは言うが、俺にそんなつもりはない。ウキア1人で十分に満たされているのだから、余所見をする理由が無い。
「なぁなぁ、ここは結局何なんだ?英雄様に説明してもらえって言われたんだけど」
少年が俺たちの袖を引いて尋ねる。しかし……あれだ。子どもの作り方を聞かれた親はこんな気分なんだろう。いったいどう説明すれば良いのだろうか。
魔族の情操教育ってどうなっているのだろうかと考えていると、ウキアが何一つ包み隠さずイチから説明していた。しかも、娼館とそこでする事の内容を話し終えてから、娼館で行われる調教や娼館のレベルの見分け方、さらに飛躍して男娼についてなど、どう考えても今必要ではない知識まで教え込んでいた。
「凄いところなんだな、娼館って……」
ウキアの分かりやすい説明で語られた濃厚すぎる内容に、少年はたじろいでいた。無理も無いだろう。特に、ウキアの調教されていた頃なんて、捕虜に口を割らせるための拷問としか思えない。俺ですらそうなのだから、純真だった少年にはさぞ過激に聞こえただろう。
店のことも分かったし、旅支度でもしようか。そう声をかけて立ち去ろうとした俺たちと、店から出て来たやたらと露出の多い女性の目があった。お。と声を漏らした女性は、すぐに店へ回れ右する。
「姉さーん。英雄様が来たよー!」
ちょっと待っててくださいねー。と女性は言ってすぐに店内に引っ込んでしまった。
「……捕まりましたね」
ウキアの呟きに俺と少年が頷く。待ちぼうけになった俺たちは、周囲の視線を浴びながらそこに突っ立っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いや~。そこの公子が1人で来た時にゃ焦ったよ。店に入れる訳にも行かないけど、気を悪くして魔法でも打たれたら私ら全員消し炭さ」
俺たちを店内に招き入れ、捲し立てるように話すのは、先程「姉さん」と呼ばれていた女性。この娼館のトップらしいから、館長とでも呼ぼう。
そんな館長は、俺たちにそれぞれ飲み物を出し、カウンターを挟んで向かい合っていた。そこでウキアを見て「姫さんご同業かい?」と言う。俺は一目で見抜いた眼力に驚いていたが、ウキアは当然のように頷いた。
「英雄様、こういうのは分かっちまうもんなんだよ。特に私は才能ある娘を引きずり込まなきゃいけない立場だし?」
「ウキアは渡さないけど」
「ウチに男娼はいないから安心しておくれ。それに、姫さんの才能はウチじゃ持て余すね。ここに来る前は王都の超一流店にでもいたんじゃないのかい?」
ウキアは再び頷き、グラスを軽く傾ける。その仕草があまりに妖艶で、遠巻きに俺たちを眺めている従業員たちから桃色の悲鳴が上がった。
「アンタら、嬢があてられてんじゃないよ!……悪いね英雄様、徴兵で良い男はみんな持ってかれちまってね。最近は金持ちの太ったおっさんにばっかり抱かれたからあの娘らも溜まってんのさ」
退屈そうにしている少年の前に、館長がいくつか皿を出す。
「精のつくモノばっかりだけど、子どもにゃ丁度良いかもね。足りなかったら出してやるから言いな」
「ありがとー。偉い人のところで出たのとは随分違うけど旨いな」
「この辺りの食い物じゃないからね。戦争でしばらくは入ってこないかもしれないけど、アンタたちならどこにでも行けるだろうから、色々食ってくるといいよ」
「ん?森神とかいうのは死んだんだろ?人間は何と闘ってるんだ?」
「人間だよ。人間の争いは大抵人間どうしで起こるのさ。森神みたいに、みんながみんな嫌ってる奴がいる方が珍しいのさ」
「へ~。人間は難しいな」
記憶は無いと言っても、現代日本の義務教育程度の知識は持ち合わせている。人の歴史は闘いの歴史で、その闘いは人どうしで起きる。魔女とか、原住民とか、悪魔憑きとか、人以外のモノと闘っているというていで、人が争う。
だからこそ不思議に思う。人間となんら変わらない知能に、人間の平均とはまるで比較にならない魔力を持つ魔族が、魔族どうしで争わないのか。いや、個人的な争いはあるだろうが、集団が争うことはないのか。その辺りも魔族領に行ったら現地の魔族に聞いてみよう。
「戦争は一旦落ち着きますから、あまり心配せずとも良いかと。とうに王家は滅んでいますし、辺境伯様も抗戦の構えは辞めたようです」
「それは……いや、他ならない英雄様一行の言うことだからね。もちろん信じるさ。それに、森神も倒してくれたからね。また若い男で賑わうだろうね」
ありがとうございます。と館長は頭を下げ、お礼に何人か抱いていくかい?なんて俺を誘ってきた。当然俺はウキア一筋だから断ったが、ウキアが代わりに少年を差し出す。
少年はウキアから性の手ほどきをされた時のように縮こまり、されるがままに奥へと連れて行かれる。若い……と言うには少々若すぎるように感じるが、娼婦たちは若い男に群がって順番を決めている。
「ねぇ、あれ大丈夫?」
ウキアに聞いてみる。児童ポルノという5文字が脳裏によぎるが、この世界で適用されるのかは分からない。
「見た目通りの年齢なら法に触れますが、そもそも人間のための法で魔族を縛ることは出来ないでしょう」
「でも1回入店拒否されたんだよね?」
「僕たちが保護者だと思っていたからでしょう。現に館長は止めていませんし、本人も嫌ならどうとでもできますから、問題は無いかと」
「……まぁ、いいか」
無数の女性に担ぎ上げられる少年に心の中で合掌し、俺はもう1杯ドリンクを頼んだ。
スプラトゥーン3にドはまりしたので来週の更新が無いかもしれません




