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ある日 森の中 男娼に 出会った  作者: 自動賽鍵
プロローグ 2人の出会い
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3. 魔法とは

 ウキアが再び水浴びで血を洗い落としている中、俺はモンスターの死骸たちの中から食えそうな肉を探していた。

 ゲルや目玉を口にする勇気は無く、サイや竜は異臭を放っている。樹木や岩など明らかに食材ではないものも除けば、100以上もある死骸の中でも選択肢は限られてくる。


(このカピバラか、サメ人間のどっちか)


 2択までは絞ったものの、最終的な判断は付けられない。自分としては鼠を食べることに抵抗があるのだが、ここは本場の異世界人に聞いてみた方が良さそうだ。




「ウキア、これ夕飯の食材候補なんだけど、どっちが良いと思う?」


 水浴びを終えて髪を魔法で乾かしているウキアに、両手の死骸を見せる。


「大鼠にしましょう」


 真顔だった。




 ギリギリで火種が残っていたところに枝葉を投げ、火の勢いを増した焚き火の上に、匠の技でスライスした岩を乗せる。その上に切り落としたカピバラ肉を乗せ、じっくりと火を通していく。

 段々と日が落ちる中、その傍らに腰掛けるのは俺とウキア。服は乾かしている途中のためどちらも全裸だ。

 改めて見ると俺の身体はかなり細い。太かろうと細かろうと、地球上であんな馬鹿力が出せるはずも無いが、それにしても細すぎるように感じる。目前のウキアには、二次性徴途中の性差が生まれ始めた身体といった印象を受けるが、身長こそ違うもののガタイはほぼ変わらないのだから、いかに自分の身体が細いか分かりやすい。


「あの、ご主人様」

「ん?」

「ご主人様の目的地はどちらでしょうか」


 肉を切って様子を見ながら答える。


「俺、自分がどこにいるかも分かってないんだよね。目的地も無いし、良かったら人里まで案内してくれない?」


 肉はまだ生焼けだった。腹が減っ……てはいないが、こういう時間はどうにも待ち遠しく感じてしまう。


「ここからなら、境界の街が近いと思います。ここから西に向かえば、そのうち街道に出るはずです」

「よし。明日からはその、境界の街?に向かって進もうか」


 先程からぐるぐると腹を鳴らしているウキアも、待ちきれないという表情をしている。もうちょっと我慢してね。


「そういえば、ウキアは何の魔法が使えるの?」

「僕は……そうだ、見ていただくのが早いですね」


 ウキアは何かを思いついたように、肉を切り出した後の死骸を漁り始める。少々苦戦している様子だったが、やがてプチトマトくらいの大きさをした球を取り出した。

 血に塗れたそれを川で洗い流し、手の平に乗せて俺の方へ伸ばす。


「これが僕の属性適正です」


 見せられたガラス玉のような物体は様々な色に光っている。しかし、俺ではその光が何を意味しているか分からない。


「属性の偏っていない魔力結晶に魔力を通すと、その者の属性適正を示す色の光を放ちます。僕の属性適性は風・土・雷・闇なので、緑・黄・白の光が魔力結晶の内に見えるかと思います」


 ウキアの言った通り、ガラス玉の内で3色の光が見える。


「もう1つの闇適正ですが、こちらは魔力結晶全体がぼんやり黒に染まっています。こうすると分かりやすいでしょうか」


 そうウキアが言うと、ガラス玉の光がゆっくりと点滅する。これは、魔力を通すと光るらしいから、通したり遮断したりしているのだろうか。

 確かに、焚き火に照らされるガラス玉は、内側の光が点滅するのに合わせて暗くなったり明るくなったりしている。


「火・水・風・土・雷・光・闇の属性7種は、このように魔力結晶で適性が見えます。ご主人様もよろしければどうぞ」

「ありがと」


 昼間の戦闘で、無意識に使っていたらしい魔力の使い方もなんとなく実感できた。


「……緑だけ」

「き、気を落とさずに。ご主人様であれば希少魔法もいくつか持っていらっしゃるでしょうから」


 目を凝らしてみても光は1色しか無く、全体の色も変わっていない。要するに、風以外の属性に適性は無いらしい。しかし、希少魔法とやらには希望が持てると言う。

 少し落ち込んでいる俺に、ウキアは慌てて言葉を重ねる。


「僕は爆破・強化・回復の適正があります。ご主人様も強化と回復の他に、何か出来そうなことはありませんか?」

「出来そうなことと言われても、どんな種類の魔法があるのかも分からないから……」

「こう、なんとなく出来る気がするんです。試しに意図して強化を使っていただければ」


 強化……強化…………全然分からん。


「ごめん、分かんない」

「では、……っ」

「ちょっ、何をして」


 ウキアが風の刃で自分の腕を大きく切り裂いた。数瞬の間を置き、鮮血があふれ出る。


「回復していただけませんか?」


 慌ててウキアの腕を掴み、傷が治るイメージで魔法を使う。一回無意識にやっていることなんだから、もう一回だって出来るはず。


 少し経ち、肌を濡らす血を拭う。すると、切り傷はすっかり無くなり、元のすべすべした綺麗な肌に戻っていた。


「おめでとうございます。次は強化ですね」

「いや、肝が冷えたからやめてよ……」

「この程度の傷なら自分でも治せるので。それより強化はどうでしょうか?魔力を放出する感覚は掴めたと思いますが」


 うん、強化ね……分からないんだよなぁ。────剣を振れば分かるか?


 剣を両手で持ち、右下へ剣先を向けて力を溜める。全身を魔力が包む感覚。それは剣をも包み、自身の周囲に渦巻いて留まる。

 そして、気合いの声と共に、剣を斜めに振り上げた。


「おっ……らぁぁ!!」


 剣が纏う渦は俺の向く方向へ、刃となって飛ぶ。轟音を上げながら、風の刃は地面を裂き、木々を砕き、夜闇に溶けていった。


 確かな手応えを感じ、振り向きつつウキアに尋ねる。


「今のどう?かなりイケた感じがあったけど」

「風だけでした」

「……マジかぁ」

「ですが、強化も無くそれだけの力があるならば、それは強化が使えるよりも遙かに凄いことではないでしょうか」


 慰めてくれているのだろう、きっと。

 それに、強化を使えるらしいウキアがそう言ってくれるのなら、それでいいんじゃなかろうか。


「じゃあ俺の使える魔法は、風と回復だけかぁ……」

「まだ使おうと考えないだけで、他の適性があるかもしれません」

「それを調べられる人っている?」

「希少魔法で存在するかもしれませんが、僕は聞いたことがありません」

「それじゃ仕方ないか」


 さて肉は……焦げた。

 焦げた部分を切り落とし、十分に火の通った肉を一口大に切っていく。包丁が無いから難しいかと思いきや、何故か身体に剣の使い方が染みこんでいるため、驚くほどサクサクと切り分けられた。

 お互い手掴みで肉を取り、若干恐れながら口に放り込んだ。


「────ぉうっ、……っぐ」


 危うく吐き出すところだった。

 血生臭い中に謎の渋みがあり、なんとか飲み込んだ今になって舌がピリピリと痺れている。恐ろしく不味い。多分人が食べるべきものではない。

 いやしかし、眼前のウキアは顔色ひとつ変えない。もしかして、この世界では標準的な肉の味なんだろうか。そう思い尋ねてみる。


「いえ、とても食べられたものではないですね。ですが食べなければ死んでしまうので」


 そう答えながら、ウキアは劇物を次々に口へ運んでいく。

 俺はそっとその場を離れて、火にくべる枝を取りに出た。


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